BIの今を知れ! それが成功の礎となる失敗しないBI導入術〜入門から実践まで〜【前編】

BI(ビジネスインテリジェンス)は、レポーティングや多次元分析(OLAP)ツールという領域から脱皮し、企業競争力強化のためのパフォーマンスマネジメントへ、そして、BIで活用対象となるデータ基盤の提供に至るまで、その適用範囲を拡大している。

2007年02月14日 00時00分 公開
[TechTarget]

日本ビジネスオブジェクツ株式会社

マーケティング部マネージャ

畝見 真氏

【専門分野:BI、EPM、EIM、BSC】

SEとして各種業務アプリ構築に携わり、1994年から外資系BIベンダーにて、プリセールスとして導入支援、マーケティングとしてBI/パフォーマンスマネジメント普及に従事。現在は、日本ビジネスオブジェクツ株式会社にて、マーケティングマネージャとして包括的なBIソリューションの拡販および普及に従事。


「BIといえばレポーティングや多次元分析(OLAP)ツール」だった時代は遠く過ぎ去り、今や経営を「見える化」し、企業戦略を現場のアクションに結びつけ、企業競争力を強化するための手段として進化してきている。BIは、部分最適な活用から標準化された全体最適な活用へと移行し、また、BIを擁した全社的な情報活用や業績管理はCIO最大の関心ごとの1つに必ずランクインするほど、企業にとってその重要性が増してきている。一方、全社的な情報活用のニーズが高まれば高まるほど、活用対象であるデータそのものの品質や信頼性が課題として浮かび上がってくる。

 企業内に散在するデータ内の欠陥を発見・訂正・集約し、整合性のとれた状態でデータウェアハウスやデータマートに統合する。さらに、データ統合から情報活用に至るまでの包括的なBIソリューションによる信頼性の確保が、日本版SOX法、内部統制対応という観点からも必須要件になってきている。

BIツールの登場と変遷

 1990年代にBI(ビジネスインテリジェンス)ツールが登場して、はや十数年が経過しようとしている。登場以前は、企業内で一部のアナリスト(分析者)がデータを分析し、その結果をユーザーに提供、またはIT担当者がユーザーからの要求に応じて必要なデータの抽出からリポート作成、そして提供までを請け負っていた。

 しかし、このスタイルでは、ユーザーは必要な情報を入手するために数日から数週間待たされることになる。これでは、情報を受け取ったときには、状況が変化してしまっていた、ということになりかねない。一方、IT担当者は、ユーザーからその度ごとの要求に答えるために多大な工数をかけていた。実際、対応が追いつかず、多くのバックログを抱えているケースが少なくない。バックログ=経営ロスとも言えるだろう。

 こうした課題を解決し、企業内の各種業務アプリケーション内に大量に蓄えられたデータを情報に変え、ユーザー自身の手で必要なときに必要な情報を入手し活用するために、BIツールが登場してきた。

 私がBI業界に足を踏み入れた1994年当時、BIツールとしては、デスクトップ版のレポーティングツールが主流で、OLAP(多次元分析)の概念を顧客に説明するのに苦慮していた時期であった。また、リポート作成や多次元分析、非定型データ検索ツールを使っていたのはパワーユーザーと呼ばれる層が中心であり、一般ユーザーは彼らの作成したリポートや分析結果を定型的に見るにすぎなかった。

 さらに、多くの企業では、部門ごとやプロジェクトごとに課題を解決する手段として、異なるBIベンダーから異なるBIツールを導入し、活用してきた。そのため、情報の共有も困難で、複数の異なるBIシステムを運用管理するためのコスト増などに頭を悩ませていた。

 2000年に入り、長引く景気低迷や企業を取り巻く環境の急激な変動の中で競合優位性を高めるためには、こうした部分最適のアプローチではなく、全体最適のアプローチが必須になってきている。つまり、全社で一貫した情報活用や全社業績管理・経営管理に役立つ手段としてBIを活用していくというものだ。

 BIベンダー各社も全社的な活用を支援するために、企業の主要業績評価指標(KPI)をモニタリングするためのスコアカード機能や業務状況を1画面に集約し、ビジュアルに可視化可能なダッシュボード機能などを搭載した。さらに、これまで別個に提供してきたツール(機能)を単一の基盤上に統合し、全社における容易な情報共有や運用管理コストの削減に貢献できる統合BIスイート製品を提供してきている。

photo 《クリックで拡大》 異なるBIツールを導入するのではなく、単一・統合BIツールでコストを削減する方向へ変動してきている

統合BIプラットフォームとBI標準化

 前述した通り、多くの企業では、部門ごとやプロジェクトごとに課題を解決する手段として、異なるBIベンダーから異なるBIツールを導入し、活用している。この結果、企業内には平均6種類以上のBIベンダー製品が混在しているともいわれ、困難な情報共有や高い運用管理コストに頭を悩ませている。

 この原因は大きく分けて2つある。1つは、情報活用に関わる全社的な組織体の不在にあり、もう1つは、機能別に分断されたBIツールにあった。後者に関しては、統合BI製品の登場によって解決される方向にあると考えていいだろう。問題なのは、前者だ。一部の大手企業を除き、ほとんどの企業では、「情報活用」の領域を統括する組織体など存在しない。この組織体はBICC(BIコンピテンシセンター)と呼ばれ、BIを標準化し、全社的な情報活用における効果を最大化するには欠かせないものだ。

photo 《クリックで拡大》 いろいろなBIツールが混在していて情報共有が難しいだけでなく、それを統括する組織(BICC)が存在しない企業が多い

 BICCは主に以下のような役割を担う。

  • 導入するBIツールの基準を明確化
  • 要件の取りまとめと適切なアドバイス
  • BIベンダーとの関係強化
  • BIシステム導入・開発に関わるリソースの最適化
  • BIベストプラクティスの共有、など

 もちろん、BICCという組織を新たに設けるのではなく、全社を統括するIT部門が兼務する形態でも構わないだろう。ただ、IT担当者だけで構成されるべきではなく、ビジネス部門からの参画が強く推奨される。

 こうした組織体によってBIが標準化されることによって、以下のようなメリットが得られる。

  • コスト削減(ツール選定/評価コスト、購入コスト、開発コスト、運用管理コスト、など)
  • 一貫性のある全社情報共有/活用による企業競争力強化
  • コンプライアンスへの対応(セキュリティ統合、情報アクセスログ統合、IT統制の一環としてのBI統制、など)

 しかし、単純に考えても混在するツールの種類数が多くなればなるほど、標準化する際の痛みは大きくなってしまうため、早めの手当てが望まれる。これからBI導入を検討する企業では、こうした組織体による標準化を念頭においたアプローチが推奨される。

※“BI標準化=企業内でBIツールを1つに限定する”ということではない。部分最適の結果として気が付いてみると、よく似た機能を持った製品が各所に点在している状態が好ましくないのであって、BIツールの基準を明確化することによって、実際には目的別に機能の重複しない複数のツールが企業にとっての推奨製品となる場合もあるだろう。

photo 《クリックで拡大》 企業全体のBIを標準化するためには統制する組織が不可欠だ

 このように、BICCやBI標準化の必要性が出てきたのは、全社的な情報活用のニーズが高まりをみせていることにほかならない。情報が可視化され、経営が「見える化」されるとともに、可視化対象であるデータそのものの品質や信頼性が新たな課題として浮かび上がってくる。

あなたが日々見ているその情報は信頼できるものですか?

 BIでデータが可視化されることによって、表示される値の誤りに気付くケースが増えている(中には誤りに気付かずに使用されているケースもあるだろう)。原因としては、データの欠陥や整合性の不備などが考えられる。BIで効果的な情報活用や業績管理を実践するためには、統合されたデータ基盤が必須となる。そして、こうした統合データ基盤に求められる要件として、以下のような3つの命題がある。

データの一元性、一貫性の確保

 企業内に散在するデータソース内から必要なデータを抽出・変換加工し、データウェアハウスやデータマートを構築することによって、一元性・一貫性を確保する。

データ品質の向上

 「ゴミを入れたらゴミしか出てこない」。データソースの内容を事前に評価分析し、欠陥データの発見やデータの有効性を認識し、データをクレンジングする。

データの信頼性の確保

 データソースから最終的にユーザーに提供される情報に至るまでの統合的なメタデータ管理によって、元データの変更がデータウェアハウスのどこに、どのリポートに影響するのかを一目瞭然で確認できる。

photo 《クリックで拡大》 信頼ある統合データ基盤には、3つの命題をクリアする包括的なアプローチが必要

 以上のような命題をクリアし、信頼ある統合されたデータ基盤の構築が必要となるのだが、多くの企業(弊社のアンケート調査ではデータ統合を実施している企業の約6割)では自社の独自開発による仕組みが用いられていることが分かっている。独自の仕組みでは、多大な開発期間や工数を必要とし、新たな要求に対する迅速な対応が取れないだけでなく、専門の技術者への依存度が高く、担当者が退職してしまうと誰もメンテナンスできなくなってしまう危険性もはらんでいる。そこで、汎用的なツールの活用が望まれる。

 データ統合、データ評価、データクレンジングに高性能かつ汎用的なツールを活用することによって開発生産性が向上し、コストが削減され、メンテナンスの容易性が増す。さらに、データ統合から情報活用に至る包括的なソリューションを採用することによって、IT管理者は元データの変更がDWHのどのテーブルのどの項目に影響を与え、どのリポートのどの値に影響を及ぼすのかを一目瞭然で把握できるようになり、情報の信頼性を容易に確保できる。これは、昨今話題の日本版SOX法や内部統制対応における「信頼ある情報の開示義務」を、ITという側面から支援できる最適な手段の1つでもある。

photo 《クリックで拡大》 メタデータの関連性を把握できることは内部統制対策にも役立つ

 以上のように、前編ではBIの登場から統合化・スイート化への進化、そしてサイロ的な活用ではなく、BICCといった組織体を通してBIを標準化することの重要性、さらには、活用対象であるデータ基盤の信頼性確保が肝であることを紹介した。後編では、BIの導入・実践段階における勘所を、開発手法や適材適所のアプローチ、啓蒙と教育などいくつかのポイントに絞って探ってみる。

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