Windows 8タブレットが対iPad戦で直面する3つの壁:Windows 8はビジネスユーザーを取り戻せるか?
2012年10月に登場するWindows 8は、iPadからビジネスユーザーを取り戻せるだろうか? MicrosoftのSurfaceはiPadと戦えるのか? この戦いの決め手は、機能や性能以外かもしれない。
「Windows 8」が間もなく(2012年10月)タブレット市場に登場する。その先触れが「Microsoft Surface」だ。多くの人々にとって、Windows 8タブレットの登場は企業ユーザーの仕事のやり方に大きな変化を起こすことを予感させる。それだけでなく、人気の高いiPadからの移行を促す可能性もある。
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販売台数を見る限り、現状では米AppleのiPadが最も人気が高いビジネスタブレットだ。ITプロフェッショナルたちに話を聞くと、CEOからデータ入力担当者に至るまで、あらゆる従業員が自分のiPadをポータブルワークステーションにしたいと願っているようだ。Appleのティム・クックCEOによると、iPadはFortune 500企業の94%、Global 500企業の75%に導入されているという。
しかしWindows 8がその姿を少しずつ見せ始めた今、一部のビジネスリーダーたち(そしてもちろん、窮地に追い込まれたITプロフェッショナルたち)は、近い将来、PC主体の環境と、ガジェット好きな従業員が1つのWindowsプラットフォームの下で結び付く可能性に胸をときめかせているようだ。では、現実にそうなる可能性はどのくらいあるのだろうか。それには以下のような要因が絡んでいる。
コストの問題
何よりもまずコストの問題がある。iPadのビジネス対応能力を改善するために、モバイル端末管理(MDM)に多額の予算を既に注ぎ込んだ企業が、Windows 8端末を採用するために同じような投資をする気になるだろうか。
「それは状況次第だ」と話すのは、MDMサービスプロバイダーの米Tangoeで製品マーケティングディレクターを務めるトロイ・フルトン氏だ。「端末をiOSに移行する、あるいはiOSから移行するという観点で見れば、それほど大変なことではない」と同氏は付け加える。「大抵の企業では、予算の大部分は既存のインフラに注ぎ込まれている。Windows 8の場合も、企業はこれまでと同じアプローチで臨むだろう。つまり『しばらく様子を見る』という姿勢だ」
Fortune 100企業のうち50社を顧客としている米MDMプロバイダー、Good Technologyでエンタープライズ製品の企画と管理を担当するディミトリ・ボルクマン副社長も同様の考えを抱いている。同氏によると、Windows 8への移行に掛かる支出は取るに足らないという。「実際、移行はかなり容易だろう。IT部門はWindows 8への移行に意欲をそそられるだろう。Windows上で動作するアプリケーションの中には、まだiPadに移行できないものがあると思われるからだ。しかしだからと言って、彼らがそれを強制できるとは限らない。これは非常に大きな問題だ」とボルクマン氏は話す。
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従業員が納得するか?
米MobileTraxの主席アナリスト、ゲリー・パーディ博士は「Windows 8プラットフォームは企業でそこそこ受け入れられるだろう。だが、特定業種向けのエンタープライズアプリケーションが中心であり、一般的な業務用途での採用はそれほど多くないだろう」と分析する。
iPadを中心としたモバイル業務プラットフォームからWindows 8への移行を推進しようとする可能性がある唯一の部門が、IT部門だ。「IT部門にとっては、iPadよりもWindows端末を管理する方がずっと楽だろう。iPadは完全なパラダイムシフトを意味するからだ」とボルクマン氏は語る。「WindowsはIT部門にとっては慣れた環境だ。しかしWindows 8への移行は、IT部門だけで決定できるわけではない。エンドユーザーの大きな影響力が存在するからだ」
Windows志向のITスペシャリストにとって残念なことに、Windows 8端末への移行を推進するに当たっては、こういったエンドユーザーを説得するだけでは済まない。上層部からのプレッシャーもiPadからの移行に抵抗する方向に働く可能性が高いのだ。「IT部門が特定の技術を強制できる力は著しく低下した」とボルクマン氏は指摘する。「iPadを手に入れ、それを社内でも活用したいと考えるCIOなどの経営幹部が口出しするからだ」
BYOD
エンドユーザーの希望に応えるという問題をここで取り上げたということ自体、この四半世紀でITをめぐる状況が一変し、携帯端末が人々の仕事のやり方だけでなく、人々の考え方にも大きな影響を与えたことを示すものだ。ボルクマン氏はこの状況について「かつてはIT部門が従業員に『これがあなたの仕事用のマシンだが、個人使用も認めてあげよう』と指図するのが普通だった。しかし最近では、従業員の方が『これは私の個人用端末だが、仕事でこの端末を使ってあげてもいい』と言うようになった。以前とは全く正反対だ」と話す。
Windows 8のリリースは2012年10月であり、同OSがiPadを業務用携帯端末の主役の座から引きずり下ろす可能性があるかどうかは、あと数カ月ほどたたないと分からない。最近発表された開発中のMicrosoft Surfaceを見ても、この壮大な対決がどういった展開になるのか予想がつかない。
Tangoeのマーケティング担当上級副社長、ケン・リーネマン氏は「MicrosoftはSurfaceではパフォーマンスと電力管理を重視したようだ」と語る。しかし普及するかどうかの重要な鍵となるのは『クール』な要素だ。果たしてSurfaceはiPadに対抗できるほどクールな製品になるだろうか」
だがリーネマン氏はMicrosoftに対して楽観的な見方をしている。同氏によれば、Microsoftは市場支配を獲得する手段として、同社製品を使っている多数のゲームユーザーを利用できると指摘する。「MicrosoftにはXboxの巨大なユーザー基盤がある。Xboxユーザーに同社のタブレットの利用を促進すれば、コンシューマー分野に進出できる可能性があるのは間違いない。彼らはいつか、MicrosoftのタブレットをBYOD(私物端末の業務利用)環境に持ち込むだろう。そうなれば企業は、MDM(モバイル端末管理)などを通じてこれらのタブレットをサポートせざるを得なくなる」と同氏は語る。
MobileTraxのパーディ氏は「SurfaceはWindowsソフトウェアに投資してきた企業の間で大きな関心を呼ぶと思うが、小売市場では大して注目されないだろう。私は当初、Microsoftが何らかの携帯端末を発表すると予想していたが、ふたを開けてみたら、非常に小型で軽量なPCだった」と話す。同氏によると、それはユーザーが本当に求めているものではないかもしれないという。
Surfaceは、モビリティの真の意味を再定義することを狙うMicrosoftの大きな賭けだ。この賭けはMicrosoftにとって裏目に出る可能性もあれば、世紀の大決戦を迎えようとしているMicrosoftとAppleの立場を逆転させる可能性もある。ただ、巨人同士が真っ向から対決しても、勝利を手にするのは大抵コンシューマーだ。
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