WAN最適化とアプリケーション高速化──データセンター統合成功の決め手:支社にも本社同等のネットワークを
支社のローカルサーバをデータセンターに統合することは、コスト削減やより安全な環境の実現、保守の簡易化につながる。だが、それによってユーザー環境が悪くなるようでは本末転倒だ。
ある大企業でIT統括役員が、支社のローカルファイルサーバをデータセンターに統合することを決めた。統合は理にかなっている。コスト削減やより安全な環境の実現、保守の簡易化につながるからだ。しかし、プロジェクトの早い段階で問題が持ち上がった。最初にファイルサーバ統合の対象となった支社が、「ファイルのダウンロードに時間がかかり、生産性に悪影響を与えている」と苦情を言ってきたのだ。この統合プロジェクトは、アプリケーション高速化という支社向けの新しい技術を導入することで救われた。アプリケーション高速化アプライアンスにより、ダウンロード時間は許容できるレベルに短縮され、プロジェクトは再び軌道に乗っている。
支社はビジネスにとって重要だ。支社は本社と同じ品質のサービスを必要としており、格下として扱うなどもってのほかだ。支社で通信ができなくなると、すぐに企業全体に影響が及ぶ。ただし、支社に優れたサービスを提供するには、相応のコストが掛かる。分散ネットワークの管理を難しくしている要因は、サーバ統合だけではない。Webブラウザベースのアプリケーション(Webアプリケーション)への移行により、各トランザクションのサイズが大きくなっている。しかも、HTTPは効率が悪い面があるため、Webアプリケーションは、従来のクライアント/サーバアプリケーションよりも遅くなりがちだ。
サーバ統合が抱える課題
サーバベースアプリケーションの発展は生産性向上に多大な貢献を果たしており、分散された拠点の社員に重要な機能をもたらしている。ファイルサーバにより、ユーザーは重要なビジネスデータを素早く取り出せる。MicrosoftのExchange Serverのような電子メールサーバは、高速で効率的な電子メールサービスを提供する。こうしたサーバを支社で運用することで、良好な応答時間、ひいては高い生産性が当たり前のように享受されるようになった。
しかし、支社におけるサーバやアプリケーションの利用拡大にはマイナス面もある。まず、保守や問題解決のコストがかさむ。ITスタッフが問題をリモートで診断する場合、時間が余計にかかり、高価なツールが必要になる。リモート環境は支社の社員とITスタッフの両方にフラストレーションを与える。また、リモートサーバは、利用率が低いとそれだけリソースを浪費していることになるが、これはありがちなことだ。さらにサーバがリモートにあると、バックアップとリカバリにも時間がかかり、高価なWANの帯域(リソース)を消費することになる。さらに、サーバのセキュリティも課題となり、データ保護に関する規制要件の多くが順守しにくくなる。
こうしたことから、リモートサーバのデータセンターへの統合が盛んに行われてきた。データセンターにはITスタッフが常駐しており、問題が起きればすぐに対応できる。サーバがデータセンターにあれば、バックアップやリストアも迅速に行える。ベストプラクティスを適用して、サーバ上のデータを安全に保つのも容易になる。すべてのサーバをデータセンターに置けば、ITスタッフはVMwareなどのサーバ仮想化技術を利用して数台のサーバを1台にまとめることもできる。
サーバ統合と呼ぶかデータセンター統合と呼ぶかはさておき、このアプローチは多くの問題を解決する。しかし、サーバをデータセンターに移すのは、完ぺきな解決策ではない。支社の社員はしばしば、生産性やモラルに悪影響を与える「応答時間の悪化」を経験する。また、統合は予算にも影響を与える。データセンターにサーバを置いて支社にすべてのデータを転送するには、多くのWANリソースが必要だからだ。
問題は、いかにして良いインフラ設計をより良いものにするかだ。答えは、サーバ統合のすべてのメリットを享受しながら問題点を解決できる新技術を導入することにある。現在利用可能なこうしたソリューションは、2つの名前で呼ばれている。「WAN最適化」と「アプリケーション高速化」だ。どちらもほとんど同じ技術ソリューションを指している。ベンダーは、WAN帯域の節約とそれによるコスト削減を強調したい場合は、WAN最適化に焦点を当てる。一方、応答時間と生産性の向上を強調したい場合は、アプリケーション高速化に焦点を当てる。
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