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金融庁のIFRS討議、証券アナリスト協会提言に異論相次ぐ【IFRS】現実的でない? あるべきビジョン?

IFRSの適用を議論する金融庁の企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議が開催。「投資家と企業とのコミュニケーションについて」と「規制環境(産業規制、公共調達規制)、契約環境などへの影響について」の2つがテーマだった。

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 IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の適用を議論する金融庁の企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議が4月17日に開催された。今回のテーマは、「投資家と企業とのコミュニケーションについて」と「規制環境(産業規制、公共調達規制)、契約環境などへの影響について」の2つ。前者では、日本証券アナリスト協会 会長の稲野和利氏が同協会の考えを説明した。しかし、異論が多数寄せられた。

 稲野氏は同協会が2010年6月に行った会員へのアンケート調査を説明した。調査結果によると、「世界各国が唯一の会計基準を採用すべきか」との質問に対して、49.3%が「採用すべき」と回答。「慎重に取り組むべき」が40.3%だった。「好ましくない」は8.6%だった。また、日本のIFRS採用については、58.6%が「仮に米国が採用しなくても、わが国は採用すべきである」と回答。26.4%は「米国が採用した場合には、わが国も採用すべきである」と答えた。

 これらの回答から稲野氏は「アナリストはIFRSを支持しているといえる」と説明した。支持の理由はIFRS適用で国内、世界での企業間の比較可能性が向上するからと指摘。また、「日本基準に固執していたら、国際的な理解を得られない」として「レジェンド問題再燃の危険性もある」と話した。「IFRSの否定ではなく、IFRSとのすり合わせによる解決が大切だ」。

 稲野氏は調査結果を引用しつつ、IFRSで懸念される会計基準の独立性や原則主義の問題についても、解決可能であるとした。その上で日本の適用方法について、「アナリストが望むのは全上場企業への適用だ」と説明。適用決定の5〜7年後に一部の上場企業の連結財務諸表にIFRSを強制適用し、5年を目途に全上場企業に対象を広げる案を示した。また、段階的に強制適用を進めている時期には株式市場を「IFRS市場」「日本基準市場」と一時的に分けることも提言した。

アナリストとして違和感

 これらの提言に対してIFRS適用に対して委員からは反発が相次いだ。委員の佐藤行弘氏(三菱電機 常任顧問)は、「多々意見がある」として、日本証券アナリスト協会の資料到着が会議の前日だったことをはじめに、IFRSにおける比較可能性の限界や、日本基準が同等性評価を得ていること、全上場企業へのIFRS強制適用が非現実であることなどを指摘。「本当に大部分のアナリストがこのような考えを支持しているのか」と、アンケートの信頼性にも疑問を投げかけた。

 また、永井知美氏(東レ経営研究所 シニアアナリスト)も「事業会社でアナリストをしているが、違和感がある」と指摘。韓国での視察などから原則主義を取るIFRSが比較可能性を高めていないことなどを説明した。また、アナリストが市場における会計基準の統一を願っているとの日本証券アナリスト協会の説明に対して、「現在は日本基準の他に、米国会計基準、IFRSがあるがそれで困ったという声も聞かないし、IFRSになっても楽になるとは思わない」と話した。

 経団連の企業会計委員会 委員長の廣瀬博氏(住友化学工業 取締役副会長)は、日本証券アナリスト協会が提案した段階的な全上場企業へのIFRS強制適用について、「世界のグローバル企業との比較が必要になる企業は多くない。国内外の投資家が注目しているのは大企業に限られる」として、「IFRS適用の対象企業は相当に絞られ、かつ段階適用をしていくべき」と話した。

 専門委員の大日方隆氏(東京大学大学院教授)は日本証券アナリスト協会が行ったアンケート調査の選択肢に「各国企業の比較が容易になるというメリットも大きく、採用すべき」などと説明文が入っていることについて、「アンケート調査として好ましくない。客観的な結果とは思われず、ややバイアスがかかっている」と指摘した。

ドイツ、韓国の製造業企業は

 一方、藤沼亜起氏(IFRS財団 副議長)は「久しぶりにいい発表だった」と証券アナリスト協会の発表を評価。「マクロ的に物事を理解して、日本の固有の問題だとか、日本の制度的な問題をある程度置いておき、本来のあるべきビジョンを示している」と話した。その上で、「失礼に当たるかもしれないが、皆さんの意見を聞いているともともと国際基準が嫌いなのかと思った。IFRSにすると製造業が成り立たないという意見があったが、(IFRSを適用している)ドイツや韓国の製造業は躍進している。しかし日本の製造業はIFRSを適用するとダメになる。この論理が分からない」と述べた。

 斉藤惇氏(東京証券取引所グループ 取締役兼代表執行役社長)は、「この審議会で果たしてこのようなインプリケーションの細かいことを討議するのかという疑問がある」と指摘。「世界のGDPの53%がアジアに集約されている。アジアの金の取り合いが資本市場で起きている。その際に使い勝手の悪い市場を作って競争力を保っていくという考えは理解できない。効率的な資本市場を提供して、産業を興して、競争力を勝ち取るのが国家戦略だと思っている」と話した。「今大事なことはIFRSに乗って主導権を取ることだ」。

 日本証券アナリスト協会の提案に異論が多く寄せられた背景には、これまでの議論で一定の方向性を見たはずの検討課題が再度、掘り返されたことがある。IFRSの比較可能性や原則主義、連単分離の問題については過去の合同会議ですでに議論が行われた。また、IFRS適用についても全上場企業への強制適用を審議会として打ち出せるような流れは生まれていない。そこに2010年6月の調査結果を基にした提言を打ち出したため、反発を受けた。ただ、これもIFRS慎重派と推進派の綱引きの1つということもできる。金融庁によるとIFRS適用に関する検討課題は「残り1.5個」。早ければ次回会議で検討が終わり、具体的な適用方法の議論に入る可能性がある。

IFRS適用国数は?

 17日の合同会議では他に「IFRSがローンコベナンツについて与える影響について」として、みずほフィナンシャルグループから説明があった。コベナンツの財務制限条項には、純資産維持条項や利益維持条項があるが、IFRSが適用されると退職給付債務や連結の範囲、金融商品会計などでそれぞれ影響を受けると指摘。契約の変更などが必要になる場合があるとした。

 また、同日には、金融庁が行った「各国のIFRS適用状況調査結果」も示された。これは監査法人などの公表で一般的にIFRS適用国とされる122カ国に対して、実際のIFRS適用状況を調べる調査。各国の日本大使館経由で調査票を送った。122カ国のうち、回答があったのは90カ国。これに金融庁の海外視察で状況が分かっている米国、カナダ、中国、韓国、フランス、ドイツの調査結果を加えた。合計調査国数は96カ国となる。

 調査結果によると、96カ国のうち、IFRSを適用しているとする国は83カ国。このうち、40カ国はIASBが発行するIFRSと同一内容の会計基準を使用。43カ国は一部異なる会計基準を使っている。また、IFRSを任意適用しているとする国は5カ国。この5カ国はIFRSと同一の会計基準を使っている。IFRSを使っていないと答えたのは5カ国、連結財務諸表の作成義務がなかったのは3カ国だった。

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