システム運用管理の理想形はラーメンチェーン店?マシンルームから愛を込めて【第3回】

システム情報を必死にかき集め、完ぺきなドキュメントを作り上げても、それだけでは運用管理業務は回らない。ITサービスの品質を保つためには、情報の見える化に加えて「作業の平準化」が不可欠なのだ。

2009年08月03日 08時00分 公開
[山本祥一,インフォリスクマネージ]

 前回「大惨事を招く前に……システム運用の改善は『可視化』から」では、安定したシステム運用を行うためになぜ「可視化」(見える化)が必要なのかというお話をしました。そして、「可視化は安定運用のための第一歩である」と述べましたが、今回は安定した運用サービスの実現に向けてさらにもう一歩踏み出すために、「システム運用の平準化」というお話をしてみたいと思います。

 ところで「平準化」という言葉、あまり普段の生活で使うことはありませんよね。ここで、あらためて平準化という言葉の意味について考えてみましょう。辞書で調べてみると、平準化とは「偏在するばらつきを、標準値にならす作業」とあります。何だかとっつきにくい言い回しですが、これをITサービスに当てはめて解釈してみると、「各個人がバラバラに行っていることを、誰でも実施可能な共通作業にならす作業」といったところでしょうか。そして、そのための「元ネタ」となるのが、前回お話しした「可視化された情報」になるのです。

 可視化された情報を基に、ITサービスを提供するために必要な業務プロセスを作り、それに従えば誰でも正しく作業ができるようにすることこそが、「平準化をする」ということなのです。

ラーメンの味を均一に保つには?

 ここで前回、前々回に引き続き、わたしの大好物であるラーメンの例えで説明してみましょう。わたしがよく利用する、あるおいしいラーメンチェーン店があります。どの店舗で食べても同じ味のラーメンが出てくるので、とても安心できます。

 さて、このチェーン店では一体どうやって散在する複数の店舗間で同じ味を維持しているのでしょうか? 「同じ食材を使う」「調理マニュアルを統一する」といったことは当然行っていることでしょう。

 しかし、ラーメンを一度も作ったことがない人間に食材と調理マニュアルだけを渡して、「さあ、ラーメンを作ってください」と言っても、到底無理でしょう。恐らく、調理マニュアルに書かれた手順や情報以外にも、ラーメンを作るためのさまざまな段取りが複数定められているに違いありません。

 わたしはラーメン店の内情を知る身ではないのですが、きっとラーメン1杯をお客さんに提供するために、事前の教育や実技トレーニング、味のチェックなどといった段取りが決められていることでしょう。すなわち、マニュアルや手順などの形に可視化された「情報」だけではカバーしきれない「プロセス」を踏んでいると考えられます。

 可視化された情報だけでは同じ味のラーメンは作れない、つまり品質の平準化は行えないということを何となくご理解いただけたかと思います。

平準化をないがしろにするとどうなるか……

 さて、話は戻って「ITサービスの平準化」です。ここで、ITサービスにおける平準化の重要性を読者の皆さんに分かっていただくために、あえて弊社インフォリスクマネージがかつて経験した失敗談を披露してみたいと思います。

 ある顧客のシステム運用に従事していた社員が、人事異動でその業務を離れなければならなくなりました。その案件に関しては非常に安定したサービスを提供しており、顧客からも厚い信頼を得ていました。そんな良好な案件を受け継いだ後任者に、思わぬ悲惨な状況が待ち構えているとは、そのとき誰が予想できたでしょうか……。

 この案件に関するドキュメント類は実に豊富にそろっていました。つまり、情報は十分に可視化されていたのです。ところが、顧客との間で交わされた契約の内容があいまいで、サービス提供範囲が不明確だったのです。長い間、特定の人間に依存してサービスを提供していたため、弊社担当者と顧客との間でしか分からないような暗黙のルールや作業分担が存在していたのです。

 実際に後任者が業務を引き継いでみると、ドキュメントは一通りそろっているものの、それを基に具体的にどの範囲の作業をどのタイミングで行えばいいのか、判断に迷う場面が多々発生しました。それらを作業前にいちいち顧客に確認しなければならず、そうしているうちに「前任者の○○さんなら、いちいち言わなくても分かってくれた。昔は良かった」などと嫌みを言われる始末です。日を追うごとに顧客のいら立ちは募り、とうとう「対応が遅い!」「クオリティーが下がった!」などのクレームにまで発展してしまいました。

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