クライアントPCを省電力かつ安全に保つ「BIOS」ベースの管理手法とは?OSの起動状態によらずクライアントPCを効率管理

クライアントPCの省電力化と安全性向上を同時に実現する。この最適解となるのが、クライアントPC内部のさまざまな情報を生かす手法だ。その具体的な仕組みや効果を示す。

2012年11月05日 00時00分 公開
[ITmedia]

 IT担当者の頭を長年にわたって悩ませてきたことの1つに、クライアントPCの管理業務がある。管理要件が多岐にわたることがその主な理由だ。従業員が社外に持ち出したノートPCの盗難・紛失に伴う情報漏えいの防止に加え、節電の必要性が叫ばれる中、クライアントPCの消費電力の抑制も強く求められるようになっている。

 こうした多様な要求に応えるべく動き出したのが、日本アイ・ビー・エムと東芝である。この2社が手を組み、クライアントPC管理の運用管理を効率化する新たな手段を生み出した。その手段はどういった効果をもたらすのか。具体的な管理方法とは。その全容を解説する。


写真 TSCMを利用可能なビジネスノートPC「dynabook Satellite B652」

 東芝が2012年8月に提供を開始したクライアント管理ツールが、「東芝スマートクライアントマネージャー(TSCM)」である。TSCMは、クライアントPCのセキュリティや消費電力に関する設定業務を一元的に実行できるツールだ。クライアントPCのOSの起動前にサーバと通信して起動の可否を制御したり、実消費電力の可視化や電力設定の最適化、USBメモリへのデータコピーの制限といった管理ができる。TSCMを利用可能なクライアントPCは、「dynabook Satellite Bシリーズ」「dynabook Rシリーズ」などである。

図 図:TSCMの構成例

 このツールの開発に当たり、東芝が手を組んだのが日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)である。TSCMは、日本IBMのエンドポイント統合管理製品「IBM Tivoli Endpoint Manager(TEM)」をベースに開発された。TEMは、セキュリティ管理や電源管理のみならず、資産管理や構成管理、ソフトウェア利用分析など、クライアント管理に必要とされる幅広い機能を兼ね備える。

 TEMをベースに開発されたTSCMは、一般的なクライアントPC管理ツールとどう違うのか。その疑問をひも解く鍵が、「BIOS」である。

BIOSでクライアントPCの状況をより詳細に把握

 東芝がTSCMの開発に着手したのは2010年。そのパートナーとして日本IBMを選定した理由は、日本IBMはソフトウェア、東芝はハードウェアをそれぞれクライアントPC関連事業の中核に据えており、シナジー効果を最大化できると見込んだためだ。また、豊富な導入実績を誇るTEMをベースとすることで、短期間で高度な機能が実現できると判断したことも、協業を後押しした。

 開発に当たって日本IBMが目を付けたのが、東芝が独自開発してきたBIOSだ。BIOSは、OSとハードウェアを仲介し、ハードウェアの挙動を制御する役割を担う。それは裏を返せば、BIOSを利用することで、OSに依存することなくハードウェアを直接的に管理できることを意味する。

 一般的なPC管理製品における端末情報の収集はソフトウェアで実現されており、クライアントPCのOSが稼働しなければ、情報収集はままならない。一方、BIOSを利用すれば、OSが起動していなくても、CPUやHDDなどのあらゆる部品の状況まで的確な把握が可能だ。

 現在、BIOSを開発する企業はグローバルでわずか数社ほどしかない。その1社である東芝も、BIOSの活用で管理ツールの差別化を図れ、自社製クライアントPCの利便性を高められると判断した。

写真 東芝の中村憲政氏

 東芝のデジタルプロダクツ&サービス社 B2B事業推進室 開発部で部長を務める中村憲政氏は、「BIOSも自社開発している当社のクライアントPCは、内蔵部品の状況まで詳細に収集、把握できる。こうしたハードウェアの強みと、日本IBMのTEMが持つ管理機能を組み合わせることで、クライアントPCの状況をより詳細に可視化でき、クライアント管理における新たな価値創造を実現できると考えた」と、共同開発の経緯を打ち明ける。

TSCMの強みは「省電力機能」と「起動制御機能」

 TSCMは、一般的なクライアント管理製品と比べて、具体的にどのような点で優れているのだろうか。TSCMの特徴が凝縮されているのが、省電力機能と起動制御機能の2つだ。

 省電力機能は、一般的なクライアントPC管理製品が消費電力の「想定値」を基に電力管理をするのに対して、TSCMは「実測値」を基に管理する点で一線を画す。OSの起動状態にかかわらずBIOSレベルで消費電力を収集し、クライアントPCの実使用電力量をリアルタイムに把握。的確な省電力設定を実施できる。複数のクライアントPCに対して異なる省電力設定を施すことも可能だ。節電のためにTSCMを試験導入したある企業では、導入前と比較して約47%もの電力削減を達成したという。

 一方の起動制御機能は、BIOSとサーバが通信し、クライアントPCの起動確認や起動時のUSB認証を実現する。これにより、クライアントPCの紛失や盗難時におけるセキュリティリスクを大幅に低減できる。クライアントPCが接続していたネットワークから切断された場合には、画面をロックする機能も備える。

写真 日本IBMの小椋 隆氏

 日本IBM ソフトウェア開発研究所 ソリューション・ソフトウェア部長を務める小椋 隆氏は、「クライアントPCから各種情報をサーバで収集することは今までも可能だったが、電力などについては収集できる情報の精度が低く、フィードバックを行なう判断材料とするには不足で、このことがクライアント環境の改善における一番の妨げになっていた」と語る。その上で、「TSCMは、BIOSレベルでの通信機能で収集した精度の高い情報を基に、クライアントPCの状況によらず最適な設定作業を実施できる」と、TSCMのメリットを強調する。

ビッグデータでクライアント管理の高度化を

 東芝は、許可を得たユーザー企業のクライアントPCから、CPUやHDD、メモリ、ACアダプターなど、各種デバイスに関する情報をBIOS経由で収集。保守サービスの改善やクライアント管理の高度化に役立てている。同社は、クライアントPCに搭載するセンサーの数を増やすことにより、クライアントPCの消費電力はもちろん、USBポートの挿入回数やパネルヒンジの開閉回数、ノートPCが使われている角度なども検知できるという。

 「BIOSの活用とTSCMが収集するさまざまなデータを組み合わせて解析することにより、さらなるクライアント環境の改善につながる知見が得られる可能性がある」(中村氏)

 東芝と日本IBMは今後、クライアントPCのみならず、スマートデバイスなどの管理にもTSCMの活用を進める考えだ。BIOSの活用によって高度なクライアント管理を可能にするTSCMは、クライアント管理の新たな可能性を切り開くだろう。


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