すべての人を満足させるプロジェクトマネジャーなどいない:プロジェクトマネジャーのあるべき姿
これまではビジネス分野で貢献するプロジェクトマネジャーとして自分の仕事のことだけを考えていればよかったが、最近はそれだけでは駄目らしい。
この2〜3日の間、わたしは「プロジェクトマネジメントもグリーンに」やら「エコフレンドリーなプロジェクトマネジャーたれ」やらと、散々攻め立てられた。そこでプロジェクト管理表の印刷には再生紙の裏面を使うことにした。わたしは素直な人間なのだ。だから、エコフレンドリーがどうのこうのと、もうあまりうるさく言わないでもらいたい。こんな風潮になったのもみなアル・ゴアのせいだ、と愚痴の1つもこぼしたい気分だ。われわれはビジネス分野の誰からも愛されるべきプロジェクトマネジャーとして、自分の仕事のことだけを考えていればよかったのに、それだけでは駄目だというのだ。
いや、わたしも分かっている。あらゆる人々が、この厄介な惑星を救うために何かをしなければならないことを。家庭では電球を省エネタイプに交換できる。このような危機意識をプロジェクト手法に適用すれば、われわれプロジェクトマネジャーは何千個もの電球を1度に交換するくらいの権限を持つことができるのだ。われわれは基本的に、家にいるときよりもプロジェクトの世界の中にいるときの方が大きな権限を持っているので(わたしの知っている連中は大抵そうだ)、より大きな貢献ができる。それは家庭で行う貢献よりも社会的であり、より倫理的でもある。
プロジェクトマネジャーには職業的・社会的責任の基準を示したドキュメントが必要だ。われわれはプロジェクトを遂行するために雇われている。目標が与えられると(それがどんな目標であれ)、ミッションが完了するまで走り続けるのだ。目標が到達しやすいものであれば、プロジェクトマネジャーにお呼びが掛かることはない。簡単に政府間の合意が成立するなら海兵隊を派遣しないのと同じだ。われわれの役目はとにかく仕事を完遂することだ。手間を省けるときは手間を省く。わたしがいつも自慢げに言っているように、「これまで迂回できなかった手順は1つもない」のだ。
1990年代、2人のフランス人が「Managing Sensitive Projects」(厄介なプロジェクトの管理)という素晴らしい本を書いた。彼らは、核廃棄物処理施設の建設や大規模なレイオフ、倫理的に微妙な問題があるプロジェクトなど、誰もやりたがらないようなプロジェクトを手掛けている。彼らは、こういったプロジェクトにどのようにアプローチしたかをこの本の中で説明している。なかなか面白い本だ。人を動かす方法の入門書ともいえる。最初のルールは協力者にフォーカスすることである。ある方針を受け入れてもらう必要があるのだが、一部の人々がそれに反対している場合、彼らを説得するのに力を注ぐのが一般的な方策だ。しかし彼らによると、それよりも方針に同意する人々を後押しして反対者を説得してもらうようにすべきだという。そうすれば、より多くの人がその方針を広めてくれる。しかも、彼らの多くは反対者と同じ環境にいるのだ。一般的に考えて、まったくの部外者の意見よりも同じ環境にいる人の意見の方が受け入れやすいものだ。
同書にはこんなアドバイスもある。それは側面支援的なプロジェクトも立ち上げることだ。すなわち、特定のグループの人々にアピールするようなプロジェクトや最終目標を策定するのだ。プロジェクトへの協力を得るためには、異なる部分に注力したり、何かを追加したりする必要もあるだろう。核廃棄物処理施設の建設予定地近隣の住民が健康への影響を心配しているのであれば、プロジェクトには健康への影響の調査も含まれていることを説明すべきである。住民の参加も要請するといい。こういった提案をすると、相手は得をしたような気持ちになるものだ。人々の欲望や恐怖心に訴求すれば、大したことのないものでも非常に魅力的なものに見せることができるというわけだ。
だがこれは昔の話だ。今ではそれほど簡単にはいかない。Webがそのような可能性を葬ったのだ。インターネットは恐ろしいほどの透明性をもたらした。あらゆるものが接続されてフラット化した世界では、うわさや評判はあっという間に広がる。10年前は、ヨーロッパにいる人がアフリカにいる人の評判について手掛かりを得ることなど、ほとんど不可能だと思われた。インターネットは人々が相互に意見を共有する評価システムをもたらした。Amazonのように書籍をはじめとする製品の推薦(レコメンデーション)や批判にとどまらず、最近では人間も評価の対象となってきた。LinkedInもレコメンデーション機能を提供している。WeVouchForはさらに一歩先を進んでいる──このサイトでは、特定の仕事が得意な人を具体的に推薦するのだ。それで何が起きるかは、ふたを開けてみないと分からない。あなたが環境保護やリサイクル、動物愛護に熱心なプロジェクトマネジャーであると評判になれば、チームのメンバーから尊敬されて仕事がやりやすくなるかもしれないし、プロジェクト管理という厳しい世界には向いていない軟弱なタイプという烙印を押されるかもしれない。厳しい話だ。
本稿著者のバス・デバー氏は、混沌としたプロジェクト管理の世界に精通している。出版業界でプロジェクトマネジャーを務めており、プロジェクト管理を専門とした有名なWebサイトwww.SoftwareProjects.orgの編集者でもある。著書には、実際の経験に基づいたプロジェクト管理に関する参考書「Surprise! Now You're a Software Project Manager」(Multi-Media Publications、2006)がある。
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