中堅・中小企業が実感するコスト削減以外の仮想化メリットとは国内市場動向から読み解く仮想化

サーバやストレージの仮想化について、中堅・中小企業の中にも導入を検討する企業が増加しつつある。単純にサーバを集約することによるメリットを追うのではなく、自社システムをトータルに効率運用するためだ。

2009年11月02日 09時00分 公開
[大西高弘,TechTargetジャパン]

熱気上昇中の中堅・中小企業向け仮想化市場

 10月20日、21日にヴイエムウェア主催の仮想化ソリューション関連イベントが開催されたが、会場は同種のイベントの中でも群を抜いて参加者が多く熱気にあふれていた。各セッション会場への移動で、混雑のため身動きが取れなくなるなど最近では珍しい現象だ。また参加者の積極ぶりにも驚かされた。講演者の話が終わると、行列を作って個別に質問を投げかけるのである。中堅商社のシステム担当者という参加者の1人に話を聞いてみると、こんな反応が返ってきた。

 「発注や販売管理に使っている基幹システムサーバをどうするかで悩んでいる。仮想化することで、ハードウェアだけを新しくして、スクラッチで構築したソフトウェアはそのまま移行する手段が考えられる。しかし、本当にそう簡単に行くのかという疑問が消えない。万が一のことを考えると、情報を少しでもかき集めておく必要があると思い参加した」

 サーバを例にすると、これまで大小数百台のサーバを仮想化して大幅なコスト削減を実現したという大手企業の導入事例が紹介されることが多かった。抱えるIT資産の総数が多ければ多いほど、得られるメリットは大きくなる。「仮想化は大手企業が挑戦すること」というイメージがこれまでは色濃くあったわけだ。しかし、中堅・中小企業も自分たちが抱えるシステム上の問題を仮想化の技術で解決、改善していく方向を見いだそうとしている。

 1つは、ハードウェアとソフトウェアの分離のメリットだ。ハードウェアが老朽化し、買い替えの必要が発生する。しかし最新のハードウェアに移行することで、古いOS上で稼働しているソフトウェアも作り変えなくてはならなくなり、ハードウェアの移行が思わぬ出費となるというケースだ。Windows NT Serverなどで稼働させている業務システムが新しいハードウェアでは動かない、あるいは動作に保証が得られないとなれば、ソフトウェアそのものを改修しなくてはならない。その業務システムが会社の基幹業務を担うものであれば、いよいよユーザーは追い詰められる格好となる。そこで仮想化することでハードとソフトを分離し、新しいハードウェアに移行しても従来のシステムを稼働させるわけだ。

 もう1つは、開発環境やシステムリソースを迅速に調達でき、それに伴うシステム管理要員の負荷を軽減するというメリットだ。「支店や事業所を新設するのですぐにIT環境を整えてほしい」「新しいサービスを開発するために開発環境をできるだけ早く用意したい」といった社内ユーザーからの要望、システム部門内でのリクエストに応えるために、少ない人員で何とか切り盛りをしている中堅・中小企業にとって、仮想化はさまざまな負担を軽減してくれるものとして期待される。サーバやストレージの統合が管理業務の負担を減らし、さまざまな要求に素早く応えられるようになり、むやみにハードウェアを増設することもなくなるという寸法だ。

 ここに挙げたメリットは、すべてのユーザー企業が無条件に得られるものではない。個々の環境に見合った方策を取る必要がある。しかし、サーバやストレージの集約、統合以外にも、仮想化技術はさまざまなメリットを中堅・中小企業のユーザーに予感させるだけのインパクトを持っており、それがイベントの熱気につながっていると考えていいだろう。

レガシー資産の安全な継承も目的の1つ

 IT調査会社ノークリサーチの岩上由高シニア・アナリストは、こうした中堅・中小企業の仮想化に対する熱い期待について次のように語る。

 「この半年ぐらいで、期待度はかなり増しているのではないでしょうか。当社が行った調査でもサーバ仮想化において、2009年6月時点で実施した調査では『仮想化に関する内容やメリットを理解しており、今後利用したいと考えている』という回答は8.0%〜19.0%にとどまっていました。ですが、それから3カ月後の2009年8月の段階ではサーバ仮想化に何らかの投資意向を示すユーザー企業の割合が35%〜49%という結果が出ています。この変化は非常に興味深いですね」

 ノークリサーチは「国内仮想化関連市場規模の現状と中期予測報告」と題して2009年8月に行った調査概要を10月に発表している。調査対象は年商500億円未満の民間企業1000社で、5億円未満、5億円以上50億円未満、50億円以上100億円未満、100億円以上300億円未満、300億円以上500億円未満で分け、各セグメントで200社ずつから回答を得ているという。また、上記の2009年6月と8月に行った調査も調査対象は同様とのことだ。

 岩上氏は中堅・中小企業が仮想化に対して積極姿勢を示し始めた要因について次のように話す。

 「サーバ仮想化の目的では、年商5億円から500億円の企業では、『負荷増大時の対応』を比較的多く挙げており、物理サーバ台数の削減だけでなく、サーバ仮想化で得られる『迅速な配備』を重要視していることがポイントの1つです。一方、年商が低くなるに従って『古いOSで稼働をしている既存システムの移設』の割合が高くなっています。中堅・中小企業では、少人数のシステム部門がサポート期限の切れたOS上で業務システムを稼働させているケースも多いので、レガシー資産を安全に存続させるための手段としてサーバ仮想化が有効だと考えているのでしょう」

サーバ仮想化の目的(資料提供:ノークリサーチ)《クリックで拡大》

 また、岩上氏は別の側面から次のような見解も示した。

 「中堅・中小向け製品である「VMware vSphere Essentials」のリリースや、「Citrix XenServer」が無償提供されるようになるなど、全体として仮想化製品の価格が下がってきているのも関心を集め出した要因かもしれません。ただ、今回の調査で『仮想化を実施している』と答えたユーザーの中には、データセンター事業者の仮想サーバソリューションなどを利用しているからという理由で実施していると回答している企業もあるでしょう。ですから、例えば5億円未満の企業200社の中で98社が『仮想化を実施している』『検討している』と回答していたとしても、半数近くの企業が自社内で自ら仮想化に取り組んでいると考えるのは早計です」

「サーバ統合によるコスト削減」以外のメリット

 確かに、大半の中堅・中小企業が猛烈なスピードで仮想化に取り組んでいるということではないだろう。しかし、岩上氏も関心の高まりについては否定しない。

 「年商100億円以上の企業であれば、従業員規模が500人を超える企業も出てきます。500台以上のクライアントPCがあり、その業務を支えるサーバ、ストレージ、ネットワークなどのインフラがある。そこには当然相当の維持コストが掛かっていることになります。棚卸しをして徹底的にコスト削減を図るという見直し作業の中、中堅・中小という規模でもサーバ仮想化をコスト削減の手段として検討し始めても何ら不思議はありません。ユーザーが、新しいOSを入れるのと同じような感覚で仮想化ソリューションを導入するようになると、さらに普及が進んでいくと思われます」

 ノークリサーチは今回発表した調査で、調査対象とした年商500億円未満のユーザーにおけるサーバ仮想化ソフトウェア市場は2009年の180.4億円から2013年には369.4億円に達すると予測している。中堅・中小企業での仮想化導入は今後も増加していくという読みだ。岩上氏はユーザーへの調査からこの伸長度合いを割り出したと話すが、中堅・中小企業が仮想化に関して、現在のサーバ統合によるコスト削減以外のメリットを明確に見いだすようになるだろうと予測している。

サーバ仮想化ソフトウェア市場規模(単位:億円 資料提供:ノークリサーチ)《クリックで拡大》

 「単に5つのサーバを1つにまとめただけでは、ハードウェア障害による不具合のリスクを5つのシステムで共有することにもなりかねません。仮想化対象となる各システムの負荷を考慮せずに寄せ集めた結果、思ったようにパフォーマンスが出なかったという例もあります。ノウハウを積み重ね、リスクを回避しつつ仮想化のメリットをどこに見いだすかが問われることになるでしょう。とにかくレガシー資産を移行させることに注力するのか、システムを物理サーバから分離して可用性を高めたいのか、何をしたいのかによって検討すべきメリット/デメリットも変わってきます。結果的に仮想化活用の取り組み方も違ってきます。『何のための仮想化なのか?』を最初に明確にしておくことが大変重要です」

 現在仮想化に取り組んでいるユーザー企業からも、期待していたパフォーマンスが出るようになるまでかなりの時間、試行錯誤を繰り返したという声が聞こえてくる。低いコストで最大限のメリットを獲得できるようになるには、まだまだユーザー側もリスクを自覚しSIerと密接に協力し合う必要があるだろう。この点について岩上氏も次のように指摘する。

 「わたしの知る範囲では、中堅・中小企業を顧客に持つSIerは仮想化導入の提案にまだあまり積極的ではありません。顧客の期待度が大きい割にリスクが高いからです。オフコンで稼働させていた独自開発の古い業務システムを新しいハードウェア上で動かしたい、という場合はその業務システムが仮想環境の上で稼働するかどうか検証する必要があります。検証用の環境構築に掛かるコストの問題もあります。パフォーマンスをきちんと維持した上での移行が求められれば、ネットワークやストレージなどシステム全体でどう最適化していくかまで考える必要も出てきます。このように顧客のシステムを預かるSIerの立場からすると、ノウハウがまだ蓄積されていない段階で仮想化活用に取り組むのはまだリスクが高いと考えやすいわけです。この点については仮想化活用の事例が蓄積され、ノウハウが共有されることによって徐々に解消されていくと考えています」

ユーザーをいかに最適解に導くか

 いずれにしても、仮想化を推し進める上で旧来のシステムが仮想環境上で正常に稼働するかどうかの検証作業は避けては通れない道といえるかもしれない。しかし、自社の業務にはなくてはならない独自構築のシステムはパッケージソフトで代替できるはずもなく、ハードウェアの入れ替え期限は迫るが検証作業はなかなか終わらない……。ユーザーとしてはこうした事態にだけは陥りたくないところだ。

 岩上氏は次のように話す。

 「仮想化というとサーバだけが注目されがちですが、システムを仮想化環境に移すといった場合にはストレージやネットワークといったほかのハードウェアはもちろん、アプリケーションやサーバを監視するなどの運用管理の仕組みについても考える必要があります。システムを構成するそれらすべての要素について、『どのように構築、設定をすれば、どれだけのパフォーマンスが得られるのか?』といった標準的な尺度ができればよいのですが、それにはまだ多くの時間を要するでしょう。一部のベンダーではシステムの構成要素一式をすべて取りそろえ、診断やコンサルテーションも含めた総合的な仮想化ソリューションの提供を開始しています。自社での検証が難しい場合にはそれらを活用することも検討する価値があります」

 アプリケーションの種類によってはCPUリソースを多く消費するもの、ディスクに頻繁にアクセスするもの、昼間に多くのユーザーが使うもの、夜間に稼働するものなどさまざまな特性がある。これらアプリケーションの特性の種類に加え、前述した運用管理の仕組み、ハードウェアの組み合わせの問題などを掛け合わせて考えれば、仮想化導入の最適解を見つけるのは容易ではないことが分かるだろう。岩上氏の話す通り、中堅・中小企業の仮想化市場は今後も伸び続ける可能性は高い。しかしユーザーがより最適解に近い答えを見いだせるように導くSIerやベンダーの存在も欠かせないものになっていくだろう。

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