初めてでも分かる「IHE」講座【第4回】
放射線治療におけるシステム間連携ガイドライン「IHE放射線治療(IHE-RO)」
放射線を当てることで、がん細胞を破壊してがんを消滅させたり小さくしたりする治療方法におけるシステム間の円滑な連携、ワークフローの標準化を目指すIHEの放射線治療での取り組みを紹介する。
医療情報システムの効率のよい構築・運用のために標準化が進められている「Integrating the Healthcare Enterprise(IHE)」。本連載では、一般社団法人 日本IHE協会(IHE-J)のメンバーがIHEの概要や各分野(ドメイン)での展開、導入事例などを紹介する。第4回となる本稿では、関 昌佳氏が「放射線治療」ドメインを解説する。【編集部】
連載:初めてでも分かる「IHE」講座
放射線治療部門の情報連携
放射線治療部門は、文字通り放射線治療を行う部門を指す。放射線治療とは、主に放射線照射装置を用いる治療のことで、放射線照射装置には「外部放射線照射装置」や「小線源照射装置」などがある。
放射線治療を行う場合、その治療(照射)についての詳細計画を立案し、その情報を放射線照射装置に伝達する必要がある。その治療計画の立案を支援する装置のことを「放射線治療計画装置」と呼んでいる。
近年、放射線治療方法の複雑化やシステムのマルチシステム化が進むにつれて、放射線治療部門の情報を統括して管理する情報システムの必要性が高まってきた。そこで、これらの情報を管理して各装置との情報連携を仲介する役割を担う「放射線治療部門情報システム」が登場した。日本では「治療RIS」と呼ばれることが多いが、欧米では一般的に「Oncology Information System」(OIS)と呼ばれている。
この放射線治療部門情報システムは、病院情報システム(HIS)と情報連携することで、患者情報や治療依頼情報を取得し、これらの情報を管理することが重要な役割となっている。
放射線治療部門での各システムや装置間の情報連携経路を示す(図1)。これらの情報連携がスムーズに行えれば、放射線治療部門でも効率的で有効な運用が可能になる。しかし、現実的には情報連携が効率的に行われていることはごく一部の事例に限られていたようだ。なぜなら、各装置やシステムが複数のベンダーによって開発・製造されていることが多く、それらの間の情報連携を行う場合、多くの労力とコストを必要とするからだ。また、診療業務のフローを見直さなくてはならなかった事例もある。
そこで、各システムや装置間での情報伝達に標準規格を利用し、共通のフレームワークを使用することで、情報連携のシームレス化を図ろうという試みがなされている。
放射線治療で利用される標準規格とIHEテクニカルフレームワーク
放射線照射装置や放射線治療計画装置の情報連携で使用される標準規格は、主に「DICOM-RT」だ。DICOM-RTとは医用画像情報規格「DICOM」(Digital Imaging and Communications in Medicine)の放射線治療用サブセットのことである。また、HISと放射線治療部門情報システムの間の情報連携で使用される標準規格としては「HL7」(Health Level 7)の検討が進められている。
DICOM-RTで連携される情報は、治療計画や照射の実施に必要なものが主な内容となる。また、進捗を管理するワークリストの連携も含む。HL7で連携される主な情報は、患者基本情報や依頼情報などが挙げられる。
放射線治療計画におけるワークフロー「Basic Radiation Therapy Objects(BRTO)」
IHE放射線治療分野(IHE-RO)のテクニカルフレームワークは、2007年8月18日に第1版が発行され、2015年4月現在でその最新版は「第1.8版」(2014年6月26日発行)である。対象となる統合プロファイル(医療情報処理のワークフロー)は「Basic Radiation Therapy Objects(BRTO:基本放射線治療情報)」である。
BRTOは、放射線治療計画を作成するときの基本的な情報連携方法に関する統合プロファイルで、放射線治療計画装置による放射線治療計画作成時のワークフローだ。IHE-ROは、図1で示した内容のうち、治療計画装置と保存庫の間での情報連携から検討を始め、文書化してテクニカルフレームワークとして公開した。
1. BRTOの背景
治療計画装置では通常、CT画像を利用して治療計画を立案し、その結果を放射線照射装置に伝達する。「治療計画情報」(DICOM RT-Plan)さえあれば、基本的に放射線照射装置での治療が可能になる。
近年では、複数台の放射線照射装置が稼働する医療機関が増えてきた。例えば、治療計画装置Aで立案した治療計画を治療計画装置Bで閲覧する例や、基本的な照射計画を治療計画装置Aで作成し、線量計算を治療計画装置Bで行う例が生じている。その際、DICOM-RTの標準的なオブジェクト(DICOM-RTオブジェクト)である治療計画情報(RT-Plan)だけでは、線量分布を再現することはできない。
DICOM-RTではRT-Planに加え、他のDICOM-RTオブジェクトである「RT Structure Set」「RT Dose」の治療計画や線量情報などのデータを相互に連携できる。各装置がそれぞれ個別に情報を連携するとその経路が複雑になり、またデータの一貫性の観点から見ても管理しにくい構造となる。
そこでIHE-ROは、BRTOというワークフローを作成し、治療計画装置のマルチシステム化が行われたとしても、最適な情報連携ができるように提案している。
2. BRTOのアクタとトランザクション
放射線治療計画装置には、主に次の4つの機能がある。
- 輪郭情報を作成する機能
- 照射計画を作成する機能
- 線量分布を計算する機能
- 線量分布を表示する機能
IHEでは、上記の機能を「アクタ」(情報システムの機能要素)に分割する。つまり、放射線治療計画装置の中に4つのアクタが存在することになる。加えて、治療計画情報などを保持する機能要素をアクタとして別に定義する。BRTOのアクタとその主な機能を次に示す。
- Contourer:輪郭情報を作成する
- Geometric Planner:照射計画を作成する
- Dosimetric Planner:線量分布を作成する
- Dose Displayer:線量分布を表示する
- Archive:治療計画情報を含むDICOMデータを保持する
BRTOでのアクタ間の相関関係を表す図を示す(図2)。治療計画装置の機能である4つのアクタは、全て「Archive」とだけ情報連携が可能だ。これにより、各アクタの情報連携の経路を単純化している。
図3は、BRTOのワークフローでのトランザクションの流れを示したシーケンス図だ。基本的に「Contourer → Geometric Planner → Dosimetric Planner → Dose Displayer」の順でArchiveと情報連携を行い、治療計画を作成していることが分かるだろう。これらのトランザクションは、基本的にDICOM-RTオブジェクトを送受信する。必要な情報を必要としているアクタに送信することが目的である。
このように、アクタが「トランザクション」と呼ばれる情報連携を複合的に行うことで、治療計画装置のマルチシステム環境での運用を最適化する。また、Dose Displayerは作成された治療計画情報を全て取得した後、線量分布を表示する。そのため、治療計画装置だけでなく閲覧ソフトウェアのようなシステムがこのアクタに当てはまる場合もある。
IHE-ROの将来像
IHE-ROは、今回紹介したワークフロー以外の検討も進めている。最近では、治療の品質向上に関するワークフローや患者の照射位置の照合に関するワークフローなど、治療の安全性に対する検討が始まっている。これら現在検討中の統合プロファイルが全て適用された場合、どのような連携が可能になるだろうか。そうした放射線治療分野のシステム間連携は図4のようなイメージになると考えられる。
放射線治療部門情報システムは「ワークリスト管理」(DICOM UPS)が行えるようになり、IHEは放射線治療計画作成だけでなく、放射線治療の照射実施や治療品質管理などにも利用されることになる。
また、将来的にはHISとのオーダ情報の連携も可能になり、HISで治療の進捗も閲覧できるようになるだろう。そのためには、部門内で完結していることが多かった放射線治療情報連携を、他の部門や病院情報システムを含めるまで拡張することがより重要になると考えられる。
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