読めば分かる! フラッシュストレージの基本SSDなどのフラッシュストレージを業界団体SNIAメンバーが解説(3/3 ページ)

2015年10月06日 08時00分 公開
[ティントリジャパン合同会社SNIA日本支部 正会員]
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最新の技術動向

 NANDフラッシュメモリの現行技術は「プレーナ(平面)型NANDフラッシュメモリ」と言われ、微細化技術の限界がささやかれております。プレーナ型NANDフラッシュメモリのゲート長(NANDフラッシュメモリの構成要素であるトランジスタのオン/オフを切り替えるスイッチのサイズ。小さいほど回路が高速化できる)は20ナノメートル〜15ナノメートルが主流で、これ以上微細化して大容量にすることも可能です。しかし、「性能が出にくくなる」「書き込み許容量が少なくなる」「読み取りビットエラーが発生しやすくなる」などの課題があり、実用化は難しいといわれています。

 この課題を解決する技術として、プレーナ型NANDフラッシュメモリを発展させた「TSV(シリコン貫通電極)」技術を採用したNANDフラッシュメモリや「3次元 NAND(3D NAND)フラッシュメモリ」が注目されています。3D NANDフラッシュメモリはプレーナ型と比べてゲート長に余裕を持たせ、セルを積層化します。より一層のデータ密度と書き込み寿命を有し、さらなる大容量化や低コスト化、高信頼性の維持が期待されています。

 また、数年前までは、高速、高信頼のために、メモリセル1個当たりの記憶容量が1ビットの「SLC(シングルレベルセル)」のNANDフラッシュメモリがエンタープライズ向けに用いられることもありました。最近では、エラー訂正技術の進化などにより、1セル当たり2ビット以上の記憶容量を持つ「MLC(マルチレベルセル)」タイプのNANDフラッシュメモリが主流となり、SLCタイプを利用するケースは少なくなりました。既にコンシューマ向け製品では、1セル当たりの記憶容量が3ビットの「TLC(トリプルレベルセル)」が一般化してきており、TLCをエンタープライズ向けに適用する動きが高まっています。

 執筆時点では、MLCタイプのプレーナ型NANDフラッシュメモリを採用した、2.5インチサイズで3.84TバイトのSSDが既に流通しており、TLCタイプの3D NANDフラッシュメモリを採用した16TバイトのSSD(2.5インチ)も発表されています。また、電圧を加えると電気抵抗が変わる酸化物を使った「ReRAM(抵抗変化型メモリ)」やメモリセルの層を複数積層させる「3D Xpoint(3Dクロスポイント)」など、NANDフラッシュメモリの次を担う要素技術の開発も盛んに行われています。

 フラッシュストレージシステムはこれらの要素技術の革新を享受し、より高速化や大容量化が進むと考えられます。さらに信頼性を維持しつつ適正なコストで提供できるよう各社で技術開発が続けられています。

企業ストレージで利用する際の注意点、導入ポイント

 ここからは、フラッシュストレージを利用する際の注意点を説明します。

注意点1:コスト削減を念頭に置くべき

 フラッシュストレージは、性能以外にもHDDストレージシステムに対する優位性を多く備えています。例えばフラッシュストレージ装置の故障率は総じてHDDよりはるかに低いため、信頼性が向上するとともにメンテナンス工数が大幅に削減できます。設置スペースや消費電力などの運用コストも削減できるため、初期導入コストに加えてTCOを想定して導入を検討することをお勧めします。フラッシュストレージシステムは、まだまだ容量単価は高いですが、こうしたコストを削減できることを念頭に置くべきです。

注意点2:カタログスペックをうのみにしない

 カタログスペックだけを見て性能を評価しないでください。フラッシュストレージシステムによっては読み込み100%や書き込み100%の場合のみの性能値を表記している場合があります。定常状態での書き込み性能や読み込み/書き込み混在時の性能について、システムインテグレーターやベンダーに確認するとよいでしょう。また、PoC(導入前検証)を行うことで実環境に近い状態で性能を確認すれば、安心して導入できるでしょう。

 サーバ内蔵のフラッシュストレージシステムでは、書き込み許容量を超過した場合、フラッシュストレージシステム部分が保証対象外となる製品があります。また、「小さなブロックサイズの書き込みが多い」「大きなブロックサイズの書き込みが多い」といったデータ書き込みの特性によって、「Write Amplification」(NANDフラッシュメモリで実際に書き換えるデータ量が、アプリケーションが書き込むデータ量より多くなること)の発生頻度は異なります。そのため、想定よりも早く許容量に到達してしまう可能性があります。

注意点3:スペックには余裕を

 処理内容やアプリケーションの書き込みデータ量と特性を見積もり、書き込み許容量のスペックに十分な余裕がある製品を選定してください。フラッシュストレージ装置が容量の大半を占めるハイブリッドストレージやオールフラッシュアレイでは、書き込み許容量の超過による保証対象外などの制限を設けていない製品がほとんどです。許容量に近づいたり、許容量に到達したり、またはフラッシュストレージ装置が故障した際には、保守の範囲内で交換することが可能です。

 Write Amplificationの問題についても、アプリケーションから小さなブロックサイズのランダム書き込みを受けた際には、NVRAMやNVDIMMなどへの書き込みキャッシュを、シーケンシャルアクセス(連続したブロックの読み書き)による書き込みと同様に配列し直すことで、フラッシュストレージ装置の内部で余計な書き換えが発生することを抑制できます。

注意点4:RAID構築時の性能低下や書き込み許容量を確認

 サーバ内蔵フラッシュストレージシステムまたは汎用ストレージでSSDのRAIDを構築する場合には、性能の低下や書き込み許容量に注意してください。RAIDで複数のストレージシステムへデータを分散(ストライピング)する際のブロックサイズ(ストライプサイズ)の不適合や、ストライピングしたデータの一部書き換えによるパリティ値の再演算のために、書き込み性能、読み込み/書き込み混合時の性能が低下し、NANDフラッシュメモリへ書き込むデータ量が、実際のデータ書き込み量よりも多くなる場合があります。ただ、NANDフラッシュメモリの使用を前提としたハイブリッドストレージやオールフラッシュアレイの多くは、ストライプサイズの最適化やストライピングしたデータの一部書き換え禁止、分散書き込みなどによって対策を講じています。気になる場合は、システムインテグレーターやベンダーに確認するとよいでしょう。

終わりに

 NANDフラッシュメモリは、クライアントPCやデジタルカメラなどで利用されるUSBメモリ、SDカードなどのリムーバブルストレージ、スマートフォンやタブレット端末に内蔵されているeMMC(組み込み用途向けNANDフラッシュメモリ)などの構成要素として、世の中に広く普及しています。

 今後はNANDフラッシュメモリ、SSDなどのフラッシュストレージ装置、フラッシュストレージシステムのさらなる技術革新により、エンタープライズ向けITシステムはそれほど遠くない将来に、HDDストレージからフラッシュストレージへの置き換えが急速に進み、メインストリームとして普及していくことでしょう。

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