インメモリデータベース導入事例
「Exadataより速かった」──中国大手飲料メーカーがSAP HANAを採用したわけ
中国で大きなシェアを持つ飲料メーカーの農夫山泉。インメモリデータベース「SAP HANA」を中心に据えた分析システム構築とモバイル活用により、システムのボトルネック解消と販売高向上を実現した。
「Oracle Exadataも試したが、SAP HANAの方が速かった」。そう話すのは中国の大手飲料メーカー農夫山泉のCIO、パトリック・フー氏だ。フー氏は2012年4月26日に開催された「SAP Innovation Forum Tokyo」の特別講演に登壇、同社で導入したインメモリデータベース「SAP HANA」の効果を語った。本稿ではその内容をリポートする。
中国全土に事業所を持つ中国最大手飲料メーカー
農夫山泉は年間売上高120億元を誇る中国最大規模の飲料メーカーで、中国内でのミネラルウォーターのシェアは50%に上る。グループ企業には製薬、食品、医療などさまざまな業態のグループ企業を持ち、製薬の年間売上高は20億元、食品や衣料などその他の産業の年間売上高は5億元を誇る。
フー氏は製薬会社のCIOを経験後、2006年に農夫山泉に参加し、同社CIOを務めている。同社では中国全土を華東・華南・華中・華北という4つの地域に分け、その各地域に30カ所以上の地区を設置し、各地区には400カ所以上の事務所を設置している。各地区および事務所に、販売業務代表者とマーケティング要員を配置している。「飲料という商品の回転が非常に速い業態で、複雑に入り組んだサプライチェーンの中でさまざまなスタッフが仕事をしている。そのため、社内の情報化を進める必要があった」(フー氏)
日本を除くアジア初のSAP HANA導入企業
農夫山泉では2004年にERP「SAP R/3」を導入後、データ量の増加に伴い2008年にビジネスインテリジェンス(BI)ツール「SAP BW」を導入してOLAPシステムを構築。同年ERPを「SAP ECC」へとアップグレードすると、2009年にはSAPのBusinessObjects買収に伴って「SAP BusinessObjects」(関連記事:インメモリ型DBやiPhone対応で「誰でも使えるBI」を目指した「SAP BusinessObjects BI 4.0」)を導入。そして2011年、日本を除くアジア太平洋地区で最初のSAP HANA導入企業となった。
増加し続けるデータ量、BIのレスポンスが課題に
SAP R/3運用時はABAP(※)を使ってデータの読み取りやリポートの生成を行っていた。しかし、2008年以降データ量が2Tバイト以上に増えたのに伴って、毎月月末の財務決算時に問題が出てきた。
※ABAP(Advanced Business Application Programming:アバップ):SAP R/3などSAPシステムの製作やアドオン開発に用いられる高級言語。
「在庫を見たいときになかなかデータが出ない、倉庫からモノを出せないということがあった。2Tバイトのデータ量を支え、論理演算を行うためにはOLAPを構築しなければならなかった」(フー氏)
2008年以降にはOLAPシステムのデータ量が3.5Tバイトまで増えた。導入していたSAP BusinessObjectsのディスプレー表示速度はどんどん遅くなり、データの演算に関しても「耐えられないほど遅くなった」という。
「例えば輸送費に関するリポート生成には24時間かかっていた。輸送費はコストの中の一部の項目のため、リポートを待っていると決算が1日遅れてしまう状況だった」(フー氏)
また、飲料という回転の速い商品を取り扱う業種として、他のメーカーに後れを取らないためには、毎日国内および国際市場で何をしたか、どういうイベントでプロモーションをしたかといった内容をリアルタイムで市場管理部門がいち早く知り、タイムリーに対応する必要があった。「市場管理部門がタイムリーに動くためには、当時毎日1回更新していたデータをリアルタイムに更新する必要があった」(フー氏)
「SAP HANAでリポートを作る場合はOracle Data Mart利用時の20~100倍、論理演算スピードは約2000倍高速化した。Oracle Data Martで24時間かかっていた論理演算は36秒で終わるようになった」。SAP HANA導入以降のシステムアーキテクチャの変更により、データ処理速度は飛躍的に向上したとフー氏はいう。フー氏が示したOracle Data Mart利用時とSAP HANA導入以降のSAP NetWeaver BWのETL処理速度対比は以下となっている。
| PSA抽出 | DSO抽出 | DSOアクティベーション | 小計 | |
|---|---|---|---|---|
| Oracle Data Mart利用時 | 341秒 | 28秒 | 131秒 | 500秒 |
| SAP HANA利用時 | 298秒 | 9秒 | 31秒 | 338秒 |
フー氏はSAP HANAの高速性について以下のように語る。
「実際に試したがSAP HANAのスピードとOracle Exadataのスピードを比べるとやはりSAP HANAの方が速かった。SAP HANAは農夫山泉での利用の場合、論理演算スピードはOracle Data Mart利用時の200~2000倍、場合によっては何万倍にもスピードアップしている。Oracle Exadataはトランザクションシステムの利用に適していると思う。SAP HANA採用のポイントは、OLAP上での利用に適していることだった」
モバイルアプリケーション強化による営業革新
また、農夫山泉はSAP HANA導入により、同社営業担当者が日々利用しているモバイルアプリケーションのブラッシュアップを積極的に行っている。
飲料という商品特性上、顧客接点である店舗における商品陳列は売り上げ貢献の最重要ポイントとなる。同社営業担当者は毎朝出社してSAP HANAのリポートを確認したら、スマートデバイスを持ち歩いて担当店舗を回る。各店舗のSKUや商品陳列状況をSAP HANAに入力してリポートとして上司に提出し、指示を仰いでいるという。「SAP HANA導入後、モバイルを活用した徹底的な営業活動によって年間販売高が30~40%ずつ向上している。こうした営業プロセスは、コカ・コーラやペプシも行っている」(フー氏)
SAP HANA導入により、システムのボトルネックを解消しただけでなく、営業業務の徹底的な効率化を図る農夫山泉。今回紹介した事例ではもともとERP、BIともにSAP製品を利用していたため、SAP HANAの導入効果が如実に表れたといっていいだろう。「Oracle E-Business Suite」や「Oracle BI」を利用している場合のOracle ExadataおよびSAP HANA導入効果に関しても、導入企業への取材のチャンスを得次第リポートしたいと思う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社ラクス] どうすれば「変革を楽しむ組織」になれるのか? 事例に学ぶ、未来への一歩 -
製品レビュー
[デル・テクノロジーズ株式会社] 変化するサイバー脅威に備える、これからのストレージの選び方 -
事例
[サイボウズ株式会社] 受注約1.5倍と年間2万3000時間超の業務時間を削減、日機装に学ぶDX実践術 -
製品レビュー
[サイボウズ株式会社] 人材不足にどう挑む? ものづくり太郎が語る、製造現場でのAI活用成功の鍵 -
市場調査・トレンド
[グーグル・クラウド・ジャパン合同会社] 金融機関はAIエージェント導入でどう変わる? 7つの変化から19の事例まで解説
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
RAGで「データをAIに送る」運用が限界を迎えている理由
-
2
Microsoft 365侵害企業の9割はMFA導入済み 1002人調査で見えた盲点
-
3
「Copilot」がIT予算を食いつぶす? 高額請求を招く課金体系と節約術
-
4
なぜストレージ不足は長引くのか? 77%が「12〜18カ月続く」と予測
-
5
ハイパーコンバージドインフラ徹底比較、「SimpliVity」「Nutanix」はどう違う?
-
6
PHP2Shellの「事前の情報流出」でパニックに パッチ公開を巡る“混乱劇”
-
7
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
8
Googleの業務向けAIエージェント「Gemini Agent」が登場 しかし課題は山積み
-
9
IT製品の導入に関するアンケート「セキュリティ」編
-
10
通話録音の個人情報を自動で無音化 専用端末を無償貸与
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
2
本当に使える「会議翻訳ツール」を見極める4つの選定基準
-
3
有識者が語る、中堅中小企業に求められる最新のサイバーセキュリティ対策とは
-
4
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
5
パスワードレスへの移行で失敗しないためには? 導入・運用上の注意点を解説
-
6
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
7
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
8
自社のセキュリティ対策は大丈夫? 自己診断リストで対策の優先順位が分かる
-
9
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
10
「テスト内製化&自動化」事例集:ディー・エヌ・エーなど9社に学ぶ実践のコツ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー