富士通、独自の画像軽量化技術で“エンジニアリングクラウド”提供へ:NEWS
富士通もついにPLMクラウドへ。仮想クライアントと画像軽量化技術を組み合わせ、情報の一元化、垂直立ち上げやサプライチェーンへの広がりも視野に入れた、同社技術の部門横断的な展開に注目したい。
富士通は2011年6月21日、「エンジニアリングクラウド」を発表した。PaaS型とSaaS型の2形態で提供する。同社がグループ全体で提供しているクラウド基盤と、PLM関連ソリューションを連携し、富士通研究所が開発した仮想デスクトップ高速表示技術である「RVEC(レベック)」を組み合わせたSaaS/PaaSサービスだ。
RVECは、富士通研究所が独自に開発した画像軽量化技術で、富士通アドバンストテクノロジが実用化したもの。同サービスでは、3次元CAD図面表示にRVECを応用、クラウドサーバ上に置かれた図面データを、一般的なPC端末でも閲覧できるようにした。富士通では、RVECを利用した場合、「データ転送量を従来の約10分の1に削減」できるとしている。また、図面操作の実態に合わせて、フォーカスした作業領域以外を簡略化するなどの独自の軽量化のアイデアも盛り込まれている。今後はスマートフォンなどのモバイル端末への展開も視野に入れているという。
富士通 執行役員常務 産業ソリューションビジネスグループ長 森隆士氏
「富士通は現在『NextValue』をキーワードに各種提案を進めている。富士通が持つソフトウェア、ハードウェア、インフラの各技術を横断的に組み合わせ、顧客の価値創造を促す展開を進めていきたい」とし、2010年度に発表した製造装置メーカー アマダ製品の付加価値サービスが同社のM2Mクラウドとセンサー技術、組み込みソフトウェアによって実現していることをその例として示した
エンジニアリングクラウドでは、データセンター上に仮想クライアントを設定し、仮想クライアント上で操作を行う。実際の操作はサーバ側にある仮想クライアントで行い、結果データのみをRVECを経由してクライアント端末に表示させる。この場合、クライアント端末側では、画像データの表示処理と画面上のマウスなどの操作情報のみをサーバとやりとりすればよく、実際の3次元形状の変更や影響チェックなどの処理はサーバ側の仮想クライアントに任せることができる。このため、クライアント側に高スペックのハードウェアを用意しなくても設計業務が可能になる。また、設計・解析アプリケーション側に大きな変更を行わなくても対応できる点もポイントとなる。「表示系をRVECで軽量化して提供するだけなので、原則としてどのようなアプリケーションであっても対応可能」(会見で技術説明を担当した富士通アドバンストテクノロジ 執行役員 太田黒浩幸氏)というように、同社が提供するCADシステム以外でも展開可能だという。
富士通では自社製品において既にこのインフラを利用した設計・解析などを行っており、これらノウハウや各種ライブラリ群などについても「富士通ものづくりノウハウ」サービスとして提供していくとしている。
富士通 民需ビジネス推進本部 PLMビジネスセンター長 永嶋寿人氏
先行導入事例として電動パワーステアリングシステムなどを製造するジェイテクトが導入検討を進めていることを示した。ジェイテクトでは約2年前からRVECを使ったシステム運用の検証を進めているという
エンジニアリングクラウド/SaaSは、CAD、CAE、PDMなどの設計業務で利用するアプリケーションをWebアプリケーションSaaSサービスとして提供、前述の「富士通ものづくりノウハウサービス」も提供する。一方のエンジニアリングクラウド/PaaSは、プラットフォーム全体をサービスとして提供するもの。サーバや仮想クライアント環境などを全て富士通のクラウド基盤(もしくはオンプレミス環境)に置くもので、いずれもシステム運用コストを低減する効果があるとしている。
サービスは富士通が持つクラウド基盤を利用して提供する。富士通のクラウド基盤は、日本国内では2010年10月にオープンしており、2011年2月にオーストラリア、3月シンガポール、5月に米国・英国、6月にドイツで既にサービス提供を開始している。
同社ではこのエンジニアリングクラウド基盤を中心に、各種解析(熱解析、ノイズ解析など)や環境負荷計算、製造指示書生成などもサーバ側で提供する考え。
なお、エンジニアリングクラウドの正式出荷は2011年10月を予定している。第一弾は統合BOM「PLEMIA M3」や環境情報管理システム「ECODUCE」のSaaS提供になる見込み。
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