SOAに取り組まなければ、深刻なリスクを招く?――IBM、サン、マイクロソフトも本腰:Column
今世紀に入ってこのかた喧伝されてきたSOAだが、やっと普及の段階に入った。マイクロソフトやオラクルなど、主要プレイヤーも製品の開発を始めている。
IT業界に少しの間でも身を置いた経験のある人なら誰でも、結局実現することのなかった約束を数多く聞かされてきたため、SOAに対しても当初は懐疑的な見方が多かった。2005年初頭の時点では、SOAが広範に普及するかどうか、誰にも予想がつかないような状況だった。
しかし昨年末には、SOAをデザインするスキルがIT市場で強く求められているという状況が各種の調査を通じて明らかになった。
そしてソフトウェア業界の主要プレイヤーたちも、SOAのデザイン原則に基づいた製品の開発を始めた。
米調査会社ザップシンクのアナリスト、ロン・シュメルツァー氏は、SOA製品の開発が非常に勢いづいているため、IT部門もSOAを受け入れなければ大きなリスクを冒すことになる、と指摘する……。
今世紀に入ってこのかたずっと、次の大きな波として喧伝されているのがサービス指向アーキテクチャ(SOA)である。
IT業界、特にアプリケーション開発分野に少しの間でも身を置いた経験のある人なら誰でも、結局実現することのなかった約束を数多く聞かされてきたため、SOAに対しても当初は懐疑的な見方が多かった。2005年初頭の時点では、SOAが広範に普及するかどうか、誰にも予想がつかないような状況だった。
昨年の初めごろには、SOAは「Stupid Over-hyped Acronym」(誇大宣伝された馬鹿げた略語)を意味するといった辛らつな批判を浴びせる人もいた。しかし昨年末には、SOAをデザインするスキルがIT市場で強く求められているという状況が各種の調査を通じて明らかになった。
そしてソフトウェア業界の主要プレイヤーたちも、SOAのデザイン原則に基づいた製品の開発を始めた。
コンサルティング会社バートングループの副社長兼リサーチディレクターを務めるアン・トーマス・メインズ氏は、「わたしが最近会う人は皆、SOAに携わっている」と話している。「人々は少なくとも、SOAが何を意味するのかを感じ取っており、それに備え始めている」
米調査会社インターアーバーソリューションズのアナリスト、デーナ・ガードナー氏は、「2005年は、水晶玉の中に見える漠然とした概念から、広範な支持を獲得したデザインパターンへとSOAが変化した年として特徴付けることができそうだ」と話す。
実際、米調査会社ザップシンクのアナリスト、ロン・シュメルツァー氏は、SOA製品の開発が非常に勢いづいているため、IT部門もSOAを受け入れなければ大きなリスクを冒すことになる、と指摘する。
「SOAに取り組まなければ、深刻なリスクを招くだろう」とシュメルツァー氏は話す。
「ある程度の規模以上のソフトウェアベンダーはすべて、将来のロードマップはSOAに関係したものになると表明している。IT部門がSOAを受け入れなければ、時代から取り残され、現在のアプリケーションをアップグレードすることもできなくなるだろう」(同氏)
どこもかしこもSOA
すでに多くの企業が、SOAに向けた進路へとかじを切った。ファイアマンズファンド・インシュアランスは、総額9400万ドルという大規模な10年契約をIBMと結んだ。この契約は、同社で使っている500種類余りのアプリケーションの変換と管理をIBMが請け負うというもの。いち早くSOAへの対応を進めている金融サービス業界では、一連のWebサービス・リファレンスインプリメンテーションをまとめた。
SOAは、米ゼネラルモーターズのように苦闘する古参メーカーや、ジェットブルーエアウェイズのように勢いのある新進企業に進出した。公共部門にも浸透した。さらにSOAは、NASA(米航空宇宙局)でも採用された。
中小規模の企業の間でも、SOAの普及が急速に進んでいる。フォレスターリサーチが昨年4月に行った調査によると、大手企業の70%、中堅企業の28%、中小企業の22%がSOAの採用を進めていることが分かった。昨年末の時点で、これらの数字はそれぞれ77%、51%、46%に増加した。
これはSOAが突如として使いやすい技術になったことを意味するわけではない。統合型ITバックボーンであるSOAのメリットと実現可能性への期待が、導入に伴う作業や社内での駆け引きを避けたいという気持ちを上回るようになったということである。
しかし、そもそもどうやってSOAを構築するのかという問題については、まだはっきりとした答えがあるわけではない。例えば、トップダウン方式でいくのがいいのか、ボトムアップ方式でいくのがいいのか、といったことも明らかではない。サン・マイクロシステムズのディスティングイッシュド・エンジニアであるマーク・ハプナー氏によると、ITプロフェッショナルの多くは、トップダウン方式でシステムを構築するのにまだ慣れていないという。
ドキュメント中心型モデルに沿った開発は一筋縄ではいかず、アプリケーションとは何かという問題に対して新しい考え方が求められる。Webサービスの草分けの1人で、レイヤー7テクノロジーズのCTO(最高技術責任者)を務めるタウフィック・ブーベス氏は、「多くの人々は今でも、アプリケーションよりも先にインタフェースを構築するという考え方に戸惑っている」と指摘する。
また、いかにしてメインフレームをSOAに統合するのかという問題も頭をもたげている。
ESBへの賛否
エンタープライズサービスバス(ESB)は、SOAの世界では比較的地味な技術の1つであるが、昨年初めの時点では、まだ定義が定まっておらず、昨年末の段階でもほぼ同じような状況だった。
既存ベンダーの多くはこの1年間、ESB市場に急いで参入した。昨年6月には、BEAシステムズが、同社のSOA実現計画でESBを初めて製品化した。以前はESBをデザインパターンとしてとらえ、製品として見なしていなかったIBMも、ESB市場への参入を発表した。IBMの参入発表を聞いたソニックソフトウェアのデビッド・チャペル副社長は、「ESBはミドルウェア市場として完全に認知された」と言い切った。
ESBに対しては批判もある。ESB製品の多くはレガシーミドルウェアであり、SOA市場において手近に利用できる技術であるにすぎないというのだ。SOAの普及を妨げる不必要な連携ミドルウェア製品だという厳しい指摘もある。
フォレスターリサーチはESB市場に関して楽観的な見通しを示しているが、IBMに対しては、あまりにも多くのユーザーのニーズにSOAを対応させようとしていると批判する向きもある。
「ベンダー各社はこぞって、得体の知れないバスに乗り込もうとしている」と調査会社ザップシンクのシュメルツァー氏は話す。「ESBは問題のある用語だ。この言葉は2005年には病気だったが、2006年には死ぬだろう」
こうした批判にもかかわらず、フィオラノソフトウェアなどのESBベンダーは、ESB製品群の開発を精力的に進めている。一方、ケープクリアソフトウェアは最近、自社のESB製品にサーバ仮想化機能およびEclipseとの本格的な連携機能を追加した。
イノベーションと買収
BEAはESB市場への参入に続いて、ポータルベンダーのプラムツリーソフトウェアを買収した。強力な内部連携機能を獲得するのが買収の目的だ。同社はさらに、アプリケーションのホットスワップ機能を提供することによってSOAのランタイムパフォーマンスを改善するとともに、M7の買収を通じて各種のオープンソースフレームワークに対応した統合開発環境を追加した。
サン・マイクロシステムズは昨年初頭、SOAコンサルティング業務を立ち上げた。同社はその後、インテグレーションベンダーのシービヨンドテクノロジーを買収し、さらに自社のすべてのソフトウェアポートフォリオを無償化・オープンソース化することを決めた。
Javaベンダー各社の動きに後れを取るまいとするマイクロソフトは、「Indigo」のコードネームで呼ばれるエンタープライズアプリケーション通信ファブリックを開発すると発表した。最初のベータリリースの評判は上々で、その後、同技術は「Windows Communication Foundation」という名前に変更された。マイクロソフトではこの技術を、SOAのスーパープラットフォームの構築に向けてIBMと競争する上で不可欠な要素であると位置付けている。
バートングループのメインズ氏は、2006年に予定されているIndigoの製品版のリリースが、SOAの広範な普及の促進と新たなWebサービス標準の確立に向けた重要なイベントになると考えている。
「マイクロソフトがSOA分野のトレンドを作り出してきたのは確かだ」と同氏は話す。
しかしマイクロソフトは、開発者向けのWebサービス強化ツールの第3世代を投入したものの、アプリケーション分野の競合企業が新しいWebサービスを市場に投入するという脅威を前にして、同社はコアビジネスを見直すことを余儀なくされた。
シュメルツァー氏は、SOAを全社的に推進するというSAPの決定を市場の転換点として評価している。一方、オラクルは、SOAのエコシステムを着実に構築するという方針に従い、システィネットとの提携を通じてSOAレジストリを自社のアプリケーションサーバに組み込もうとしている。
SOA市場への参入を狙うソフトウェアAGと富士通は、リポジトリ製品の開発に向けて提携した。一方、4社のベンダーグループがSOAの「成熟モデル」の改良に向けて動き出した。2006年にはこうしたベンダーの提携がさらに盛んになるというのが、大方の予想だ。
「多くの小規模ベンダーが最先端の技術を開発している。そして彼らは、共同作業をするのも、とても上手になった」(メインズ氏)
(この記事は2006年1月11日に掲載されたものを翻訳しました。)
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