勝手クラウドが招く“サイロ化の悪夢”を避けるために、今考えるべきことクラウドを真に使いこなす

クラウドの浸透はリソースの調達を手軽にした。だがその手軽さが、無秩序なクラウド利用というITガバナンスの乱れを招く原因にもなっている。IT環境を破綻させないために、今なすべきこととは何か?

2013年08月01日 00時00分 公開
[ITmedia]

業務部門主導によるクラウドの勝手導入が、ビジネスの歩調を狂わせる

 「個別最適の視点で業務部門が無秩序にクラウドを導入している状況を放置すれば、かつて業務部門ごとに物理サーバが乱立して企業システムが大混乱に陥った、あの悪夢が再び繰り返されることになりかねません」──こう語るのは、日本オラクル エンタープライズソリューション統括本部 エンタープライズ・アーキテクト本部でエグゼクティブITアーキテクトを務める小野沢博文氏だ。

ALT 日本オラクル 小野沢博文氏

 エンタープライズ・アーキテクト本部では、オラクルの各種製品やソリューションを横断的に活用しながら、企業に最適なITアーキテクチャや、その実現に至るロードマップ策定などを支援している。特に近年は業務部門とIT部門のニーズを取りまとめ、企業のIT戦略に沿った全社視点でのクラウド活用構想を描くサービスに力を入れている。

 小野沢氏の警告は、そうしたクラウド活用支援を通じて知った、多くの企業の実情に基づいた発言だ。個々の業務視点での最適化ばかりが優先され、業務部門がIT部門と十分なコミュニケーションを取らないまま、パブリッククラウドを導入してしまう――IT部門が関知しないクラウドの乱用は、やがて次のような問題を生じさせると小野沢氏は強調する。

  • 企業全体としての戦略的なIT活用構想が破綻を来す
  • 複数のクラウド上で個別にアプリケーションを動かすことにより、アプリケーションをまたいだ統合管理を円滑に行えなくなる
  • クラウドプロバイダーごとにセキュリティポリシーが異なるため、一貫したセキュリティポリシーの適用、統合的なセキュリティ管理が難しくなる

 特に深刻なのは、「企業全体としての戦略的なIT活用構想が破綻を来す」という問題だ。業務部門が目前の業務のことだけを考え、スピード、コスト重視で場当たり的に導入を進めれば、企業全体としてのIT活用はさまざまな面で支障が出る。

 例えば、個別に導入したSaaS、PaaS、IaaSは、多くの場合、社内のオンプレミスシステム、プライベートクラウドと連携させて使うことになる。そのため、個々のクラウドサービスと社内システムを「とりあえず連携させる」ために、その場しのぎのポイントツーポイント接続が随所で多発し、結果としてシステム間の連携構成が極度に複雑化して、まさにスパゲティ状態に陥る危険性がある。さらに、各クラウドサービスで業務データがサイロ化すれば、データ品質の低下、管理が行き届かなくなることによるセキュリティレベルの低下、運用負荷/コストの増大をも招くことになる。

いずれはパブリックとプライベートを使い分けるハイブリッド環境に行きつく

 ITガバナンスの低下、システムの複雑化、コストの増大、セキュリティ不安の増大、そしてITシステムの展開/活用における俊敏性の欠如――こうした状況に歯止めを掛けられるのは、自社のIT環境を全体最適の視点で見られるIT部門をおいて他にない。では具体的に、どうすればクラウドのメリットを享受しながらこうした問題を回避できるのだろうか?

ALT 日本オラクル 湖山 仁氏

 「そもそもクラウド活用が企業ITの大前提となっている今日、各社はクラウドも含めたシステムの使い分けについて、明確な方針を立てておく必要があります」

 小野沢氏とともに企業のクラウド活用を支援している日本オラクル エンタープライズソリューション統括本部 エンタープライズ・アーキテクト本部 シニアITアーキテクトの湖山 仁氏はこうアドバイスする。

 「パブリッククラウドの安易な導入が進行する前に、まずは自社が必要とするアプリケーションの特性、例えば利用範囲や各種要件、将来的な活用の見通しなどを把握し、それぞれのアプリケーションがパブリックとプライベート、どちらのインフラに適しているのかを整理しておくことが大切です」(湖山氏)

 下図に示すのが、一般的に考えられる「アプリケーションの特性に応じたクラウドの使い分けに関する指針」だ。こうしたアプリケーション特性の把握は、クラウドを利用する場合に限らず、必ず考えておくべきIT活用の鉄則でもある。

ALT 図1 アプリケーションの特性に応じてパブリッククラウド、プライベートクラウドの使い分けを考えることが大切

 「通常、競争力強化などの差別化につながるアプリケーションは、パフォーマンスや信頼性、セキュリティを重視してプライベートクラウド上で利用し、定型的な業務や一刻も早く立ち上げたい業務/サービスに関するアプリケーションは、導入スピードや短期的なコスト効果に優れたパブリッククラウド上で利用するという使い分けが基本です」(湖山氏)

 ただ前述のように、パブリッククラウドを利用する際には、社内のオンプレミスシステム、プライベートクラウドとのデータ連携を軸としたインテグレーションが不可欠となる。つまり、企業がアプリケーション特性に応じた“適材適所のクラウド活用”を推進すれば、いずれはパブリッククラウドとプライベートクラウド/オンプレミスシステムが混在した、以下のようなハイブリッドクラウド環境に行きつく。

ALT 図2 適材適所のクラウド活用が進めばおのずとハイブリッド環境に行きつく

 従って、こうしたハイブリッドクラウド環境の時代、IT部門は、前述した場当たり的なポイントツーポイント接続の氾濫によるガバナンスの乱れ、システム構成の乱れを防ぐことが不可欠となる。すなわち「統制のとれたクラウドインテグレーションの方針と、その実現基盤の整備」に取り組むことが、勝手クラウドが多くの企業を侵食しつつあるまさに今、強く求められているのだ。

クラウド統合基盤「Cloud Integration Platform」とは

 日本オラクルではこうした考えの下、クラウドインテグレーションのためのシステム基盤として「Cloud Integration Platform」を提供している。Cloud Integration PlatformはESB/ETLの機能と統合運用管理機能を併せ持つ製品で、社内外のクラウド上で動作するアプリケーションの連携基盤として、ユーザー企業が自社内に保持して運用する。

 「Cloud Integration Platformを介することで、各アプリケーションの場所(パブリッククラウド上にあるのか、プライベートクラウド上にあるのか)や、使用プロトコルなどの詳細を気にすることなく、それらを透過的かつシンプルな標準のインタフェースによって接続することが可能になります」(小野沢氏)

ALT 図3 ハイブリッドクラウド環境の統合基盤「Cloud Integration Platform」の概念図

 日本オラクルは、このCloud Integration Platformを連携基盤に据え、安全性、可視性、柔軟性、拡張性も保ちながら、ユーザー企業内外のアプリケーションを接続するためのリファレンスアーキテクチャと、それを具体化するソリューションも提供しているという。

 「例えば、オラクルの代表的な製品であるOracle Databaseも、今や企業各社のプライベートクラウドやオラクルのパブリッククラウド(Oracle Cloud)のみならず、Amazon Web ServicesやWindows Azure、Salesforce.comなど、どこでも利用できるようになりつつあります。こうした中、ユーザー企業がオラクル製品をどこで使おうと、それを確実に社内システムとつないで、柔軟なIT活用を実現するコンサルティング、ソリューションを提供することはわれわれの使命といえます」(湖山氏)

 もちろん、こうしたハイブリッド環境での接続対象はオラクル製品に限らない。湖山氏は「ベンダーニュートラルな立場で支援できることも、われわれのコンサルティングサービスの特色の1つです」と付け加える。

先進企業は既にクラウドインテグレーションへの取り組みを加速

 こうしたオラクルの支援を受け、クラウドインテグレーションの取り組みを本格化させている企業も既に存在する。その1社が、航空機チケットの予約・発券・チェックインシステムのオンプレミスからパブリッククラウド上への移行を目指すアジア地域のある航空会社だ。

 同社ではこれまで、自社のメインフレーム上で稼働するチケット予約・発券・チェックインシステムを利用してきた。しかし、メインフレームの老朽化や周辺システムとの連携構成の複雑化が進み、一方で業界の競争が激化する中、このシステムを自前で保持・運用し続けることは経営上大きな負担となっていた。

 そこで同社は、近年登場してきたパブリッククラウド型の予約・発券・チェックインシステムへの移行を選択する。ただし、同システムの利用に際しては、オンプレミスで稼働する予約システムやマイレージシステムなどとのクラウドインテグレーションが不可欠だった。そこで同社は連携基盤の構築をオラクルに委託した。Cloud Integration PlatformやETLツールなどによって連携するこのシステムは、現在開発が急ピッチで進んでいるという。

 これはオンプレミスからパブリッククラウドに移行した例だが、最近はパブリッククラウド上のアプリケーションをオンプレミスに移行するケースも増えているという。

 「パブリッククラウド上でスモールスタートしたアプリケーションも、業務の拡大に伴い大規模化してトランザクション量が増えてくると、オンプレミスで運用する方がサービス品質の面でもコスト面でも有利になります。今後はこうした移行も増加するでしょう」(湖山氏)

 これに関して重要なポイントとなるのも、やはりクラウドインテグレーションだ。オンプレミスへの移行に伴い、これまでそのアプリケーションと他システムとの連携に用いていた方式に変更が生じれば、移行には多くの時間とコストが掛かる。そのアプリケーションが今後、再度パブリッククラウド上に移行する可能性も考慮しなければならない。

 それを踏まえれば、やはり企業システムはハイブリッドクラウド環境を前提に考え、透過的な連携構成を取ることが望ましい。これにより、社内外のアプリケーションの連携が容易になり、例えばマッシュアップなどの手法を使い、新たなサービスを迅速に開発することも可能になる。実際にこうした考えの下、ハイブリッドクラウドの連携基盤の構想を推進している国内企業も既にあるという。Cloud Integration Platformは、クラウドを安全・効果的に使いこなす、さまざまな可能性を開いてくれるわけだ。

 小野沢氏や湖山氏らエンタープライズ・アーキテクト本部のアーキテクトは日々、こうしたクラウド活用の先進企業に対し、ハイブリッドクラウド時代にふさわしいインテグレーションアーキテクチャの導入を支援している。クラウドがもたらす恩恵を自社の戦略的IT活用の武器とし、IT部門の価値向上、さらには自社の競争力向上につなげたいと考えるアーキテクトおよびITマネジャー諸氏は、ハイブリッドクラウドの連携基盤の在り方と、Cloud Integration Platformの導入を検討してみてはいかがだろう。


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