医療の高度化に伴う医療システムにおけるデータ管理のあるべき姿とは?医療機関のIT化の課題を解決するシステム基盤

画像データの大容量化や地域連携などのニーズを踏まえ、進化を続ける医療IT。しかし、データ管理の面では依然として大きな課題を抱えている。

2013年09月04日 00時00分 公開
[ITmedia]

 2010年2月に厚生労働省が通知した「『診療録等の保存を行う場所について』の一部改正について」によって、民間企業が医療機関の保有するデータを外部保管することが可能になった。これを受けて、いわゆる“医療クラウド”のサービス提供が相次いでいる。そうした中、医療分野で新たな取り組みを見せているのが日立製作所(以下、日立)だ。同社はクラウドを活用したストレージソリューションを提供している。

 市場に数多くある医療クラウドの中で、日立のサービスはどのような優位性を備えているのか? 本稿では、ヘルスケアIT分野のコンサルティングに長年従事しているAnnexe R&D 代表取締役の井形繁雄氏が、日立ストレージ製品の企画、販売に携わる、ITプラットフォーム事業本部 企画本部 ストレージ企画部 部長 藤井啓明氏と、ITプラットフォーム事業本部販売推進本部 販売戦略部 主任技師 前田宏幸氏に同社の医療クラウド戦略とそれを支える技術について話を聞いた。

高度なデータ管理を実現する「Cloud on-Ramp」

photo Annexe R&D 代表取締役 井形繁雄氏

井形 ITは医療分野でも欠かせない存在となりました。多くの医療機関がオーダリングシステムや電子カルテを中心に、各部門の業務を支える多様なシステムが連携する病院情報システム(HIS)を構築しています。また、地域医療連携の実現に向け、中核病院と周辺の診療所などを結ぶネットワークの整備も着実に進んでいます。

 一方、医療分野のIT化には課題があります。例えば、CTやMRIなどの医用画像機器(モダリティ)の進化に伴い、管理すべき医用画像のデータ容量が急増していることです。多くの病院にとってデータの格納先であるストレージの調達コストは頭痛の種となり、半年ごとにデータ保存用ストレージを買い足す病院もあるそうです。ストレージのコストや管理負荷をどう改善するかは、医療機関の経営課題の1つと言ってもいいでしょう。そうした医療機関を支援する日立の取り組みをお聞かせいただけますか?

photo 日立製作所 藤井氏

藤井 日立はミッドレンジからハイエンドまで幅広いストレージ製品群を提供しています。P(ペタ)バイト級のデータ保存にも対応できるのはもちろん、特にデータ量の増加に対する解決策として提供しているのが「Cloud on-Ramp」という日立独自のソリューションです。クラウドにデータを自動バックアップ/アーカイブできるシステムを構築できる点が特長です。

 Cloud on-Rampでは拠点となる医療機関側にファイルストレージ「Hitachi Virtual File Platform」(以下、VFP)を設置し、VFPのデータをWAN経由でデータセンター側のバックアップ/アーカイブストレージ「Hitachi Content Platform」(以下、HCP)に自動集約します。各拠点に設置したVFPの容量が足りなくなると、データセンター側に自動バックアップされたファイルの中から、アクセス頻度が低いファイルをスタブ(管理情報だけのファイル)に変更します。これにより、拠点のVFPの空き容量を確保できるため、ストレージを効率的に利用することが可能です。また、医療機関側のユーザーはスタブにアクセスするだけで、データの所在を意識せずに利用したいデータに従来通りアクセスできます。参照頻度は低いが長期保管が求められる医療データの量は今後飛躍的に多くなると考えられます。Cloud on-Rampはこういった課題に対し有効なソリューションだと考えます。

 さらにVFPはデータの重複排除機能、ファイル単位での書き込み制限やデータ保存期間などを細かく設定できるなど、ストレージ容量や管理コストを削減する仕組みを備えています。

photo Cloud on-Rampの構成イメージ《クリックで拡大》

井形 なるほど。ストレージ調達に伴う高額なイニシャルコストが削減でき、増加し続けるデータの量を減らすことでその投資の最適化も図れる。しかもデータ管理の手間も軽減できるというわけですね。

photo 日立製作所 前田氏

前田 はい、ロケーションの離れたデータセンターで一元管理することでバックアップやアーカイブの効率化を図ることができます。この点は、BCP(事業継続計画)/DR(災害復旧)にも効果的です。米国のある病院ではホームドクターとの検査画像共有にCloud on-Rampを活用するなど、利用の裾野は着実に広がっています。このクラウド基盤は多くの医療機関が近年取り組んでいる医療データの再利用性を高められる手段だと考えています。

井形 おっしゃる通りですね。実際、クラウド上の医療データを共有・分析し、得られた知見をフィードバックするという取り組みがまさに進められようとしています。PACS(医用画像管理システム)提供ベンダーも画像データの管理に知恵を絞っていますが、これほど高度な機能を備えているサービスは恐らくないでしょう。まさに医療機関が求めているストレージソリューションと言えそうです。

photo Cloud on-Rampの活用事例

 また、一般にクラウドはITコストの削減策と捉えられがちですが、高度なデータ管理を行うには技術面でもより高い処理性能が求められます。

前田 ストレージの処理性能向上については、日立でも長年注力してきました。例えば、ハイエンドNAS製品「Hitachi NAS Platform」(以下、HNAS)では、独自FPGA(Field Programmable Gate Array)により、これまでソフトウェアで処理していた機能をハードウェアで実行させることで高性能化を実現しています。最大1100メガバイト/秒のスループットを実現するとともに、大容量の不揮発メモリ(NVRAM)にデータをキャッシュすることでディスクアクセスを抑えるなど、ターンアラウンドタイムの高速化も可能です。

photo Hitachi NAS Platformの特長

井形 確かに、クラウド上の画像データのアクセスにオンプレミスより何倍も時間がかかるとなれば、利用の意欲は間違いなく削がれてしまいます。ストレージの処理性能は医療クラウドの普及促進の鍵を握る要素ですね。

クラウド移行への意識変革を

井形 最後に、医療クラウドの普及支援に向けた日立の今後のアプローチをお聞かせください。

藤井 今後、Cloud on-Rampに格納した膨大なデータの使い勝手を高める環境を実現し、さらに蓄積したデータを分析する機能を含めた垂直統合ソリューションの提供を計画しています。これにより、医療機関の経営をITで支援することが可能になります。

井形 そうなれば画像だけでなく、医療機関のあらゆるデータを統合的に管理することが求められます。ストレージのインテリジェント化が進むことで、医療の質の底上げも期待されるわけですね。

 長年、医療分野のIT化に携わる中で「医療技術の進歩に対して、半歩遅れてITシステムが追いかけるという構図が続いている」と感じています。医療クラウドという魅力的なソリューションが登場しているにも関わらず、医療機関では利用があまり進んでいません。その理由として、医療機関の“心のブレーキ”、システムの最初のユーザーになることを避けがちな日本人ならではの“考え方”が背景にあると考えています。“持たざる経営”という言葉があるように、ITの所有から利用への流れは必然と言えます。将来的に医療クラウドの利用を予想している病院は決して少なくないはずです。

 医療クラウドの利用促進には、提供ベンダーが導入メリットについて納得のゆく説明を行うとともに、強力なリーダーシップで病院の意識変革を促すことが求められています。高い総合力を持つ日立であれば、その重責を果たせると期待しています。医療業界にもクラウドの波が押し寄せる中、日立の存在感はさらに増すことでしょう。

前田 ありがとうございます。

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