膨大な運用コストを払っても属人化が止まらない……基幹系システムの実態とは基幹システムに関する調査レポート

2017年10月に「基幹系システムの利用状況に関する読者調査」を実施した。本レポートでは企業が持つ基幹系システムの課題と解決への取り組みについて紹介する。

2018年02月01日 10時00分 公開
[中村篤志TechTargetジャパン]

 キーマンズネットとTechTargetジャパンは2017年10月30日から同年11月17日にかけて、両会員を対象に「基幹系システムの利用状況に関する読者調査」を実施した。その結果からは企業の経理部門や人事部門が抱えるさまざまな課題が浮き彫りとなった。本稿では、その一部を紹介する(全ての結果を記載したレポートは、文末のリンクから会員限定で閲覧可能)。

調査概要

目的: キーマンズネット会員とTechTargetジャパン会員の基幹系システムの利用状況について調査するため

方法: Webによるアンケート

調査対象: キーマンズネット会員およびTechTargetジャパン会員

調査期間: 2017年10月30日から同年11月17日

総回答数: 289件

※回答の比率(%)は小数点第2位を四捨五入し表示しているため、比率の合計が100.0%にならない場合があります。


パッケージでの導入率が高い

 基幹系システム(ERP、人事、財務)を対象に導入・構築方法を聞いたところ、いずれも60%以上が「パッケージ導入」と回答した。一般的にスクラッチ開発に比べてパッケージは不具合が少なく、保守もしやすいといわれる。加えて開発費用も抑えられるので企業にとってメリットは大きい。一方で「バージョンアップ時に勝手に仕様が変わる」「カスタマイズで対応できないため営業は別のシステムを使っている」といったパッケージであるが故の不満も寄せられた。

図1 基幹系システムの導入・構築方法について《クリックで拡大》

高額の運用コストに見合わない? 使い勝手の悪さが目立つ意見も

 ERPの課題で最も多かったのは「運用コストが高い」(48.1%)だった。次に「操作が分かりづらい」(25.6%)、「モバイル端末に対応していない」(23.1%)、「不具合やメンテナンスが多い」(21.8%)と続く。

 最も課題と感じている運用コストについてはSAPジャパン、富士通製というERPパッケージの大手企業の製品を導入しているためと考えられる(別の設問で導入しているERPパッケージのメーカーはSAPジャパン製が32.5%、富士通製が20.8%という結果が出ている)。両社はシステムの品質だけでなく、導入事例の豊富さにおいても業界の先頭を走っている。実績に裏付けられた豊富な知見と高品質なシステムを利用できるメリットを考えると、運用コストがかさんでしまうのもある程度はやむを得ないといえる。

図2 使用しているERPの課題《クリックで拡大》

 しかし、別のコメントでは「他システムとの連携ができない、データのカスタマイズが煩雑」や「ソース提供がないため、自社内でのカスタマイズができず、改変費用が都度かかる」「営業システムのみフィットせず、別途開発したものと連携させている」といった声もある。

 高品質で安定性が高いERPパッケージだとしても、自社に合うかどうかはまた別の話である。操作性や他システムとの連携といった使い勝手の視点では運用コストのデメリットを超えるメリットを実感できていないという意見が本調査では多かった。

属人化は課題だが……

 属人化の問題はどこにでも発生する。本調査では特に財務会計で顕著になった。財務会計の課題を聞いたところ半数近くの45.4%が「処理が複雑なため属人化が進んでいる」と回答。人事業務でも同じ回答が32.4%であった。

 属人化の要因は業務の特性や組織構成など複数の要因が関連する。特定は難しいが、ここでは人事業務の課題として最も多かった回答に注目したい。その回答は「人事情報が一元管理されていない(人事と評価が別など)」(41.5%)である。

図3 人事業務の課題《クリックで拡大》

 情報が一元管理されていないとはどういうこと状況だろうか。例えば人事でいえば氏名、住所、従業員番号などの基本的な情報は人事システムで管理している。だが、経費精算に必要な通勤経路、(通勤経路確認のための)住所、振り込み口座は別のシステムで管理している、といった状況だ。この例でいえば住所が変わった場合は、それぞれのシステムを別途更新しなければならない。

 この問題は見た目以上に厄介だ。まずたった1カ所の変更でも複数の作業が発生する。ちょっとしたことかもしれないが、その分確実に担当の負担が増える。次に「人」による作業が増えるので入力ミス発生の危険性が高まる。最後は「住所を変更した場合はそれぞれのシステムを別途更新する」というイレギュラー作業が生まれることだ。言い換えればそれを知っている担当以外では正しい作業ができなくなる。これはまさに属人化である。

 情報の管理という一見関係なさそうな課題が、属人化発生の一因になっていることを本調査結果は示している。属人化の対策というと後進育成やナレッジ共有の仕組み化が一般的だが、今後は情報管理の仕組みを見直すことも検討材料にしてほしい。

基盤システムのクラウド移行は?

 本稿の最後に、基幹系システムのクラウド移行について触れておきたい。1位は「積極的に移行すべき」が30.5%であった。また「移行したいが、懸念点があるため移行できない」も34.3%であり、合わせると6割以上がクラウド移行に前向きという結果になった。

 しかし、クラウド移行は懸念点がいまだ多い。最も多かったのが「情報漏えいリスク」が54.3%で、次に「コストの予測が困難」48.8%となっている。一方「経営者、幹部の理解が得られない」という回答は17.4%と一見低い。だが、これは上位2つの懸念解決を優先しているため、具体的なところまで話が進んでいないと推測する。

図4 クラウド移行の懸念点《クリックで拡大》

 その他のコメントでも「クラウドにした場合の通信帯域の圧迫がどのくらいあるかテストできる環境が気軽にあればよい」「FinTechを見据え、オープンAPIなどの接続を想定しておく必要がある」といった技術的な検討をしている企業の声だけでなく、「SaaSで無料で使える業務パッケージが今後できると会社の上層部が考えているため、今後の予算はない」といった経営層との問題を挙げる声も同じく存在するためだ。

 IT投資計画については6割が前向きな傾向だ(「1年以内に投資する予定がある、7.3%」「中長期的に投資を計画中、52.6%」)。技術的な面、コスト的な面、教育的な面など検討すべきテーマはきりがないが、生産性向上、あるいは売り上げ向上を目指してぜひ「前向き」な検討を続けてほしい。


 その他、回答者の詳細な属性や移行先として検討中のクラウドサービスとその選定基準など、本稿で紹介できなかった内容も含めた調査レポートの完全版を提供している。以下から詳細なアンケート結果が無料ダウンロードできるので、ぜひ確認していただきたい(キーマンズネット会員およびTechTargetジャパン会員限定)。

読者調査レポート

「基幹系システム」に関するアンケート

キーマンズネット会員とTechTargetジャパン会員を対象に、企業の基幹系システムの利用状況に関する読者調査を実施した。本レポートは、基幹系システムの導入状況、ERP・人事・財務会計それぞれの課題と今後のクラウド化に向けた取り組みの実態などをまとめている。