2012年3月:SEC会計士がIFRS導入に前向き:【IFRS】忙しい人のためのIFRS Watch【第12回】
IFRSにかかわる組織から毎月、公表される各種文書。ムービングターゲットと言われ、変化を続けているIFRSの姿を捉えるにはこれらの文書から最新情報を得る必要がある。今月は米国SECの主任会計士による、IFRS適用についての発言などを紹介する。
2012年は米国が延期されていたIFRS適用の判断をするとされている年だ。日本でも企業会計審議会での議論によってIFRS適用の方針が決まる見込み。2012年はIFRSの今後の動向が決まる年になるだろう。本稿では2012年2月のIFRS関係の世界と日本の動向をお伝えする。
【これまでの記事】
- 2011年4月:IASB、顧客との契約から生じる収益
- 2011年5月:IFRS第10号(連結財務諸表)他のレビュー完了
- 2011年6月:米国のIFRS移行方法の1つ「コンドースメント」
- 2011年7月:SEC、一部企業にIFRSの「オプト・アウト」を認める可能性
- 2011年8月:「コンドースメント」議論する公開討論
- 2011年9月:AICPAがIFRS任意適用を提言
- 2011年10月:収益認識などの基準化に関する議論
- 2011年11月:最新の公開草案に日本がコメント
- 2011年12月:米国のIFRS適用判断が「数カ月」延期
- 2012年1月:収益認識の再公開草案が及ぼす影響
- 2012年2月:IASB議長、米国のIFRS適用を予想
記事内の略号
ASBJ:企業会計基準委員会
FASB:米国財務会計基準審議会
IASB:国際会計基準審議会
IFRS:国際財務報告基準
MoU:IFRSと米国の会計基準との間の差異に関するコンバージェンス合意
SEC:米国証券取引委員会
・2012年2月6日 ASBJとFASBの代表者による定期会合の開催(ASBJプレスリリースより)
企業会計基準委員会(ASBJ)と米国財務会計基準審議会(FASB)の代表者が米国のノーウォークで12回目の会合を開催した。この会合は、ASBJとFASBが定期的に年2回行っているものである。
ASBJは、FASBとIASBが共同で取り組んでいるプロジェクトの内容を踏まえた上で、日本基準とIFRSとのコンバージェンスを行っており、高品質なグローバル会計基準の開発を目指すFASBとIASBの取り組みを支持している。
本会議においては、ASBJとFASBは高品質なグローバル会計基準の開発に貢献するという観点から、お互いの活動の最新状況を確認し、以下のプロジェクトにつき意見交換を行った。
- 金融資産の減損
- 金融商品の分類と測定、および保険契約
- ヘッジ会計
- 収益認識
- リース
- 投資会社
ASBJとFASBは、引き続き、直面する課題や今後想定される懸案事項について意見交換していくこととした。
・2012年2月9日 IASBとFASBのミーティング開催(IASB NEWSおよびFASB Project Updateより)
2月27日から3月2日にかけてIASBとFASBのミーティングが実施された。この会議においては、リース、金融商品、年次改善についての検討がなされている。この中で注目すべき点は、リース再公開草案の公表に向けての検討において、借り手の使用権資産の事後測定についてIASBとFASBの見解が相違した点である。両者の見解の相違については、FASBウェブサイトに詳しい内容が示されている。
従来、両審議会は、下記のような暫定決定を行っていた。
暫定決定において借り手は、リース契約について、無形資産の購入とこれと別にファイナンスを行ったかのように処理する。
当初測定
- リース支払債務とリース使用権の双方をリース支払額の現在価値で測定する。
事後測定
- リース支払債務は、実効金利法で測定を行う。
- リース使用権は、原資産に係る将来の経済的価値の費消のパターンに応じて規則的に償却する。
これに対して、IASBは今回の会議において原資産アプローチを支持している。原資産アプローチとは、リース契約を原資産の購入とそれとは別にファイナンスを行ったかのように処理する方法である。このアプローチにおいては、当初測定は暫定決定と同様であるが、リース使用権の償却方法において相違している。原資産アプローチの概要は以下の通りである。
- 使用権資産を(a)借り手によってリース期間にわたり原資産について費消される部分の償却費(b)リース期間終了時における原資産の予想価値についての時の経過に伴う調整額(当初測定時の利率を用いる)の2つの構成要素に分け、この合計額を償却費とする。
一方でFASBは、暫定決定とも原資産アプローチとも異なるアプローチを支持している。
FASBの支持する利息ベースの償却アプローチの概要は以下の通りである。
- リスクと経済的価値のほとんど全てが借り手に移転するリース(ファイナンス・リース)の場合には、上記暫定決定の償却方法を適用する。
- リスクと経済的価値のほとんど全てが借り手に移転しないリース(オペレーティング・リース)の場合には、リース使用権を残存する経済価値の割引現在価値として測定を行う(割引率は、当初測定において用いられた利率を用いる)ことにより償却を行う。
両審議会は、この点について暫定的な合意に至らなかったため、再公開草案でどちらの手法を用いるか決定するため、追加的な調査を行うこととしている。
この見解の相違により、リースプロジェクトが、現行のワークプランにおいて規定される2012年第2四半期よりもさらに遅延する可能性もあると思われる。
・2012年2月20日 IFRSに関する海外調査報告(企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議 議事次第より)
企業会計審議会は2011年11月および12月にIFRSに関する海外調査を実施するため、フランス、ベルギー、ドイツ、米国、カナダ、中国・韓国を訪問した。主な調査項目は以下である。
(1)IFRSの導入方法
カナダではIFRS導入の準備期間として2006年から5年間を設けた(ただ、実際に移行を批准したのは2008年3月で、ここから準備を始めた場合には3年程度の準備期間だった)。
韓国ではIFRS導入のロードマップを2007年3月に公表し、2009年からのIFRSの任意適用を認め(2009年:14社、2010年:47社)、2011年から全ての上場企業へのIFRSの強制適用を行うこととされた。
(2)原則主義への対応
企業からは、監査人の解釈と経営者の合理的と考える会計処理と同じ結論に到達しない可能性への懸念があり、監査人からは、経済実態を示すような会計処理の判断がなされるべきとの指摘がある。
また、米国では訴訟が多く、原則主義に基づく会計処理を巡っての訴訟リスクが高まるとの懸念が企業にあるが、細則主義であっても訴訟リスクはあるとの指摘も聞かれた。
韓国では、原則主義への移行により、会計方針の選択肢が増え、比較可能性が低下していると考えられ、従来は固定資産の耐用年数も、各企業で税務上の耐用年数を利用し同一だったが、K-IFRSでは実質の耐用年数を使用することで減価償却費が変わり、同業での比較可能性が低下していると考えられる。
(3)会社法に与える影響など
単体財務諸表に対してIFRSを適用している国は少ないため、会社法への影響は間接的なものに限定されている。
ただし、韓国ではK-IFRSの導入に伴い、個別会計処理に関連する商法の規定の削除が行われた。また、分配可能利益算定上、未実現利益を控除する改正が行われたが、具体的にどのように未実現利益を算定するかの詳細は検討中とのことである。
(4)税法に与える影響など
フランスやドイツでは、減価償却等の重要な項目については、会計の変更が税金計算に影響を及ぼさないように一定の調整が図られているため、IFRS導入により大きな問題は生じていないようである。
韓国では2011年からのK-IFRS導入に伴い、2010年に(1)無形資産の減価償却費の申告調整の認可、(2)機能通貨導入企業の課税標準の計算方法の新設、(3)貸倒引当金戻入益の益金不算入などの税法改正が行われた。
(5)企業等への影響(産業・雇用、中小上場企業へ与える影響など)
IFRS導入時に、銀行融資の財務制限条項の見直しが行われたなどの影響があった。
(6)IFRSの導入を円滑にするための方策
IFRSを導入する際にはガイダンスが必要であり、監査人が強制適用以前のIFRS の適用経験を生かし、適用ガイダンスをすでに開発していたり、業界団体が監査人と共同でガイダンスを出すケースなどがあった。また、ソフトウェアの収益認識や保険契約についてIFRSに具体的な基準が無いため、米国基準を参照したケースもあった。
カナダでは、初めてのIFRS四半期報告では30日の延長期間を設けたこともあり、ほとんど全ての企業が第1四半期でのIFRS報告を提出した。また、初めてのIFRS四半期報告については、オンタリオ証券取引委員会(OSC)が全企業の提出書類をレビューし、修正再表示を減らすことを目的として、まだファイリングしていない企業をターゲットに、先にレビューした企業で見つかった問題点をWebで公表した。
韓国では欧州をモデルとして、実際のIFRS適用上の疑問に答えるための質疑応答制度(プリクリアランス制度)が設けられ、監査人も参加しているが、当初考えていたよりも企業から寄せられる質問は多くなかった。また、4大監査法人が中小の上場企業に対して無料でコンサルティングを行ったほか、システム構築費用を中小企業庁が支援した。
・2012年2月21日 米国証券取引委員会(SEC)主任会計士がIFRSの導入について、前向きな発言(Journal of Accountancyより)
SEC主任会計士が2月20〜21日に開かれたIASB諮問委員会において以下のように発言した。
- SECスタッフは現在IFRS導入についての最終報告書を作成中であり、今後数カ月以内に完成する予定である。
- 現在、IASBとFASBはコンバージェンスプロジェクトにより、会計基準の差異について、議論しているが、いまだ結論が出ていない金融商品会計に関する論点についてもアメリカのIFRS導入に関して大きな影響を与えている。
- IFRSを導入することになっても、アメリカは会計基準の設定に強い発言力を保持する必要がある。
アメリカのIFRS導入については、延期されたこともあり消極的との見方もあったが、今回の発言はそれを否定し、積極的にIFRSの導入を検討していることをアピールしている。
・2012年2月29日 IFRSに関するアンケート調査結果(企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議 議事次第より)
経団連が2011年9月に業界団体等を対象として、IFRSに関する調査を行った。この中で、以下のような意見があった。この調査結果の概要は、調査時点における意見を整理したものであり、今後、経団連としての意見形成に向けて、さらに議論を深めていく方針である。
(1)IFRSの適用方法や適用時期
2012年中には、米国の動向を十分に注視した上でIFRSの適用方法や適用時期の方向性を明確にするべきである。
(2)IFRSの適用対象
IFRSの適用対象を連結財務諸表に絞るべきであり、強制適用を行う場合には国際的な資金調達ニーズを有する企業に限定するべきである。
(3)原則主義への対応
監査人と企業の意見が対立することがないように、監査人に企業の会計方針を尊重した適切な対応や可能な範囲でガイドライン作成等の適切な対応を行うことが求められる。
(4)懸念の多かった基準
今後のコンバージェンスやカーブアウト、運用面の検討の際に議論の対象になり得る基準は以下の項目である。
- 利益概念:ノンリサイクリングによる当期純利益の概念の変質など
- 注記および開示:過大な注記および開示の要求
- 従業員給付:数理計算上の差異のノンリサイクリング処理など
- 無形資産:開発費の資産計上
- のれん:非償却
- 外貨換算:機能通貨の規定は、企業によっては、多大なコスト負担の懸念
- 有形固定資産:減価償却(取替法を含む)や減損の戻し入れなど
- 金融商品:非公開株式の公正価値測定など
- 収益認識:出荷基準や工事進行基準の適用について
- 財務諸表の表示:キャッシュフロー計算書の直接法表示強制など
- リース:BS計上やPL処理を一律に要求する提案への懸念など
中原 圭祐(なかはら けいすけ)
仰星(ぎょうせい)監査法人 公認会計士
2007年3月中央大学法学部卒業。2009年3月北海道大学大学院経済学研究科専門職学位課程修了後、同年11月公認会計士試験合格。2010年2月より仰星監査法人にて法定監査に従事。校正協力に「ベーシック税務会計I・II」(創成社)がある。
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