CIOインタビュー――政府CIOは、責任とやりがいのある仕事Interview

「政府機関のCIOは、民間企業と比較して対象範囲が広大で幅広い技術に接することができるという点で、非常にやりがいのある仕事だ」――テネシー州政府CIOのログネホー氏は語った。

2005年12月09日 10時26分 公開
[TechTarget]

 テネシー州政府は、米国でもIT化およびEガバメント化に積極的な州と評価されている。そのテネシー州政府のCIOは、民間企業でのCIOやCEOの経験も豊富なログネホー氏。同氏は州政府のCIOという仕事を、広範囲に及ぶ責任が与えられ、どの業界分野と比べてもはるかに広範な技術に接するチャンスがある仕事と捉えている。

 民間企業のCIOとの違いやデュアルチーム体制の導入といった改革、注目する新技術などについて、同氏に話を聞いた。

 リチャード・ログネホー氏は、政府機関および民間企業のCEO、CFO、CIOなど幅広い経歴の持ち主だ。しかしIT分野のベテランである同氏の現在の職務は、これまでで最もやりがいがある仕事のようだ。同氏は現在、テネシー州政府のCIOである。州全体が顧客であるということに伴うプラス面、納税者がボスであるということで苦労する問題、公共部門での仕事と以前に民間企業で働いた経験との比較などについて、同氏に話を聞いた。

―― 民間部門と公共部門の両方で働いた経験をお持ちですが、どちらの方がやりがいがありましたか。また、その理由も聞かせてください。

ログネホー 景気の状況や公共部門での責任範囲などにもよりますが、民間、政府どちらにおいても、予算の拡大あるいは緊縮という現実があります。そして、リスクもあればやりがいもあります。2年前までなら、民間部門の方が厳しいと言っていたでしょう。しかし、全州的なミッションを明確化するという複雑な業務のおもしろさを知って、考えが変わりました。この業務は、市民により良いサービスを提供しようと努力している約30人の州議会上院議員、100人の下院議員、45人の州政府機関の長官や執行ディレクターと連携して進めていく必要があります。そして、同じく洞察力に優れた200人以上の副長官、長官補佐および主計官、各政府機関に勤務する45人の情報システムディレクター、そして優れたビジョンの持ち主である州政府のCEOもいます。全部合わせると、有能なリーダーの巨大なグループとなります。ですから公共部門は、仕事中毒の人にとっても決して退屈することのないチャレンジングな分野だと言えるでしょう。

―― ITプロジェクトでROI(投資対効果)やTCO(総合保有コスト)を設定する方法は、民間企業のCIOと政府のCIOでは大きく異なるのですか。

ログネホー あらゆるCIOの立場や環境を一般化するのは難しいですが、連邦政府レベルでの仕事以外でわたしが経験した範囲では、州政府のIT部門はROIに対する要求がどこよりも厳しいと言えます。もちろん民間企業にも、公的資金に対するROI要件が満たされているかを確認する議会小委員会に相当する組織があります。しかし、わたしが過去数年間に経験あるいは開発した4社民間企業のTCO/ROIシステムと比較しても、テネシー州は新規プロジェクトに対して非常に先進的なプロセスを適用しています。緊縮財政の時期にあっても、首脳陣が各政府機関に対して「成果を競う」ことを求めるため、IT部門は厳格なフォーマットに従い、10年間のライフサイクルに基づいて、総合的な提案書を提出するのです。現在進行中および過去のITプロジェクトの見直し作業も行っており、コスト超過が10%を上回るプロジェクトや要件の変更などは、即座にレーダーに引っかかるようになっています。10万ドルを超える規模のプロジェクトはすべて、書式が標準化された月次リポートを使って管理されます。このリポートはイントラネット上で提供されていて、すべての部課の長が見ることができるようになっており、「ダッシュボード」型のインジケータ表示により、コストとスケジュールを一目で把握することができます。

 もちろん、公共部門でも民間部門でも、ROIやTCOがあまり期待できなくてもITプロジェクトを推進せざるを得ないケースがあります。「とにかくやる」しかなく、予算を投入しなければならないようなケースです。例えば、これは全国調査を通じて明らかになったことですが、ERP(Enterprise Resource Planning)プロジェクトに取り組んでいる州の中でROIを求めている州は極めて少数なのです。これらの州では、とにかくビジネスプロセスやレガシーシステムのアップデートが必要だと考えているのです。電子商取引や電子政府のプロジェクトに関する調査でも、同じような結果が得られました。いずれのケースでも、われわれは今後も、こういった投資について厳密な費用効果分析を適用するつもりです。

―― あなたが今の仕事に就いたとき、テネシー州のITインフラはどんな状況でしたか。

ログネホー わたしは、テネシー州で15年間にわたってCIOを務めた伝説的な人物の後釜に座り、非常に献身的なITリーダーからなる支援部隊を受け継ぎました。わたしが入って以降の成果はチームで実現したものなので、ここからは「われわれ」という言葉を使います。州全体がサービスの対象となるわけですから、技術の配備規模も半端なものではありません。テネシー州は、ネットワークサービスの中央プロバイダーあるいは管理機関としての役割を果たしています。わが州はISP(インターネットサービスプロバイダー)やASP(アプリケーションサービスプロバイダー)でもあり、また、SAN(ストレージエリアネットワーク)アプリケーション、面積約3エーカー(約1万2000平方メートル)の全州規模のデータセンター、スタッフの研修を行うための全州規模の情報システムカレッジ、H.320/323をベースとしたビデオテレカンファレンス、画像処理システム、複数のワイヤレスアプリケーション、データウェアハウジング、GIS(地理情報システム)、3万8000人のユーザーを抱える電子メールシステム、そしてサイバーセキュリティのためのネットワークオペレーション&セキュリティセンター(NOSC)を持っています。

―― 就任以来、多くの改革を実施しましたか。

ログネホー 多少は実施しました。中央のIT部門のトップレベルの組織改革では、大きな支援を得ることができました。それまで17人の執行ディレクターがいましたが、現在は4人です。われわれは、重要なITリーダーを確保するために給与をアップする一方で、給与・報酬に関する国際的なリーダーを採用し、WAN技術者、ビジネスアナリスト、ITセキュリティマネジャー、ITプロジェクトマネジャー、データベース業務担当者の給与の見直しを行いました。ITプロジェクト管理のための新しいビジネスプロセスも導入しました。さらに、専門スタッフの「デュアルチーム体制」も導入しました。これは、1つのチームが新規プロジェクトの構想段階から最終的な導入までを担当し、もう一方の補助チームがハードウェアおよびインフラ面を担当するという方式です。

 デュアルチーム方式は、より多くのITプロジェクトを成功させるのが狙いです。この新方式を導入して6カ月以内で、合計で2億5000万ドルの各種新規プロジェクトを監督しました。われわれは、ディザスタリカバリ体制を強化すべく、スタッフの拡充および新しいコールドサイトの設置を行いました。州の記憶装置(DASD)の容量を5Tバイト(テラバイト)から8Tバイトに、さらには20Tバイトへと増強したほか、175万本のカートリッジテープを仮想テープに移行する作業にも着手しました。連邦政府の国土安全保障およびサイバーセキュリティの現状を考慮し、2002年半ばに月例のITセキュリティタスクフォースを新たに設立するとともに、ネットワークへの侵入を24時間体制で監視するためにスタッフを増員しました。

 また、コンサルタント業務をアウトソーシングするという従来の傾向を逆行させる方針を運営委員会に提案しました。コンサルタントが380人も入っていて、州の職員とコンサルタントの間仕切りが交互に並んでいるという状態になっていたからです。彼らは就職員と同じような仕事をしていながら、ずっと多くのお金をもらっていました。当初、政府機関のITスタッフの総数が1700名で、そのうち本部スタッフが350名だったのに対し、このプロジェクトの結果、現在では本部のITスタッフが500名、全体で1900名になりました。プロジェクトの初年度で450万ドル節約し、その後毎年550万〜600万ドルの経費削減を実現しています。この節約で浮いた資金の一部をスタッフの給与調整のために使うことによって、われわれの競争力を高めるのが目標です。

―― ITの活用という点で言えば、テネシー州はほかの州と比べてどうですか。テネシー州の全州規模のネットワークおよびWebサイトは、それぞれの分野でナンバー1にランクされていますが。

ログネホー すべては優秀なスタッフのおかげです。わが州には有能なITリーダーがたくさんいます。また、ほかの多くの面においてもテネシー州がリードしていると考えています。わが州のネットワークは昨年、全米州政府CIO協議会の受賞選考で大いに善戦しました。この競争は非常に接戦となりました。幸いにも、わが州には以前から、電子政府と電子商取引の分野で優れたビジョンを持ったリーダーがいましたので、3年連続で全米上位4位以内に入りました。昨年は第1位に輝きました。オンライン化について言えば、われわれはこれまでに、財務やその他の重要なビジネスプロセスで正味トランザクションを170万件以上実行し、また、当州のサイトには1カ月当たり150万件のアクセスがあります。各州政府機関は、合理的な技術の活用を促す推進力になっています。当州のITスタッフは全員、IT分野で最先端の地位を維持したいと考えています。

―― 全米的に州政府の予算の緊縮化が進んでおり、テネシー州も例外ではないと思います。IT予算は削減されましたか。

ログネホー はい。2003年には9%削減されました。これは厳しい試練でした。というのも、われわれは一連の複雑なチャージバック(払い戻し)を通じて運営資金を得ているという点では、ほとんどの州政府のIT部門と同じです。しかし、われわれの運営コストや、われわれのサービスに対する各政府機関の要求については、主要分野では一律9%の削減の対象にはなりませんでした。これは、われわれだけの力によるものではなく、フィル・ブレデセン州知事の予算管理に関するビジョンと強力なリーダーシップがあったからです。加えて、議会の積極的な支持を得られたおかげで、テネシー州は政治的な利害対立の中で難しい判断を強いられることがありませんでした。これは、ほかの州の手本にもなるでしょう。

―― 経済状況はテネシー州のIT状況に関係がありますか。

ログネホー 経済状況はわが州のIT状況に直接影響を及ぼすと思います。ITリーダーらは予算が付かなった要求を積み上げておき、州の財政が改善したときに、ほかの優先項目と予算獲得競争ができるよう準備しておく必要があるのです。

―― テネシー州では、オフショアアウトソーシングをどの程度実施あるいは計画しているのですか。政府業務のオフショアアウトソーシングの禁止に向けた連邦および州政府レベルでの法制化の動きに賛成ですか。

ログネホー それについては両極端の意見が存在するというのが公平な見方です。われわれは現在、ごく一部の業務を海外に委託しています。業務のオフショアアウトソーシングに関する判断は、国家レベルあるいは州レベルの政治的課題として取り組まなければなりません。すでに一部の政府機関のCIO、ならびに米国防総省の軍事関連業務やその他の国家機密に関連する業務を請け負っている企業は、国家利益を保護するために何らかの措置を講じる必要があると感じています。いずれにせよ、これらの問題が解決するまで、CIOは機能・技術要件を厳密に記述し、実績に基づく支払条件を明確にしなければなりません。一部の企業のWebサイトや、公開された取締役会あるいは理事会の戦略の中には、オフショアアウトソーシングへの関心が示されているものもあります。

―― テネシー州は現在、どんな新技術に注目しているのですか。大きな変化やキラーアプリケーションが現れる兆しは見えますか。

ログネホー 州政府のキラーアプリケーションの中には、必ずしも直接的な変化につながらないものもありますが、最近では、エキサイティングな変化の可能性も見えてきました。テネシー州では、独自のメディケイド(医療扶助制度)システムの基盤として18年前から使ってきたCOBOLアプリケーションを、画像処理、CRM、コールセンター機能、ERP的な財務機能を備えたモダンなシステムに移行する作業を進めており、これは大きな前進となるでしょう。州知事オフィスも「1-Stop Online Business Permits」と呼ばれるシステムに移行中です。これは、現在のばらばらなプロセスを統合する素晴らしいシステムです。各種の許可証をオンラインで検索できるので、申請から認可までの処理の迅速化が可能です。同様のプロジェクトでこの技術の先駆けとなったのが、ユタ州のIT部門です。ネットワークの可視性を高め、ドメイン管理を可能にするエンタープライズディレクトリの導入は大きなメリットをもたらす可能性があります。また、少ない投資で手早く得られる効果として、グローバルディレクトリを利用したプロビジョニングによる経済的メリットがあります。ワイヤレス携帯デバイスは特に新しい技術ではありませんが、公共部門のCIOのニーズを満たすべく着実に進歩しつつあります。地理情報システムの分野では、位置情報に基づいたサービスに期待しています。既存のデータベース情報を任意の範囲の地理座標にリンクし、人々がインターネットや携帯デバイスを使って、主要なオフィスビル、デイケアセンター、その他の公共施設を見つけられるようにすることによって、どのような付加価値が得られるのか検討を始めています。

―― 民間企業のCIOに政府のCIOの仕事を勧めたいと思いますか。

ログネホー はい。対象範囲が広大であり、しかも幅広い技術に接することができるという点で、本当にやりがいのある仕事です。民間部門と比べると収入が減少する可能性はあり、個人としてこの点に納得できることが前提となりますが、公共部門のCIOというのは、広範囲に及ぶ責任が与えられ、どの業界分野と比べてもはるかに広範な技術に接するチャンスがある仕事なのです。われわれが奉仕する市民の実際の生活のさまざまな側面を改善することができます。

(この記事は2004年4月3日に掲載されたものを翻訳しました。)

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