佳境に入った大規模IT刷新プロジェクトを率いるリーダーの心得とは?業務部門にとってIT部門はどうあるべきか?

英公益信託団体のWellcome Trustは2013年、コアインフラストラクチャを全面的に入れ替える。同団体のIT部門を統括するマーク・ブラムウェル氏にプロジェクトについて話を聞いた。

2013年05月08日 08時00分 公開
[Angelica Mari,Computer Weekly]
Computer Weekly

 英公益信託団体のWellcome Trust(ウェルカムトラスト)は2013年、5年にわたるIT計画の2年目を迎えた。IT部門を統括するマーク・ブラムウェル氏は、Wellcome Trustに入職以来最大のプロジェクトの陣頭指揮を執る準備を進めている。

 Wellcome Trustは、139億ポンドの資産を有する、世界有数の医学研究支援公益団体だ。付属図書館(Wellcome Library)のデジタル資料が増大したことや、より機能的なコアシステムやユーザー機能の強化が必要になるなどさまざまな要因から、ITの刷新を迫られた。現在、IT部門は重要なプロジェクトを並行して急ピッチで進めている。

注:本記事は、プレミアムコンテンツ「Computer Weekly日本語版 2013年4月17日号」(PDF:無償ダウンロード提供中)に掲載されている記事の抄訳版です。

 2012年は、新しいネットワークの導入や障害復旧サービスの移転など、ITの基礎部分が整備された。その次の12〜18カ月はコアインフラストラクチャを入れ替えることになる。

 「2012年の仕事は、Welcome Trustのスタッフからはほとんど認識できないものだった。2013年は、新しいデスクトップPC、新しいノートPC、今よりもスマートな業務プロセスなど、目に見えてメリットが分かることをしていく。どの年も重要だが、2013年は特に重要だ。どのプロジェクトも職員全員が認識できるものだからだ」とブラムウェル氏は語る。

ストレージのアップグレード

 最も大掛かりで、最初に取り組むプロジェクトは、ストレージ環境の入れ替えだ。Wellcome Trustのデータ量は、付属図書館のデジタル化計画の影響もあり、爆発的に増えている。この計画では8万冊の書籍、2万点の医学関係のエフェメラ(訳注:一時使用を目的とした1枚だけの印刷物)、手稿(マニュスクリプト)、画像、その他医学の歴史や進歩に関する膨大な数の資料をスキャナで読み取り、デジタル化する。

 これまでに150万点の資料がデジタル化され、データは既に2Pバイトに達している。今後数カ月でさらに増大する見込みであるため、新しいストレージシステムへの移行は急務だ。

 そこで、Wellcome TrustはOracleとの5年間にわたる契約を終了して、古いストレージシステムを置き換えることにした。新システムの競争入札を実施し、これにはDell、HP、EMC、NetApp、そして現行のOracleなど、ほとんどの大手ベンダーが参加している。

 「最大の目標は、ストレージを3カ所に用意して、業務継続性を確保できるソリューションを構築することだ。3カ所のサイト間で同期または非同期にデータをレプリケートするシステムを導入する予定だ」(ブラムウェル氏)

 5月初めに導入が完了する新しいストレージシステムは完全に物理的なシステムだが、増え続ける図書館データを考え、IaaS(Infrastructure as a Service)の利用も選択肢の1つとして検討されている。

 「Pバイト単位で増えていくデータをWellcome Trust自体のデータセンターで維持・管理するのは避けたい」(ブラムウェル氏)という理由からだ。

 Wellcome Trustは現在、データソースを共有する3つのデータセンターを運用している。業務時間中はブラムウェル氏のチームが管理し、業務時間外は英Selection Servicesに監視とオペレーションを委託している。

 ブラムウェル氏によると、最近、入職以来進めてきた仮想化計画の成果が出てきたという。3年前までWellcome Trustには300台の物理サーバがあったが、現在は約480台の仮想マシンと50台の物理サーバ、これらの物理サーバ上で実行される1400のデータベースが運用されている。

ユーザーエクスペリエンスの変更

 2013年、Wellcome Trustのユーザーは、日常的に使用するテクノロジーの変化を実感することになるだろう。Windows 7へのアップグレード、約1100台のデスクトップPC、250台のノートPC、80台のAppleコンピュータの入れ替え、新しいOSへの275種類のアプリケーションの移行が、4月に完了する予定だ。

 Wellcome Trustでは、2011年にクラウドを導入している。2種類のレガシーITサービス管理システム(ITSM)をクラウドベースのITSMに移行し、60万ポンドの年間コスト削減とサービスレベルの向上を達成した。しかし、MicrosoftのOffice 365などのクラウド製品は、Wellcome Trustにとって費用的にも実用性の意味でもメリットが感じられないため、当面はOffice 2010が引き続き使われる予定だ。

 ブラムウェル氏は、「事業所が複数ある組織ではないので、(Office 365が提供する)インスタントメッセージなどの機能はWellcome Trustにとってあまりメリットはない。また、ここのITチームは非常にコンパクトなので、クラウド製品に替えたところで、現在のサポートと保守に掛かるコストを削減できるとは限らない。ただし、この方針は将来見直す可能性はある」とその理由を話す。

 Microsoftのクラウドソフトウェア製品を採用しない理由には、ストレージ容量が限られていることや、サポートするメールアカウント数の問題、BlackBerry Enterprise Serverと統合できないことも含まれる。

続きは「Computer Weekly日本語版 2013年4月17日号」(無料)にて

Computer Weekly日本語版 2013年4月17日号

ブラムウェル氏が理事会の理解を得て、「IT部門の増強」まで実現した秘訣とは? そしてIT部門はどうあるべきなのか? 続きは「Computer Weekly日本語版 2013年4月17日号」(PDF)をご利用ください。同PDFは、

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