統合プラットフォーム製品ベンダー“ビッグスリー”の強みと弱み各社自慢の統合インフラを徹底比較(後編)

ITインフラをシンプルにし運用管理を効率化するとして企業の注目を集めている統合プラットフォーム製品。Cisco、VCE、NetAppの製品を紹介した前編に続き、後編ではDell、IBM、Hewlett-Packardの製品を紹介する。

2013年05月10日 08時00分 公開
[Bob Plankers,TechTarget]

 「ITインフラの複雑化は好ましくない」という認識の浸透を受けて、ストレージ、ネットワーク、コンピューティングリソースを、1つのユニットに統合して提供する統合プラットフォーム製品が注目を集めている。ただ、データセンターの管理者が描く統合インフラの将来像がさまざまであるのと同様、ベンダー各社の製品特性もそれぞれ異なる。自社のデータセンター効率化に最適な製品を選ぶためには、各ベンダー製品の違いを見極めておく必要がある。

 前編「今、最もお買い得な統合プラットフォーム製品はどれ?」ではCisco Systems、VCE、NetAppの統合プラットフォーム製品の概要を紹介した。今回は“ビッグスリー”ベンダーである米Dell、米IBM、米Hewlett-Packard(以下、HP)の製品を紹介する。

仮想化用途向けの「Dell vStart」「Dell Active System」

 ブレードサーバ市場の老舗であるDellは、「Dell vStart」と「Dell Active System 800」で統合インフラ市場に参入した。vStartシリーズの小型モデルは、「Dell M-series」ブレード、iSCSIベースのハイエンド製品である「Dell EqualLogic」ストレージおよび「Dell PowerConnect」ネットワークスイッチで構成される。エンタープライズ向けの大型vStartシステムには、「Dell Compellent Fibre Channel」ストレージと「Dell Force10」ネットワークスイッチが含まれる。一方、Dell Active System 800は「Dell PowerEdge M I/Oアグリゲータ」で統合ファブリックを実現する本格的な製品で、EqualLogicストレージを装備する。

 これらの製品では各種サイズが用意されており、支店・支社環境にはローエンドモデル、企業のデータセンターにはエンタープライズシステムを選択できる。Dell vStartは仮想化用途向けの製品で、「VMware vSphere」と「Microsoft Hyper-V」の両方に対応する。Dell Active System 800は仮想化用途と物理ハードウェアとしての利用をサポートし、いずれも「Dell Active System Manager」ソフトウェアで管理する。Dell Active System Managerは「Cisco UCS Manager」とほぼ同じ機能を提供し、プロファイルの配備や、物理ハードウェアの柔軟な管理を可能にする。一般的なITアプリケーション用の配備テンプレートも付属するため、ベストプラクティスに基づいてシステムを素早く構成できる。

 Dell Active System 800は今のところ、専用プラットフォーム以外の物理ホストを管理することはできない。また、Dell vStartとDell Active System 800はいずれも、「構成済みのクラウドソリューション」というよりはインフラという位置付けの製品だ。とはいえ、サードパーティー製のソフトウェアを使えば、プライベートクラウドを簡単に構築することができる。システム構成によっては、データセンターのレガシー機器を接続できる場合もあるが、サポートは限られている。この点に関しては、他社のシステムでも似たり寄ったりだ。

 「ストレージ、ネットワーク、コンピューティングの各リソースを単一ベンダーの製品で統一すると、ベンダーロックインに陥るのではないか」という心配があるかもしれないが、標準的なコンポーネントと仮想化ソフトウェアを使用するということは、出口戦略を立てやすいということでもある。

 Dellはこの数年間で総合ITサービスサプライヤーへと脱皮したことで、各種コンポーネントを組み合わせたシステムを単一の製品番号、単一のサポート契約、単一のサポート用電話番号で販売できるようになった。ユーザーにとって、トラブルがあったときには非常に助かるし、調達と導入後のサポートでも時間の節約になる。

プライベートクラウド環境を容易に実現するIBM PureFlex System

 IBMは、由緒ある「IBM BladeCenter」の技術をベースに「IBM PureFlex System」という統合プラットフォーム製品を開発した。競合製品と同様、IBMの製品も構成済みのシステムが42Uサイズのラックに組み込まれている。このシステムは「IBM Flex System Enterprise」シャーシ、「Intel Xeon」もしくは「IBM Power」CPUを搭載したブレード、そして「IBM Storwize V7000」ストレージアレイで構成される。

 OSとしては「Windows」「Red Hat Enterprise Linux」および「SUSE Linux Enterprise Server」に加え、「IBM AIX」と「IBM iSeries」をサポートしているので、これらのOSを利用している企業にとってIBM PureFlex Systemは優れたソリューションになるだろう。仮想化技術については、IBM AIXおよびIBM iSeries用の「IBM PowerVM」の他、VMware vSphereとMicrosoft Hyper-Vをサポートする。

 IBM PureFlex Systemには「Express」「Standard」「Enterprise」という3つのサイズが用意されており、価格、機能、容量もそれぞれ異なる。基本的な管理機能を提供する「IBM SmartCloud」というソフトウェアも含まれており、これにより検証・構成済みでフルライセンス付きのプライベートクラウドを実現できるという。さらに同製品には、Microsoft Exchangeなど一般的なITシステム用のベストプラクティスに基づく構成を配備できるテンプレートも含まれている。IBMでは、これらのテンプレートを「インフラストラクチャパターン」と呼んでいる。

 IBM PureFlex Systemはプライベートクラウドとして構成できるが、現時点ではパブリッククラウドをサポートしていないので、ハイブリッドクラウドにも対応できない。また、2012年7月に公表された「IBM Flex System」とIBM PureFlex Systemに関する報告書「IBM Redbook」によると、IBMはIBM PureFlex Systemで3年間の保証しか提供していない。

 こういったシステムは素早い稼働が可能なターンキー方式であるとはいえ、システムの立ち上げと運用終了にかかる時間を考えれば、実質的な保証期間は2年程度にすぎない。また、IBMによるハードウェアのメンテナンスとソフトウェアのサポートも平日のみの翌営業日対応となっている。一方、他社の多くは年中無休で4時間以内の対応を保証している。不十分な保証とサポートはIBM PureFlex Systemの重大な弱点だといえる。

ブレードベースのHP CloudSystem Matrix

 HPは、自社の従来システムである「HP BladeSystem」をベースに「HP CloudSystem Matrix」を開発した。これは「HP BladeSystem Matrix」ハードウェア、「HP 3PAR」と「HP LeftHand」ストレージ、およびHP製ネットワーク機器で構成されるシステムで、ターンキー型ハイブリッドクラウドとして位置付けられている。HPは長い間、HP BladeSystemで「HP FlexFabric」というネットワーク技術を使ってきたが、統合プラットフォームにFibre ChannelとIPネットワークを組み込む上でも同技術が用いられている。これにより「Cisco UCS」と同様、単一の統合ネットワーク接続を通じてストレージとIPネットワークをブレードサーバに接続する。

 HP CloudSystem Matrixには、本格的なクラウドソフトウェアスタックが付属しており、これにはセルフサービス型ポータル、自動化エンジン、リソース管理、チャージバック機能など、プライベートクラウドに必要なものが全て含まれている。「HP Cloud Services」や米Amazonの「Amazon EC2」などのパブリッククラウドに接続する機能も備えており、一部の企業にとっては非常に魅力的だ。

 また、HP CloudSystem MatrixはVMware vSphereとMicrosoft Hyper-Vをサポートしている。「KVM」(Kernel-based Virtual Machine)のサポート追加も予定されている。クラウド機能はHPのソフトウェアをベースとする。VMware vSphereとMicrosoft Hyper-Vはプラグインという形でサポートされている。これは、アップグレードやプラグインという簡単な方法によって新たな機能を追加できることを意味する。

 Cisco UCSと同様、管理ソフトウェアはブレード上の重要なデータを抽象化してテンプレートを作成し、これを他のブレードに複製したり、障害発生時に素早く元に戻したりすることができる。標準的なアプリケーション用の構成を素早くセットアップできる既製のテンプレートも付属する。

 標準では3年間のハードウェアの保証が付いており、5年に延長することも可能だ。エンタープライズ規模から支店・支社環境向けまで、さまざまなサイズのシステムが用意されている。HPは「拡張インフラに対応する異種環境サポート」も宣伝している。分かりやすくいえば、HP CloudSystem Matrixを既存の機器に接続できるということだ(ハードウェア互換リストに含まれていることが条件)。これは移行に有利な条件であり、既存のシステムの有効活用にもつながる。管理ソフトウェアはHP CloudSystem Matrixだけでなく、HPの物理サーバの管理にも対応している。

 Cisco UCSと同様、HP CloudSystem Matrixでは管理とネットワークインフラにかなりの初期投資が必要となる。システムが拡張すれば、この投資は回収できるが、小規模企業にとっては初期投資が問題になる可能性もある。また、ライセンス方式はHPの弱点の1つであり、HP CloudSystem Matrixについても例外ではない。ただHPの営業担当者と良好な関係を築いていれば、ライセンスの複雑さを多少緩和できるかもしれない。

拡大する統合プラットフォーム製品市場

 統合プラットフォーム製品の目的はデータセンターを簡素化することにある。簡素化はシステムの変更や配備の迅速化、そして構成ミスの減少を意味する。これは障害の発生が少なくなり、ITスタッフがより生産的な業務に従事できることを意味する。つまり、全ての人が得をするということだ。

 これを受けて、統合化をさらに進めようとするベンダーも登場してきた。例えば米Nutanixや米Simplivityは、シンプルな2Uラック搭載型のビルディングブロックという形で統合インフラを提供し、ソフトウェア定義型のストレージとネットワークを積極的に活用している。これらの製品は比較的安価な汎用型コンポーネント(コンシューマー向けのSSDなど)で構成され、ソフトウェアの信頼性という面で他の統合プラットフォーム製品と差が生じないようにしている。また、一元管理可能なインタフェースを備え、標準的な仮想化ソフトウェアに対応する。インフラを拡張する際も、新たなビルディングブロックを追加購入するだけで済む。統合プラットフォーム製品市場は今後ますます活発化していきそうだ。

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