審議会で6つの論点が提示、IFRS議論に薄明かり:【IFRS】金融庁 企業会計審議会が開催
IFRS適用の方法や日本基準の考え方など委員の間にはまだ隔たりがあるが、金融庁の事務局が論点を示したことから議論の筋道はぼんやりと見えてきた。
IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の日本企業への適用を検討する金融庁の企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議が10月17日に開催された。IFRS適用の方法や日本基準の考え方など委員の間にはまだ隔たりがあるが、金融庁の事務局が論点を示したことから議論の筋道はぼんやりと見えてきた。
金融庁事務局は「諸外国の情勢」「我が国の会計基準・開示制度全体の在り方」として討議資料を用意した。諸外国の情勢については以下の6つの論点を示した。
論点の骨子
- 金融危機以降の会計基準の在り方の議論で留意すべきことは
- IFRS適用についての各国の対応はさまざま。日本もさまざまな選択肢を考慮し、戦略的に検討を進める必要があるか考えるがどうか
- 日本のこれまでのIASB(国際会計基準審議会)への取り組みをどう評価するか。今後、どのような戦略を取るべきか
- 戦略を実行する上での基準設定主体、作成者、利用者、監査人、取引所、規制当局などの利害関係者に求められる役割は
- 今後予定している海外視察において、追加調査が必要と考えられる事項は
- その他、国際的な動向で論点とすべき事項は
議論ではこの論点を踏まえて主に「IFRS適用の方法、連単の関係」「IFRSへのかかわり方」などがテーマとして挙がった。
適用方法と連単の関係では、経団連の企業会計委員委員長 廣瀬博氏(住友化学工業 取締役副会長、金融庁参与)が、「経団連としてまとめたものではない」とした上で、「米国は自国基準の堅持を打ち出している。我が国の経済界でも自国基準を堅持することを支持する考えがある」と指摘。現行の指定国際会計基準を利用し、日本基準を生かしながら、「2頭立てでいくことを支持する人もいる」と話した。「IFRS任意適用の普及状況を見ながら、全ての上場企業ではなく、例えば数百社程度の上場会社へ強制適用する選択肢もある」と段階適用、選択適用にも言及した。
斉藤惇氏(東京証券取引所グループ 取締役兼代表執行役社長)は「日本がまずは連結優先でIFRSを適用していくのでいいと思う」と話した。適用は全上場企業ではなく、「ある程度の限定された企業、全体の80〜90%を占める企業には連結財務諸表をIFRSで開示することを義務付ける考え」で、適用のタイミングについては「時間は様子を見てでもいいと思う」として、一定の準備期間を置くことに理解を示した。IFRS財団の評議員である島崎憲明氏(住友商事 特別顧問)は「連結と単体を分けて議論をしないといけない。国際的な資本市場で求められるのは連結の開示であり、そこに絞って議論すべき」と話した。
日本基準の堅持、コンバージェンスは終了を
IFRS慎重派といわれる佐藤行弘氏(三菱電機 常任顧問、金融庁参与)は「日本は現時点でEUの同等性評価をクリアし、コンバージェンスもしてきた。連結先行という考えは役割を終えたといえる」と指摘。その上で「日本基準の堅持を明確にして、コンバージェンスは終了させていく。今後は、MoUの状況を見ながら是々非々の対応を打ち出した方がいいと思う」として、開示については「連結は日本基準とIFRS、単体は日本基準で問題はない」とした。さらに「連単分離と日本基準の堅持を早く打ち出してほしい。連結開示がマーケットでは主流なので、単体開示の有用性は低下している。日本では単体開示は廃止する方向で検討すべきと思う」とも話した。単体開示については「会社法上の決算報告を参照すればいいのではないか」とした。
これらの意見に対して鈴木行生氏(日本ベル投資研究所 代表取締役)は「投資家は単体の情報も必要と考えるのが当然。材料は全て出してほしい」とアナリスト、投資家の意見を代弁した。ただ、単体財務諸表の開示が必須という訳ではなく、「必要に応じて出してもらえればいい」とした。
また、公認会計士の泉本小夜子氏は「監査の現場で何が起きているかを説明したい」として、連結に米国会計基準を適用し、単体を日本基準で開示している企業の監査について話した。このような企業の場合、監査法人の国際チームと国内チームがそれぞれ作業を行っているという。特に国際チームが米国の監査法人や当局に問い合わせることが多く、「かなり時間とコストが掛かっている」と話した。IFRSではIASBのサテライトオフィスが東京にできることで、そのコストが抑えられる可能性はあるが、連結がIFRSで、単体が日本基準のままでは、やはりコスト増が考えられるという。このコストを下げるためには、コンバージェンスなどで「なるべく日本基準がIFRSに近づいていくべき」とした。
IFRSと正面から向き合っていくべき
合同会議の議論では「日本基準を堅持すべき」という意見が多く聞かれた。その理由は「ゴーイング・コンサーンを前提とする優れた経営慣行がある」(廣瀬氏)、「確定決算主義の思想を保持している」(佐藤氏)、「研究開発を着実に行ってきた日本企業はアジアでも評価されている。バランスシートで企業の売買を前提するのではなく、損益計算書を前提にというのは死守すべき」(逢見直人氏・日本労働組合総連合会中央委員・UIゼンセン同盟会長付、金融庁参与)などだ。逢見氏は「IFRSへの対応は国によってさまざまで、日本でも戦略的な取り組みが必要。国益や日本の国民が今後どう食っていくのかを考えないといけない。技術開発、研究開発投資が促進されることで雇用の創出につながる。日本の会計基準もこれに資するものにすべき」と訴えた。
これらの意見に対しては、日本基準の良さをIASBなどの国際社会に訴えつつ、いかにIFRSに反映させていくかが重要との指摘があった。斉藤氏は「ゴーイング・コンサーン会計とIFRSのどこに矛盾があり、IFRSをどう変えていくかを明確にしないといけない」と指摘。その上で現行の日本基準にこだわる余り、「(国際的に)独特なものになってしまうとダメだ」とした。
柴田拓美氏(野村ホールディングス グループCOO)はIFRSに関するこれまでの日本の取り組みについて、「日本はこれまで上手にやってきた。日本の立場を強めた関係者の努力に敬意を表したい。強い立場を引き続き維持することが大事」と述べた。その上で「(IFRSの今後について)日本の国益を押し出すのではなくて、誰でも賛成できるような主張を述べて、賛成してもらえればあなたにも利益があるというのが重要だ」とした。また、「ゴーイング・コンサーンや保守主義は日本の企業に限定されるわけではない。IFRSと正面から向き合っているという姿勢を崩さず、前向きに貢献することが必要だ」と話した。
根本直子氏(スタンダード&プアーズ マネージングディレクター)もアナリストの立場として「日本の在り方が過小評価されている。日本の会計制度のすばらしさが海外に伝わっていない。(ローカル基準という)表面的なことで評価される」として国際資本市場におけるリスクを指摘した。
山崎彰三氏(日本公認会計士協会会長)は「ゴーイング・コンサーンについては国際的にはどちらかというと役目が終わった考え方」とした上で、「日本の発言力をどう維持するのか。日本の特殊事情を述べるのではなく、理解してもらえるようなロジック展開をする必要がある」と話し、日本の考えをIASBなどに訴える際のポイントを指摘した。また、IFRS財団評議会の副議長 藤沼亜起氏は「大局はどうか、世界がどう流れていくかを常の意識して次の手を打たないといけない」と話した。ASBJ(企業会計基準委員会)などの基準設定主体についても「独立性を持って基準を作ってほしい。それが世界の基本。忘れてほしくない」と述べた。
日米欧の開示制度を比較
今回の合同会議では「日米欧の開示制度」についての討議資料も配布された。論点としては以下の4点が示された。次回以降の会議で議論される予定だ。
論点の骨子
- 単体財務諸表の会計基準は、会社法・税法や我が国固有の商慣行などとの関連が深く、その在り方はより慎重な検討が求められると考えられるがどうか
- 日本は連結では米国基準、IFRSを採用可能として、単体では日本基準とする連結と単体の分離が生じている。これまでの運用で大きな問題は生じていないと考えられるがどうか
- 日本基準の連単で示されている「連結先行」についてどう考えるか
- その他、会計・開示制度、連結と単体の関係について論点とすべき事項はないか
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.