SOA、SaaS、DPWS、WSD、SOAP、XRBL――。こうしたITのアルファベット略語すべてに付いて行けている人などいるだろうか。幸い、ほとんどのIT担当者にとってその必要はない。WebサービスプログラマーならDPWS(Devices Profile for Web Services)の意味とそれが何のためのものかを知っておく必要があるかもしれないが、ネットワーク管理者はほとんど気に留めていないだろう。
一方でCIOは、Webプログラマーやネットワーク管理者と知的な会話をする必要がある。結果として、CIOの多くがアルファベット略語の海でおぼれる危機にひんしている。
「セキュリティ担当者なら、自分の分野の用語だけ知っておけばそれで済む」と話すのは、IT顧客を対象とした販売・マーケティングコンサルタント会社Gen18のジェイ・アオCEO。「しかしCIOの場合、各領域・分野にわたって知的な対話ができなければならない」
IT責任者にとってその重要性はますます高まり、そして困難にもなっている。ビジネスプロセスマネジメント(BPM)やエンタープライズリソースプランニング(ERP)、サービス指向アーキテクチャ(SOA)、エンタープライズシステムマネジメント(ESM)といった機能横断的技術や分野が台頭する中、「もう誰も自分の専門分野の中だけでは仕事ができなくなった。セキュリティ担当者でさえ、インフラやアプリケーションに言及する必要が生じている」とアオ氏は言う。
もちろん、アルファベット略語の海を泳いでいるのはIT担当者だけではない。どんな業界でも難解な専門用語やアルファベット略語を使っている。「会話をスピードアップする手段として、人は自然とアルファベット略語に傾く傾向がある。カスタマーリレーションシップマネジメントの代わりにCRM、エンタープライズリソースプランニングの代わりにERPといった具合だ」と、Fortune 500社多数で働いた経験を持つIT幹部のバート・ダマー氏は解説する。各種技術分野の専門家は「別の技術分野や別の業界の相手と話をし、会話を中断して説明しなければならなくなるまで、自分がアルファベット略語を使っていることにさえ気付いていない」
CIOは、部下から無知と思われることは避けたいものだ。しかしITアルファベット略語に追い付くのは、専門家にとってさえ難しいこともある。流行のアルファベット略語がすぐに死語になったりすたれてしまったりする。新しい意味を持つことさえある。

一例を挙げると、標準化団体のDMTFは1996年に名称を「Desktop Management Task Force」から「Distributed Management Task Force」へと変更した。これは、システム、ネットワーク、アプリケーション、サービスを管理するための標準であるCommon Information Modelの開発・促進というDMTFの使命を反映したものだった。
独立系の情報セキュリティコンサルタントでブログ執筆者のケビン・ビーバー氏によると、特に困るのは「Vendor-Fluffed, Marketing-Focused(VFMF:ベンダーが膨らませた売り込み目的用語の意)の頭字語」だという。ベンダーは常に自社の売り込み口上や製品を業界標準とすることを狙い、さらに多くの要素――それに混乱を――持ち込んでいるとビーバー氏は指摘する。
頭文字から内容を推量するのも簡単ではない。アオ氏が例に挙げたCiscoのセキュリティイベント監視製品「MARS」は「Monitoring, Analysis and Response System」のことだ。しかし「Monitoring, Auditing and Reporting System(またはService)」の頭文字とも解釈できてしまうと同氏は言う。
さらに悪いことに、1つのアルファベット略語が複数の意味を持つこともある。Wikipediaを調べてみると、CRMには1ダース以上の定義がある。IT管理者ならもちろん、これはカスタマーリレーションシップマネジメントのことだと思うだろう。しかし勤務先が投資会社で、CRMとはクレジットリスクマネジメントのことだと思っているエンドユーザーを相手にしなければならない場合はどうだろう。
では、CIOがアルファベット略語の海に溺れないようにするにはどうしたらいいだろう。「自分が接触する別の領域や分野の業界誌に定期的に目を通し、業界用語や主な用語を知ろうと努めることだ」とダマー氏は助言する。その用語をWebで検索し、Wikipediaから始めるといい。用語の意味を説明してくれるソフトウェアツールもある。
しかし業界関係者の一致した意見として、あふれるITアルファベット略語に対処する最善の方策は、それが何の頭文字なのか考えて悩むよりも、その言葉が意味する実質的な内容に目を向けることだ。
ビーバー氏は言う。「IT用語を連発して格好を付けることは誰にでもできる。しかし経営陣が理解できる形で事業に生かせなければ、実際には誰も恩恵を受けられない。雑音の中から本当に大切なものを見極めて、明確かつ簡潔に言い当てられるのがITのプロなのだ」
それでも思い違いは起こるものだ。アオ氏は展示会でベンダーの担当者に、その会社のソフトはATM(Asynchronous Transfer Mode:非同期転送モード)で実行できるかと尋ねたことがある。「営業担当者は不思議そうな顔をした。『もちろんできると思いますが、なぜATM(Automated Teller Machine:現金自動預け払い機)で実行する必要があるんですか』と聞き返された」とアオ氏は振り返った。