Forrester Researchの調査結果リポート
実導入率13%の裏側、プライベートクラウドが脚光を浴びない理由
プライベートクラウドが仮想化のように普及しない理由として、同技術に対するIT部門の理解が中途半端なことが挙げられる。しかし導入した企業の中には、投資に見合う成果が得られたとする声もある。
プライベートクラウドの普及状況に目を向けると、やや期待外れの感がしないでもない。
以前から専門家たちは「プライベートクラウドの広範な普及は確実だ」と主張してきたが、現実は必ずしもそのようにはなっていない。プライベートクラウドを構築する技術は数年前から存在するが、普及がなかなか進まないのが現状だ。
数字だけを見ると、プライベートクラウドは着実に普及しているように思えるかもしれない。米調査会社Forrester Researchによると、同社の顧客企業の31%がプライベートクラウドを導入済みであり、17%が今後1年以内に導入予定だとしている。
「しかし細かく見ると、プライベートクラウドを導入済みと答えた企業でも、“本当の”プライベートクラウドを保有しているのは、そのうちの13%にすぎない」とForresterのアナリスト、ローレン・ネルソン氏は指摘する。
「これらの企業のほとんどは、管理機能を改善するためのソフトウェアソリューションを採用したのだ」とネルソン氏は語る。こういった“プライベートクラウド”には、「マルチテナント」「エンドユーザーによるセルフサービス」「利用量計測機能」などクラウドの基本的な要素を備えていないものが多いという。
プライベートクラウドをめぐる問題の一部として、同技術に対するIT部門の理解が中途半端なために、導入も中途半端な形になってしまうことが挙げられる。専門家の間では、プライベートクラウドは「ファイアウォールの内側で動作する専用リソースであり、IaaS(Infrastructure as a Service)型クラウドコンピューティングプラットフォームとして構成されるもの」と定義されている。また米国立標準技術研究所(NIST)では、「IaaSクラウドは5つの基本要素(「オンデマンド型セルフサービス」「広範なネットワークアクセス」「リソースのプーリング」「迅速な対応を可能にする柔軟性」「サービスの計測」)が含まれていないものは真のクラウドとは呼べない」としている。
米調査会社Gartnerで仮想化とクラウドインフラを担当する調査ディレクター、アニール・ラカーニ氏によると、IT部門によるプライベートクラウドの実際上の定義は、本来の定義とは大きく異なるという。
「プライベートクラウドといっても、その実態は千差万別だ。単なるデータセンターをプライベートクラウドと呼んでいる人もいれば、Amazon Web Servicesに匹敵するようなシステムを構築した企業もある」とラカーニ氏は話す。
仮想化のような普及は期待薄
プライベートクラウドの現状は、過去10年間に野火のように普及した仮想化技術とは大きく様相が異なる。
「人々は仮想インフラを大いに歓迎し、すぐさま飛びついた。ベンダーに押し付けられたのではない」と話すのは、米調査会社Illuminataの主席ITアドバイザー、ジョナサン・ユーニス氏だ。仮想化を導入している企業はサーバを大胆に統合し、バックアップなどの共有サービスを実装してシステム化するだけでなく、ディザスタリカバリにも取り組んでいる。以前までは、こういったことは豊富な資金がある企業の基幹業務アプリケーションだけに許されたぜいたくだった。
仮想化は小規模企業のIT部門にもコストと俊敏性の両面で大きなメリットをもたらすのに対し、プライベートクラウドのメリットは見えにくい。「学術的にいえば、仮想化インフラとプライベートクラウドの間に違いがあるのは分かるが、両者の間に必然的な違いがあるとは思えない」とユーニス氏は語る。「プライベートクラウドを構築することで得られるメリットの大半は、そこに到達する前の段階で既に実現されている」
一方、パブリッククラウドに対する需要は急増しており、業界をリードする米Amazon Web Services(AWS)の2012年の売り上げは推定で20億ドルに達し、2013年はこの数字が倍増すると予想されている。こういった成長はAWSだけに限ったことではない。米金融サービス会社のRobert W. Bairdの最近のリポートによると、2012年にクラウドプロバイダー大手10社の売り上げは37%増加した。
しかしプライベートクラウド導入プロジェクトにいち早く取り組んだ企業の間には、労力と投資に見合う成果が得られたとする声もある。AWSのワーナー・ボーゲルズ最高技術責任者(CTO)は「プライベートクラウドは“偽物のクラウド”であり、企業にハードウェアを買わせるのが目的だ」と批判しているが、プライベートクラウドを導入した企業のIT幹部らによると、こういった批判は的外れだという。
2013年5月に開催された「MIT Sloan CIO Symposium」のパネルディスカッションで、医療サービスを提供する米Vanguard Health Systemsのスコット・ブランチェット最高情報責任者(CIO)は、「私は散髪しなければならないかどうかを床屋に尋ねはしない。その答えは私が知っているからだ」と述べた。
「脚光を浴びてこなかったかもしれないが、プライベートクラウドは定着している」とブランチェット氏は語る。
プライベートクラウド導入事例
プライベートクラウドソフトウェアを導入したIT部門は、プライベートクラウドでしか得られない機能に満足しているようだ。
「VMware vCloud Automation Center」(VCAC)の早期導入ユーザーで、英国に本社を置くヘッジファンドで仮想化アーキテクトを務めるニール・スミス氏は「企業はデータセンターをIaaSとして利用できることに気付いた」と話す。米VMwareは2012年、米DynamicOpsの買収に伴ってVCACを取得した。
仮想化市場を支配するVMwareは、プライベートクラウド分野でもいち早くリーダーとなった。同社は2009年、「Project Redwood」というコードネームの下でプライベートクラウドの開発に取り組み、2010年に「VMware vCloud Director」(VCD)として正式に発表した。VCDは「VMware Lab Manager」をリプレースし、現在では「vCloud Suite」の中心的コンポーネントとなっている。
スミス氏によると、VCACは個々のサーバのプロビジョニング作業を自動化、迅速化する。また、チャージバック(課金)機能とショーバック(コスト提示)機能により、ITは無料ではないことをビジネスユーザーに示すことができたという。「これはきちんと後片付けをしなければならないという意識をユーザーに植え付けた」と同氏は話す。
しかしスミス氏の勤務する会社は、VMwareのvCloud Suiteの一部のコンポーネント(vCloud Directorなど)を導入しなかった。「それほどメリットがあるとは思えなかったからだ」という。また同氏の会社では、高度なアプリケーションプロビジョニングサービスを実現するために、社内クラウドとパブリッククラウドを連携する機能を備えた米ElasticBoxのソフトウェアに注目している。VCACもアプリケーションプロビジョニング機能を提供するが、スミス氏によると「かなりの手作業が要求される」という。
しかしForresterのネルソン氏によると、vCloud Directorなどの市販のプライベートクラウドソリューションのコストが高いことが導入の障害になっている企業が多いという。VMwareやエンタープライズ管理ベンダー大手4社の本格的なプライベートクラウド製品の価格は、ライセンスとサポートサービスを含めると50万ドル(約5000万円)を超えることも少なくないため、中堅・中小企業には手が出ないのが実情だ。
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