ROIインサイダー:ビジネスインテリジェンス導入の価値:Column
BI導入によって得られるメリットとは何か? 予想されるコストとリスクにはどんなものがあるだろうか? IT投資価値評価の権威が解説する。
ビジネスプロセス自動化のための分析やリポートを表計算ソフトで行っている企業は多い。だが表計算ファイルでは管理するのが難しく、コストが掛かるだけでなく、誤ったデータや分析結果が入り込む可能性も高い。
ビジネスインテリジェンス(BI)ソフトはそうした分析、リポーティングに威力を発揮する。2004年は、ほとんどの企業でIT支出が伸び悩んだが、BI市場は11%成長し、全世界でのBIソフトウェアの売り上げは43億ドルに達した。
BIソフト導入により、どんなメリットが得られるのか、また、どのようなコストやリスクが予想されるのかを、コンサルティング企業アリニアンのトム・ピセロCEOが紹介する。
企業は重要なビジネスプロセスを自動化するために、トランザクションシステムに大金を投じてきた。こういったトランザクションシステムは有益な情報を大量に生成するが、リポーティング機能が貧弱なものも多く、そのせいで需要予測、在庫量、誤差率、財務/予算といった重要な情報を共有できないのが欠点だ。
企業が重要なビジネスデータに基づいて分析とリポートを行ううえで最も一般的な手段が、表計算ソフトを利用することである。何千もの分析用スプレッドシート(表計算ドキュメント)やリポートがあり、これらを個々の担当者が管理しているという企業は多い。しかしこういったスプレッドシートは、管理するのが困難であり、そのためのコストが掛かるだけでなく、誤ったデータや分析結果が入り込む可能性も高い。また、重要な情報がごく一部のスタッフの手に握られ、ほかの社員と共有されないという問題もある。
ハイペリオンやSASなどが提供しているビジネスインテリジェンス(BI)ソフトウェア製品は、企業のデータから実行可能な洞察を得るために必要な連携、分析、プレゼンテーション、リポーティング、コンプライアンス(法令遵守)といった機能を自動化するのに威力を発揮する。
アクセンチュアが2005年に実施した調査によると、BIに関してコンセプト実証段階にある企業の割合は15%、実証実験を進めている企業は22%、そして1つないし複数のソリューションを実践しているのは36%だった。何もしていないと答えた企業は1割で、様子を見ている段階だとしたのは12%だった。2004年は、ほとんどの企業でIT支出が伸び悩んだが、BI市場は11%成長し、全世界でのBIソフトウェアの売り上げは43億ドルに達した。
BIソフトウェアを導入した企業は、ビジネス価値に関連した重要なメリットを享受している。これらのメリットは、単純なコスト節約(例えば、リポートの印刷/配布の労力が減る)や、競争優位の実現(例えば、売れ筋商品を素早く特定することによって、顧客の需要に対応し、品切れ状態を回避できる)など、多岐にわたる。
BIの一般的メリットとしては、以下のようなものがある。
- クエリー、リポーティング、分析、分析アプリケーションを連携することにより、Excelのスプレッドシートのカスタム開発や手作業でのメンテナンスが不要になり、データを統合する労力も削減できる。
- 現在、ERP、CRM、SCMなどのシステムによって収集されている重要かつ貴重なデータを有効に活用することができる。これらのデータは従来、各システム内に閉じ込められてきた。これは、マイニングツールやリポーティングツールの機能が不十分であったり、使いにくいといった制約に起因する。
- ソースデータの妥当性と計算の整合性が保証されることにより、分析の整合性が改善され、誤ったデータに基づく不適切なビジネス判断に伴うコストを削減する(あるいは不要にする)ことができる。
- 個々の部署がばらばらに分析を行うことがなくなるため、数字をめぐって議論することに時間を費やしたり、整合性のない決定を下したりすることがなくなる。
- さまざまなユーザー部門向けに効果的なダッシュボードアプリケーションを作成することにより、全社的な業績指標ならびに個々の主要業績指標を容易に把握できるようになる。ダッシュボードを利用すれば、重要な洞察に基づいて迅速に行動することが可能になる。例えば、売れ筋商品を素早く特定して需要の増加に対応したり、品切れ状態を防止したり、競争力の高い価格を設定したりすることができる。
- 標準、アドホックな多次元リポート、コンテンツなどをユーザー自身で作成/管理/配信することが可能になるため、リポートの開発とメンテナンスにかかる労力を削減できる。
- リポートの印刷と配布に掛かるコスト(プリンタ、トナー、郵送費)を削減できる。
- リポートの作成が迅速化し、リポートの可視性が改善されるため、報告に要する時間が数週間から数分単位へと短縮し、価格/販促戦略が企業の利益率に及ぼす影響をリアルタイムで把握することができる。また、監査要件に対応するためのコンプライアンスリポートを迅速に作成きるようになる。
- 異常な物品購入や売り上げデータなどを検出することにより、業務上の問題やミス、不正を容易に発見することができる。
- 部門ごとにばらばらに存在する独自形式のExcelスプレッドシートに閉じ込められていた情報や分析データをBIプラットフォーム上で標準化することにより、人事異動による影響やトレーニングの必要性を減らすことができる。
- 情報の整合性が保たれ、リポートの分析/検証/配布がポリシーによって自動化されることにより、財務報告やコンプライアンスの要求により良く対応することが可能になる。
ビジネスケースの作成
BI構想の潜在的インパクトと価値に関して社内のコンセンサスが得られたら、次に、考えられるすべてのコストとリスクを考慮に入れ、投資効果を客観的に説明するためのビジネスケースを作成しなければならない。
コスト
最初のステップとして重要なのは、ソリューションのライフサイクルにわたるすべてのコストを考慮に入れることである。これらのコスト要因としては、以下のようなものがある。
- ソフトウェアライセンスの購入費用、メンテナンス/サポート費用、アプリケーションのカスタマイズと導入に掛かる人件費、コンサルティング/プロフェッショナルサービス、BIアプリケーションをサポートするのに必要な追加ハードウェア/ソフトウェア、ユーザートレーニング。
- クライアントマシンやネットワーク機器のアップグレード(必要に応じて)。
- 導入完了後に必要となるシステムの維持管理費、カスタマイズと連携、ユーザートレーニング。
システムの価格や特徴・機能には大きな幅があるため、企業がどのような成果を期待できるのか正確に予測するのは難しい。なお、ライフサイクル全体を通じたTCO(総所有コスト)で考えた場合の合計費用は、1ユーザー当たり100〜1000ドルの範囲であろう。
投資対効果において最も重要な要素は、初期コストとランニングコストを分析し、TCOが最も低くなるソリューションを選択することである。そしてこのソリューションは、現在および将来のビジネスで最も差し迫ったニーズに対応するものでなくてはならない。
リスク
投資対効果で2番目に重要な要素は、想定されるリスクを評価することである。個々の部門が、自部門の業務に最も適したBIソリューションを導入するケースがしばしば見受けられる。その結果、企業が何種類ものBI分析/リポーティングツールを使用するようになることが多い。この場合、複数のソリューションとベンダーをサポートすることになるため、ランニングコストの増大を招く。適切なベンダーを選定し、複数の部門にわたってソリューションを統合化・標準化すれば、IT部門と業務部門の両方で劇的なコスト削減が可能だ。また、この分野では今後もベンダーの統合が進むだろう。
BIソリューションを導入する際にユーザートレーニングのことを見落としがちだが、ユーザーが分析機能を理解し、リポートをカスタマイズできるようにすることが、ビジネス価値を実現するうえで不可欠なポイントである。BIのリポーティングツールと分析機能を開発・活用し、新しいソリューションのメリットをフルに引き出すためには、組織としてのスキルを育成しなければならない。
3番目に重要な要素が、配備と運用開始のタイミングである。最初からすべての主要指標、リポーティング、分析機能を自動化したくなるかもしれないが、これは、企業文化の面で対応準備ができていない、ITリソースが分散し過ぎる、ユーザーの十分な参加が得られないといったリスクを伴う。
もう1つのリスク要因として、システムに供給されるデータの整合性の問題がある。企業データの品質に対しては十分な注意と検証が必要であり、追加投資が必要となる場合もある。
BIの投資利益を実現する
BI構想を適切に実施すれば、現在の分析およびリポーティングの業務に関して直ちにコスト節減を実現することが可能であり、それは通常、投資に十分見合うものである。さらに重要なことは、これらのソリューションが全社的情報および知識の共有のメリットをフルに生かすことにより、ビジネスを根本的に変革する可能性があるということだ。ただし、こういった変革が可能であるとしても、必ずしも実現できる保証はない。適切で信頼できるBIプラットフォームの構築、ユーザーのトレーニング、企業文化の改革が必要であるからだ。
しかし、BI構想を前進させる最もパワフルな推進力は数字かもしれない。アリニーンが調査した企業では、1000%を超える投資利益率も珍しくなかった。これは、BIツールがサプライチェーンの最適化、在庫管理、売り上げ拡大に大きく貢献したからである。
著者のTom Pisello氏は、フロリダ州オーランドに本社を置くコンサルティング企業アリニーンのCEOである。同社はIT投資のビジネス的価値の評価・測定業務を手掛けており、CIOやコンサルタント、ベンダーなどを顧客とする。
(この記事は2005年9月23日に掲載されたものを翻訳しました。)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.