仮想化技術で実用的なサービスを生み出した4つのユーザー事例SDN、VDIなど幅広い分野で利用されるVMware

多くの企業が仮想化を活用して新たなサービスを展開している。TCO削減だけではない、ビジネスを活性化させるための仮想化とは。ネットワーク仮想化(SDN)やデスクトップ仮想化(VDI)など、4つのユーザー事例を紹介する。

2015年06月29日 10時00分 公開
[ITmedia]

ネットワーク仮想化技術でキャリアクラウドを実現する「Bizホスティング Enterprise Cloud」

キャリアクラウドの新たな可能性を開くSDN

NTTコミュニケーションズ 竹内一雅氏

 NTTコミュニケーションズは2011年から「Global Cloud Vision」を掲げ、ユーザー企業のグローバル展開を視野に、クラウドサービスを中心としたITアウトソーシングサービス全般を提供している。中核を担うのは、2012年6月にスタートしたエンタープライズ向けクラウドサービス「Bizホスティング Enterprise Cloud」だ。同サービスは、NTTコミュニケーションズが提供するグローバルVPNサービス「Arcstar Universal One」とダイレクトに接続し、企業の各拠点でセキュアなクラウドを構築する。また、同社のネットワーク技術によって、クラウド全体をダイナミックかつ柔軟にコントロールできるようになっている。

 これらのサービス展開を支えているのがSDN(Software Defined Networking)に代表されるネットワーク仮想化だ。仮想サーバだけでなくファイアウォールなどのデータセンター内ネットワーク機器の設定や変更がポータルからオンデマンドで可能になる。

 BizホスティングEnterprise Cloudは、このネットワーク仮想化を導入したことによって、仮想サーバや仮想ストレージなどはもちろん、ロードバランサやファイアウォールなどについても自動設定が可能となり、しかもポータルから一元管理できるようになった。

 「弊社が提供するクラウドサービスとお客さまのネットワークを仮想ネットワークで接続することによって、あたかも1つのイーサネットセグメントであるかのように利用することができます。また、仮想ネットワークによって、グローバルデータバックアップも大きな進化を遂げています。データセンター間のネットワーク帯域をオンデマンドに変更することで、必要時に最小限の費用で国内外クラウド間のデータバックアップ環境を提供することができるようになりました」(NTTコミュニケーションズ 経営企画部 次期クラウド基盤技術開発タスクフォース 竹内一雅氏)

 さらにNTTコミュニケーションズは、BizホスティングEnterprise Cloudにおいて「オンプレミス接続サービス」を提供している。このサービスは、IPアドレスを変更することなく、ユーザー企業の既存システムを同社クラウド環境へ移行できるようにするものだ。これによって、移行の際の大規模な修正が不要となり、移行の工数が最大70%削減されるという事例も報告されている。こうしたメリットの提供もネットワーク仮想化の導入があればこそだ。

 「弊社のGlobal Cloud Visionに基づくクラウドへの取り組みは、VMwareならびに日立製作所の製品群と非常に親和性が高いと感じています。両社における今後の技術開発や商品開発が、弊社のキャリアクラウドのさらなる発展につながることを期待しています」(竹内氏)

業界初の全基幹業務システム仮想化 利用2年半後の現状と仮想環境の運用管理の最適化

「柔軟なリソース利用」「段階的構築」「既存環境の活用」を導入コンセプトに仮想化を推進

朝日新聞社 伴 大輔氏

 朝日新聞社は、1990年代に業務のシステム化に着手し、2006年にオープン化を実現して基幹システム「ATOM」を稼働させた。そして2011年から仮想化を導入した「次世代ATOM」の構築を開始している。今回の仮想化においては、日立製作所のサーバと「VMware vSphere」の組み合わせを採用している。仮想化を導入するに当たっては、「柔軟なリソース利用」「段階的構築」「既存環境の活用」の3つを導入コンセプトとした。

 まず、柔軟なリソース利用について、次世代ATOMではリソースの効率化を目指して、「vSphere High Availability」(vSphere HA)を利用し、冗長構成を「N+1」として数台に1台の余剰を持たせることにした。

 次に、段階的構築だが、2012年〜2015年で段階的にシステムをリリースしていくことにし、初期構築におけるハードウェアは最少とするものの、必要な機能は全て実装することにした。そこからノウハウを蓄積し、以後は各システムに合わせてハードウェアの追加を行っている。

 そして、既存環境の利用については、ATOM構築時にストレージは統合済みだったので、既存ストレージを継続利用することでスタートした。

 併せて仮想化基盤導入後の性能検証を実施した。データベース(DB)サーバについては、従来の12CPU(24コア)の物理サーバ環境だったものが、仮想環境で果たしてどのように動作するのかを検証した。vCPU、メモリ32Gバイトの仮想サーバでテストしたところ、業務性能比較では遜色ないどころか約2倍の能力を発揮した。

 「この仮想化基盤性能調査においては、VMwareのプロフェッショナルサービス(PSO)のコンサルタントが大きな役割を果たしてくれました。スペシャリストによる詳細な性能評価で、安心・確実な仮想化推進が可能というお墨付きが得られました」(朝日新聞社 製作本部 システム部 伴 大輔氏)

 運用する中で見えてきた課題もあった。それは、メモリの共有・使用率の考え方が分かりにくいということだ。メモリの場合、ゲストOS上で使用率が低いことは、必ずしも物理メモリ使用率が低いことを意味しない。トリガーとなる閾値の考え方が物理リソースと異なるので、物理使用率が高いから危険水準にあるとは限らず、実は効率的に使えている場合もある。そこでより包括的なリソース監視の必要性を感じ、「vCenter Operations Manager」(現:vRealize Operations)を導入した。これにより、本当に仮想マシンのゲストOSでパフォーマンスが劣化するか否かを判断することができる。

 「次世代ATOMの構築も2014年度末でほぼ完了します。次世代ATOMのさらなる成長に向けて、日立製作所およびVMware両社とのより密接・積極的な協業を期待しています」(伴氏)

総合研究大学院大学が目指すプライベートクラウド基盤

データセンター仮想化によって総合と分散の両立を目指す

総合研究大学院大学 洞田慎一氏

 総合研究大学院大学は、全国18の大学共同利用機関法人が連携する大学院だけの大学(独立大学院大学)だ。旧国立研究所を母体としており、特色のある基盤研究や研究所を多く抱えている。研究分野は、「はやぶさ2号」プロジェクトのような宇宙分野に加え、理科系から文系まで幅広い。そのため「各専門分野において世界をリードする力」と、「各専門分野を統合してさらに大きな成果を目指す総合力」が求められる。この「分散」と「総合」の両立に寄与するシステムとして構築されたのがプライベートクラウド「SOKENDAI CLOUD」だ。

 SOKENDAI CLOUD構築に当たっては、「VMware vCloud Director」を導入した。その理由について総合研究大学院大学 情報基盤センター 洞田慎一氏は次のように述べる。「VMware vSphereによって仮想サーバを構築することは可能ですが、ユーザーが仮想サーバに直接触ることはありません。ユーザーにとってはアプリケーションが使えればよいわけです」

 全国に18カ所のキャンパスを有する同大学では、地理的に離れた全てのキャンパスで密接なコンタクトを取ることが求められている。「遠隔地にいるユーザーに対して、ネットワークを経由してサービスを届けなければなりません。つまり、必然的にクラウドを活用することになります」。具体的なシステムとしては、仮想サーバ、TV講義システム、仮想デスクトップ、資料共有システムなどが挙げられる。

 vCloud Directorを導入したことによって、ユーザーはWebブラウザさえあれば自分で仮想サーバを作成して実行することができ、管理者はリソースを管理することに集中できるようになった。「利用申請をしてから実際にサービスを提供するまで、vSphereを利用していたころはその準備に約半日を要していましたが、現在は約15分で完了しています」(洞田氏)。同大学ではユーザーの多くがvCloud DirectorをWebアプリケーションサーバの構築に活用している。

 「仮想化のポイントは、ユーザーがいかに楽に運用できるかということにある。そのためにはユーザーがより積極的に使っていけるような基盤であることが重要で、この点においてもvCloud Directorの導入は正解であったと考えている」(洞田氏)

らせん型技術者教育を支えるデスクトップ仮想化

仮想デスクトップによってセキュリティとコンプライアンスを強化

豊橋技術科学大学 土屋雅稔氏

 豊橋技術科学大学は、学生の8割が高等専門学校から本学の3年次に編入し、ほとんどの学生が修士課程に進学する。そうした背景から、同大学では、専門→基礎→専門→基礎→専門と繰り返しながらレベルを高めていくという独自の教育体制を採っている。

 大学における情報システムの大きな課題は、個人情報の漏えい防止などの着実なセキュリティの確立と、技術の進展に伴う教育システムの改革をいかに成し遂げるかだ。

 同大学では、セキュリティ強化を目標として、事務局を対象に第1期事務シンクライアントシステムを2009年度に導入した。その際、仮想PC型を採用した。その理由は、ユーザーの使い勝手がほぼ変わらないこと、ゼロクライアントとの組み合わせで端末のメンテナンスフリーな環境を実現できること、サーバソースを柔軟かつ有効に配備できること、他のユーザーセッションが別のユーザーに悪影響を与えないこと、従来のアプリケーションがほぼそのまま動くことなどが挙げられる。

 第1期事務シンクライアントシステムを導入した段階で、さまざまなことが判明した。セキュリティやコンプライアンスの強化、メンテナンスの省力化という当初の目的は達成したものの、仮想マシンに対して割り当てたリソースのサイジングが厳し過ぎたため、レスポンスに対する利用者からの不満が高まった。豊橋技術科学大学 情報メディア基盤センター 土屋雅稔氏は、「ストレージ入出力がボトルネックになっていた可能性が大きく、実環境での稼働状況データ採取が重要であると感じました」と話す。

 2013年度の第2期事務シンクライアントシステム導入では、大学全体の教育研究用システムの一部として、事務局の日常業務を行う端末システムを更新した。この段階では、仮想マシンおよび各種サーバ実行用ノードとして、日立製作所「HA8000-tc/HT210」を計8台、ストレージは日立製作所「Hitachi Unified Storage 150」を活用した。ストレージ接続インタフェースは、10Gbps×2のiSCSIで、ディスク構成はSAS 900Gバイト(2D+2D)×11となる。

 土屋氏は、仮想PC型シンクライアントを仮想化する場合、利用が集中する時間帯があることからオーバーコミットは現実的ではないと判断し、第1期から第2期に至る4年間で、高集積化したCPUと高集積化・低価格化したメモリをそのまま利用してオーバーコミットを避けるようにしたという。ただし、ストレージのI/Oは課題として今も残っている。

 「大学の情報システムについては、大学特有の事情があるとはいえ、一般企業とも共通点が多いです。企業・大学を問わず、仮想化技術の今後のさらなる貢献を期待したいと考えています」(土屋氏)


提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:TechTargetジャパン編集部/掲載内容有効期限:2015年9月10日

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