放送サービスの高度化を支えるITインフラの最適解4K/8K対応で激変する放送/映像業界

地上デジタル放送への移行、ハイビジョンよりも高精細な「4K/8K」の登場などを受け、放送/映像業界では基幹業務を支えるIT基盤の刷新に迫られている。そこで求められるシステムの“最適解”とは?

2013年09月04日 00時00分 公開
[ITmedia]

 ハイビジョンよりも高精細な次世代映像技術の登場、さらに配信先がテレビ以外のデバイスにも広がるなど視聴環境の多様化に合わせたサービスの提供が進み、放送/映像業界では貴重なコンテンツ資産の管理の在り方を見直す必要に迫られている。

 そうした中、最近目を引く動きを見せているのが、日立製作所(以下、日立)だ。放送/映像業界へのシステム導入においてグローバルで豊富な実績を誇る同社は、ストレージ製品群を核とした多様なシステムを提案。放送機器や編集ソフトに強みを持つベンダーとの協業に積極的に取り組み、企業の業務効率化やコスト削減を支援している。

 放送/映像業界向けシステムを手掛ける企業は少なくないが、日立は競争を勝ち抜くためにどのような戦略を描いているのか。IT業界の市場調査を手掛けるテクノ・システム・リサーチにおいて、放送/映像分野に精通するマーケティングディレクター 池田英信氏とシニアアナリスト 幕田範之氏が、日立製作所 情報・通信システム社のITプラットフォーム事業本部 販売推進本部 販売戦略部 主任技師 前田宏幸氏に話を聞いた。

“テープ神話”からの脱却が進む放送局

――ひと口に放送/映像業界といっても、市場プレイヤーはコンテンツの“放送(配信)側”と“制作側”の2つに大別され、両者のシステム要件には少なからず違いがある。まず、放送(配信)側である放送局の現状と同分野における日立の戦略について、池田氏と前田氏が意見を交わした。

photo テクノ・システム・リサーチ 池田氏

池田 放送局では従来、撮影から編集、配信といった一連の業務がいわば独立したフローで行われてきました。しかし、各業務でのITの利用が進み、ITがいわば業務基盤となることで、一連のワークフローを統合管理する動きが広がっています。その狙いは、業務の全体最適化による効率向上や業務の迅速化、コスト削減などです。

 その実現に向けて無視できない存在の1つが「コンテンツの記録媒体」です。従来、コンテンツの保存手段はテープが主流で「テープ神話」という言葉があるほど。テープは、コンテンツの原本を安全かつ長期保存するアーカイブ用途では非常に優秀です。しかし、編集や配信といったワークフロー全体の効率性を考慮すると、データへのランダムアクセスが可能なHDDや光ディスクの方が優れている面もあります。特に近年、PCやスマートデバイスなどテレビ以外の機器への映像配信といったコンテンツの二次利用が広がっています。そのため、頻繁に利用する映像データの保存先としてテープ以外の媒体を採用し、各業務で共用して活用する動きが広がっています。

ディスクストレージによるコンテンツ管理のメリットとは?

photo 日立製作所 前田氏

前田 とはいえ過去を振り返ると、テープ以外の媒体を採用した場合、各業務を支えるシステム間のデータの授受に現場が難色を示すケースも散見されました。この点を考慮すると、テープからの脱却には課題も少なくなさそうです。

池田 その一番の理由として挙げられるのが、現場の心理的な抵抗です。記録媒体が変われば当然、現場では業務を見直す必要に迫られます。こうした問題はリニア編集からノンリニア編集の移行期にも見られました。しかし、現場の“慣れ”によって移行が一気に進みました。ここで注目すべきポイントは、導入当初の心理的な抵抗を乗り越えたことで従来よりも利便性の高い業務環境を実現できたことです。

 同様に、ディスクストレージによるコンテンツ管理に移行することができれば、テープよりも現場が享受するメリットは大きくなります。放送業界は現在、データ管理の転換期を迎えていると言ってもいいでしょう。もちろん、貴重なコンテンツを保存する以上、採用するストレージが“高い信頼性”を備えていることは前提条件です。加えて、大容量かつ膨大なコンテンツを扱うことから“処理の高速性”も必須要件となります。

前田 日立のストレージ製品群は高い信頼性と高性能を実現しミッドレンジからハイエンドまで、P(ペタ)バイト級のデータ保存にも対応可能です。また、サーバなどシステムを構成する各層で多様な製品を取りそろえています。それらを適宜、組み合わせることで、各社の要件に合致した最適な環境を提案できると自負しています。

 中でも、放送/映像業界の顧客掘り起こしに向け、日立が注力しているのがハイパフォーマンスNAS(Network Attached Storage)製品「Hitachi NAS Platform」(以下、HNAS)です。

photo Hitachi NAS Platform

業務を継続しながらデータのバックアップも実現

――HNASは、爆発的なデータ増加にも対応できるファイルストレージ。その一番の特長は、独自技術であるFPGA(Field Programmable Gate Array)を採用したNAS製品であることだ。これまでソフトウェアで処理していた機能をハードウェアで実行させることで、飛躍的な高性能化を実現している。シーケンシャルアクセスによって最大1100メガバイト/秒のスループットを実現し、最大8Pバイトもの大容量に対応するなど高い拡張性も備えている。

photo Hitachi NAS Platformの特長

前田 日立は長年にわたりストレージの開発に取り組むとともに、運用サポートにも携わってきました。そこで培ったノウハウに基づく製品の信頼性の高さも当社の強みだと考えています。また、近年になりストレージでもより高い省電力性も求められるようになりましたが、使っていないディスクの電源を落とす技術「Massive Array of Idle Disks(MAID)」を実装し消費電力を削減するなど、高い要求水準に応えています。

池田 万一の際に備えたバックアップも考慮する必要がありますが、バックアップという観点で特徴的な製品はありますか?

前田 汎用NAS製品「Hitachi Virtual File Platform」(以下、VFP)で実現するクラウドによる新たなコンテンツ管理手法「Cloud on-Ramp」が挙げられます。

 これは、各拠点に設置されたVFPをクラウド環境への入り口として利用し、データセンター集約拠点に設置された「Hitachi Content Platform」(以下、HCP)に接続することで、簡単にバックアップ/アーカイブシステムを構築するソリューションです。Cloud on-Rampを利用すれば、設定したスケジュールに基づいて自動的にバックアップできるので、管理者の負担を軽減することも可能です。

photo Cloud on-Rump《クリックで拡大》

スケールアウト型NASに対する優位性

前田 一方、放送するコンテンツを作る制作側ではどのようにITの活用が進められているのか、制作側の現況を教えていただけますか。

photo テクノ・システム・リサーチ 幕田氏

幕田 映像の編集/制作を手掛けるポストプロダクション(ポスプロ)のシステム環境は千差万別です。規模が大きくなるほど、統合的なシステム環境を整備しているケースが見られます。制作側のIT活用の狙いはあくまで編集処理がメインであり、ストレージのみならずトータルでカバーするシステムを求めているのが特徴です。

前田 なるほど。制作側の要求に応えるべく、日立ではストレージを含めた編集システムの提案力の向上にも力を入れ、放送機器ベンダーや編集ソフトベンダーとの協業を積極的に進めています。

幕田 そうした制作側の企業を支援するための日立の取り組みをお聞かせいただけますか?

前田 この分野でも鍵を握るのがHNASです。編集の現場ではコーディングなどによる待機時間が少なからず発生します。HNASであればFPGAを採用することで、映像制御用アプリケーション間での高速なデータのアクセスを実現しています。また、大容量の不揮発メモリ(NVRAM)にデータをキャッシュすることでディスクアクセスを大幅に抑えられ、ランダムアクセスやターンアラウンドタイムを高速化できます。

幕田 確かにストレージは編集システムにとって大きな差別化ポイントになりそうです。

前田 これまで膨大なデータ管理のためにスケールアウトNASが広く利用されてきましたが、NASの台数に比例してコスト負担も増大します。対して、HNASであればスケールアウトをそれほど意識することなく高い性能を発揮でき、システム規模によってはコスト面で有利なことも少なくありません。

 また、現場では同時に何人ものスタッフが編集作業に当たりますが、その点でもパラレル処理が可能なHNASの方が、一般的なNASよりも速度面で有利であることは明白でしょう。

名だたる海外企業がHNASを採用 その狙いとは?

池田 海外では放送/映像業界においてHNAS採用事例があるとうかがっています。

前田 視覚効果に強みを持つSoho VFXをはじめIllumination Mac Guff、さらに各国の主要放送局など、映像/放送業界で名をはせた企業に広く採用されています。

池田 各社の導入の狙いはどこにあるのでしょう。

前田 やはり、HNASの高い性能に基づく“業務の最適化”です。例えば、海外のSoho VFXではHNASをVMware ESX環境で稼働する映像制御用アプリケーションのデータストアとして利用しています。クラスタ環境下でのニアラインストレージとして利用することにより効率向上とTCO削減を達成し、映像制御用アプリケーション間でのデータの高速な受け渡しを実現しています。さらに、ある放送局では各拠点にHNASを導入するとともに、ストレージ統合を行い、データを一元的に集約することで業務効率につなげています。

photo 放送局のHNAS導入事例。128Tバイトのファイルシステムを構築し、大容量ファイルの受け渡しを高速に実現《クリックで拡大》

システムの処理性能は“絶対的な付加価値”

幕田 放送/映像業界では今後、視聴者の満足度をさらに高めるためにも4K/8Kによる映像の高精細化が確実に進むはずです。そうなれば映像データがさらに大容量化し、より高い処理性能がシステムに求められることになり、システム環境の見直しが避けられない状況だといえます。その対応支援に向けた日立のアプローチをお聞かせください。

前田 そうですね。われわれもその点を考慮し、今後はグローバルでの実績を基にしたHNASをはじめとしたストレージ製品の映像/放送業界向け提案メニューの拡充が国内市場の深耕に向けた鍵になると考えています。

幕田 システムの処理性能を高める手法として、SAN(Storage Area Network)環境の構築も選択肢の1つですが、その場合には多大な手間を要します。対して、HNASは既存ネットワークに接続することで容易に利用に乗り出せます。こうした導入や管理の容易性も魅力の1つだと言えますね。

前田 ストレージといえばとかくコストに目が行きがちですが、NASプラットフォームの価値を納得していただければ、今後はストレージ製品群の使い分けが進むはずです。もちろん、システムの使い勝手を高めるために、各種のユーティリティの拡充や使いやすさへの配慮なども精力的に進めていきます。

幕田 編集システムでの処理性能の速さは、絶対的な価値でしょう。処理の高速化がもたらすメリットは多岐にわたるのですから。日立のストレージ業界の深耕により従来のシステムがどう進化するのか。今後しばらくは、日立のストレージソリューションから目が離せそうにありませんね。

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