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仮想化導入ガイドPart6 誇大宣伝に要注意【前編】――サーバとOSStep by Step

マーケティング関係者が仮想化という言葉を誤用して人々に誤解を与えている。ここでは「サーバの仮想化」と「OSレベルの仮想化」という2つの言葉とその技術について見ていく。

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 仮想化は、コンピューティングリソースの利用についての考え方を根本的に変えつつある。2006年には、通常なら新しいITに飛びついたりしない企業の間でも、仮想化の導入が急速に進んだ。こうした動きは、仮想化のメリットが魅力的なことを示しているが、その一方で、企業のIT部門にとってある種危険な状況をもたらす。

 仮想化は意味の広い言葉であり、コンピューティングリソースを抽象化する幾つかのアプローチを指す。そこで、これらのアプローチそれぞれの違いを理解し、この用語の乱用が見られる現状を認識し、仮想化が今後10年間でインフラをどのように変えるかという見通しを持つことが、極めて重要になる。

 以下では、マーケティング関係者が仮想化という言葉を誤用して人々に誤解を与えていることを指摘する。また、実にさまざまな形で語られている「サーバの仮想化」と「OSレベルの仮想化」という2つの言葉、そして技術について見ていく。次回は、同じくむやみに使われている言葉である「アプリケーションの仮想化」と「ストレージの仮想化」を取り上げる。

言葉の乱用

 仮想化は、IT分野に10年に1度クラスの大きな変化をもたらしていると思う。この言葉自体をビジネスに利用したいという誘惑に逆らえず、ますます多くのベンダーが新旧の技術を説明するのに仮想化という言葉を用いている。ところが、そうした技術は多くの場合、仮想化とはほとんど関係がない。

 最も顕著な例は、「ネットワークの仮想化」や、場合によっては「セキュリティの仮想化」といった言葉まで使い出しているセキュリティベンダーだ。無節操なマーケティング関係者がこうした言葉を、一般に「エンドポイントセキュリティ」というカテゴリーでくくられてきた一連の技術の新しいキャッチフレーズにしようとしている。そうすることで、一部のスイッチで長年提供されてきた仮想LAN(VLAN)や、エンドポイントセキュリティの基盤となる検疫ネットワークのような既存のネットワーク機能が、目新しい機能として新製品の売り物になるというわけだ。

 もう1つの例として、アプリケーションの仮想化がある。この言葉はしばしば、シンコンピューティングという既知の概念と混同されている。シンコンピューティングでは、アプリケーションはサーバでホストされ、非力なクライアントからリモートアクセスされる。アプリケーションの仮想化は、シンコンピューティングのシナリオにうってつけだが、両者はまったく異なる技術だ。

 恐らく、仮想化という言葉が最も乱用されている分野はストレージだろう。マーケティング関係者は、ブロック、ディスク(昔ながらのRAID)、ファイルシステム、テープドライブなどの説明に仮想化という言葉を持ち出している。

 さまざまな機能がコンピューティングのさまざまな側面を抽象化するのは確かだが、ベンダーがそうした機能の名前を変えて新技術として売り込めば、顧客を混乱させることになる。顧客の側では、仮想化という言葉がどのような文脈でどのように使われるかを、注意深くチェックしなければならない。

サーバの仮想化

 サーバの仮想化は、現在知られている中で最も成熟した仮想化の形態だ。プロセッサ、メモリ、ネットワーキング、大容量ストレージデバイスなど、物理サーバのすべてのハードウェア要素を抽象化する。この技術では、各種のOSをインストールできる仮想マシン(ゲスト)を複数作成し、相互に完全に独立して動作させる仕組みが提供される。十分に強力な物理サーバ(ホスト)では、同時に多数の仮想マシンを運用できる。

 サーバの仮想化には、以下に挙げるような多くのメリットをもたらす。

  • 購入、更新、交換、拡張、保守が必要な物理サーバの総数の削減
  • 低コストのフェールオーバアーキテクチャの作成によるダウンタイムの削減
  • 新しい複雑な構成のソフトウェアの導入時間の短縮
  • レガシープログラムの仮想マシンへの移動
  • セキュリティ確保を目的とした隔離された環境の構築
  • 省スペース、省電力
  • コンピューティングリソースの有効活用、各ホストに割り当てるリソースの最大化
  • 新製品の導入時間の短縮
  • 作業環境の共有と移行

 要するに、サーバの仮想化により、大幅なコスト削減と効率向上を実現できるということだ。

 サーバ仮想化ソリューションは、当初は2つの目的を想定して販売されていた。レガシーなプラットフォームおよび製品(これらは多くの場合、企業の新技術導入を妨げている)の運用と、サーバ統合だ。だが今では、仮想化は多くの目的に貢献している。例えば、ソフトウェア開発、テストおよび品質保証プロセスの簡易化、セキュリティ、ディザスタリカバリコストの低減、侵入検知の支援などだ。

 現在の仮想化市場では、ヴイエムウェア(2年前にEMCに買収された)とマイクロソフト(コネクティクスを買収して2002年に市場参入した)が優勢だ。また、パラレルズというベンダーが2005年に参入し、アップルのインテル版Mac OS Xに対応した仮想化ソリューションで顧客を獲得している(パラレルズはSWソフトの傘下にあることを2007年初めに明らかにしている)。だが、パラレルズは、サーバ分野で競争できることをまだ証明していない。

 仮想化に関しては、パフォーマンスの低下を招き、場合によってはそのデメリットが仮想化の潜在的メリットを上回るという批判もある。このパフォーマンス低下を軽減するために最初に登場したアプローチは、準仮想化と呼ばれるものだ。このアプローチは、ゲストOSのカーネルを変更することでハードウェアの抽象化を支援するというシンプルな考え方に基づいている。しかし、このアプローチには大きな技術的課題がある。OSの新バージョンを導入するには、毎回あらかじめ仮想環境用に手を加えなければならないことだ。これでは、OSの新バージョンの導入が明らかに遅れるほか、仮想環境の信頼性が不確かなものになってしまう。

 また、すべてのベンダーが、ソースコードにアクセスして準仮想化のために変更を加えることを認めているわけではない。そのために、準仮想化をサポートする有名なオープンソースソフトウェアであるXenや、バーチャルアイアンの製品のような商用ソフトウェアは、従来あまり普及していなかった。Windowsがクローズドソースであり、準仮想化環境でゲストOSとして利用できなかったことから、大部分の企業にとって、準仮想化技術を採用する余地はなかったからだ。

 しかし最近では、ゲストOSに変更を加える必要性をなくし、新たにWindowsも準仮想化環境で利用できるようにする仮想化機能が、AMDとインテルという2大CPUメーカーのプロセッサに搭載されるようになっている。こうしたプロセッサは仮想化製品によって調整され、ゲストOSを透過的に動作させる。ゲストOSは、ホストOSと同等にハードウェアを完全に管理する。これによって準仮想化環境のパフォーマンスが上がり、仮想マシン相互の独立性が向上する。

 最近の仮想化プラットフォームは、こうした新しい機能に大きく依存しており、次世代製品はそれらを最大限に活用するようになる。サーバでもデスクトップでも、新しいハードウェアの購入時には、こうした仮想化機能を備えたプロセッサが搭載されているかどうかを考慮すべきだ。

 ただし、注意しておかなければならないことがある。現在のサーバ仮想化製品は成熟しており、大多数の企業にとって経済的で信頼できるソリューションを提供する。しかし、こうした企業が仮想インフラを大規模に導入すると、とたんにまったく新しいタイプの問題に直面することになる。それは運用管理の高度な自動化だ。こうした自動化をサポートする適切なソリューションは、まだ市場で提供されていない。

OSレベルの仮想化

 OSレベルの仮想化は、ハードウェアの抽象化とは異なるアプローチだが、一定の支持を得ている。その考え方は、UML(User Mode Linux)を利用するLinuxユーザーには既知のものだ。仕組みとしては、OSの複数のインスタンスを作成し、共通ソフトウェアパッケージを共有させる一方で、各インスタンスごとに別の要素を新しくインストールしたり、別のネットワークプロパティを持たせたりできるようになっている。

 このアプローチには、Webホスティングのようなニッチな分野の企業が関心を寄せている。その大きな要因は、このアプローチを推進しているSWソフトが賢明にも、OSレベルの仮想化技術を商用製品(Virtuozzo)とオープンソースの機能限定版(OpenVZ)の両方で提供してきたことにある。

 仮想化の導入を考えている企業は、サーバの仮想化(ハードウェア抽象化)とOSレベルの仮想化の違いを検討する場合が多い。サーバの仮想化では高度なセキュリティを確保できるが、OSレベルの仮想化では管理の手間を軽減でき、例えば、OSへのパッチ適用や新しい共通アプリケーションのインストールは、1回行うだけですべてのOSインスタンスに反映される。

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