「地域医療連携」のために準備すべきこと:医療のIT化コラム:第3回
今回から2回にわたり「地域医療連携」をテーマに、その実現を支える医療機関を連携させた情報基盤の構築について取り上げる。
効率よく高品質で安全な医療を提供するために
2008年4月、「第5次医療法改正」が施行された。医療制度全体に影響を及ぼす規模の医療法の「大改正」としては、1948年の医療法施行以来5回目。それぞれの改正の内容から、適切な医療を提供するための方法論が変遷している様子が見て取れる。
第1次医療法改正(1985年)では、医療費抑制への試みとして「病床数の抑制・削減」が実施された。1970年代から増え続ける医療費が既に大きな問題となっていたことが背景にある。しかし、単純な病床数の削減では、社会の高齢化や疾病構造の変化に対応できなかった。その後、第2次改正(1992年)以降、医療施設の機能分化による診療効率向上への試みが始まった。医療施設単位での機能分化は、医療施設間での機能連携を行うことが前提となる。第3次改正(1997年)、第4次改正(2001年)においてさらなる機能分化が進められると同時に、「地域全体における医療サービスの提供という観点での法制化」が進んでいく。
そして第5次改正では、地域において急性期から回復期、慢性期、介護、在宅医療までの切れ目のない医療を提供する仕組みの構築を目指した「地域連携クリティカルパス」の制定など、医療機能のさらなる分化と医療機関間の連携が推進されている。
また、日本政府が主導する幾つかの関連施策(国民電子私書箱、国民ID制度、どこでもMY病院、社会保障カードなど)も併せて、病院という単位を超えた情報連携はさまざまな方向から実現への歩みを進めている。「EHR(Electronic Health Record:生涯健康医療電子記録)」実現に向けたさまざまな施策もその1つである。
EHR成功のために要求される取り組み
最近、ロンドン大学のDipak Karla教授から興味深い話を聞いた。彼は、EHR実現のための要求される5つの取り組み(Engagement)を挙げている。
(出典: Professor Dipak Karla, Center for Health Informatics and Multiprofessional Education, University College Londonによる2010年11月22日講演「Designing open EHR and ISO 13606 archetypes to support semantic interoperability」におけるスライド「EHR実現のための要求される5つの取り組み」から抜粋)
EHRの実現は医療分野だけでなく、社会と国の関与も含めてすべてのステークホルダーがその役割を果たさなくてはいけないというものだ。ITサービスを提供するベンダーは、例えば、相互運用性のための技術的なコンテンツの議論のみならず、既存のシステムを生かしつつ、ソリューションが難解なものに陥ることがないよう現実的な解を探し、EHRが永続するためのビジネスケースを提案することが求められている。
ここからはITサービスベンダーの視点から、地域連携実現の道のりにおける準備事項と、現在市場にあるプロダクトを組み合わせて実現できるソリューションについて実例を挙げていく。
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