クラウドストレージを賢く選ぶための、ハイブリッドクラウド利用ガイド
Amazon S3に代表されるクラウドストレージの特性とハイブリッド利用について解説する。オンプレミスやプライベートとうまく連係することで、データの保管や利用コストを最適化できる。
クラウドストレージのハイブリッド利用
クラウドストレージは大容量のデータを安価に配置することができるストレージとして、コンシューマーによるファイル置き場での利用が進んでいる。しかし、クラウドストレージの用途はそれだけではない。ここではクラウドストレージの特性を理解し、単なるデータ置き場にとどまらないクラウドストレージのハイブリッド利用について説明する。
クラウドストレージの特徴
クラウドストレージの定義は一様ではないが、一般的に認識されているクラウドストレージの特徴は以下のようなものであろう。
項目接続性 | インターネット経由のアクセス。どこからでもアクセス可能 |
---|---|
オンデマンド | 必要なときに必要な分だけ利用。大容量のデータにも対応 |
保全性 | データを冗長保管。データ喪失の可能性が低い |
操作性 | REST APIによる操作が可能。アプリケーションが豊富 |
これらの特徴に加え、利用量当たりの単価が安いことがクラウドストレージの強みである。クラウドストレージはスケールアウト可能な分散ストレージ技術を用いて構築されるので、サービス提供者はスケールメリットを生かして単価を下げることができるのだ。
一方で、パブリッククラウドのストレージサービスを使う際には、以下の点で注意が必要となる。
性能 | 接続回線は共用。性能は保証されない |
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入出力コスト | データ転送容量毎の課金がある |
セキュリティ | 共有レベルの設定や暗号化といったセキュリティ対策が必要 |
可用性 | サービス提供側の障害やメンテナンスなどによる影響は不可避(※ただし、SLAで保証されてはいる) |
これらの注意点を取り除き、クラウドストレージの利点を享受するのであれば、プライベートクラウドストレージを選択するのも1つの手である。
プライベートクラウドストレージであっても、分散ストレージ技術を採用することによって、クラウドストレージの利点である保全性を確保することができる。また、パブリッククラウドと互換性を持ったAPIや標準化されたAPIを持つことで、パブリッククラウドストレージで利用可能なアプリケーションを利用することができる。
クラウドストレージの使いどころ
上記のような特徴から、クラウドストレージが得意とするストレージの用途を以下に挙げる。これらの用途で利用するためのストレージを新たに選定する場合は、クラウドストレージが第一の選択肢となるだろう。
- Webコンテンツ配置
- ビッグデータ解析のためのデータ配置
- インターネット経由でのファイル共有
- データのバックアップ
一方で、クラウドストレージが得意としないストレージ用途として、以下のようなものが挙げられる。
- 特定のプロトコル経由のファイル共有
- 特別なセキュリティ要件を有するファイルの共有
- オンプレミス環境のサーバに接続するブロックストレージ
ただし、一般的には得意と思われない用途でも、その不足部分を補ってバックエンドにクラウドストレージを利用できるようにするアプリケーションも存在する。クラウドストレージの拡張性によって、その用途は広がっている。
クラウドかオンプレミスか?
では、全ての用途にクラウドストレージを使うべきか、といえば決してそうではない。確かに費用対効果を考えるとあらゆるケースでクラウドストレージを利用するメリットは大きいが、コストを度外視してでも性能が欲しいケースや、絶対に外部に置くことのできない機密性の高いデータの配置場所は、オンプレミスにストレージアプライアンスで構築した方が簡単だ。特に最近のストレージアプライアンスは、SSDやフラッシュストレージを組み込み、低レイテンシ、ハイパフォーマンスを売りにするケースが多い。
パブリックかプライベートか?
一方、クラウドストレージも現在では選択肢が増えており、ユーザーがどれを選択するかが悩ましい状況になってきた。クラウドストレージを選定する際のポイントは対応アプリケーションにある。どのクラウドストレージを選ぶにせよ、ユーザーが利用する際は、特定用途に最適化したサービスやアプリケーションを通して利用することとなるからだ。
ほとんどのパブリッククラウドストレージは総合的なクラウドインフラサービスの一機能として提供されており、何らかのクラウドサービスを利用する際に自然と同サービス内のクラウドストレージを利用するようになっている。
また、クラウド対応したストレージ系のアプリケーションやサービスは、APIでクラウドストレージを操作し、ユーザーに必要な機能を提供している。これらのアプリケーションは特定のクラウドサービスのAPIに特化しているタイプと、複数のクラウドサービスのAPIに対応しているタイプがあり、複数のクラウドサービスに対応しているものを使えば、利用するクラウドストレージを容易に切り替えることができる。
ここで重要となるのがクラウドストレージの持つAPIの互換性や標準化だ。巨大な事業者のサービスであれば、独自のAPIであってもアプリケーション側の対応によって利用が可能になるが、個別のプライベートクラウド環境で独自APIを持っていてはアプリケーションの互換性がなくなる。そのため、ほとんどのプライベートクラウドストレージは(デファクトスタンダードである)「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)と互換性のあるAPIか、もしくはオープンソースのクラウド基盤ソフトウェア「OpenStack」のAPIのような標準化されたAPIを持っている。
主要なクラウドストレージサービス、製品
クラウドストレージの実際の選択肢を見てみよう。まずは、パブリックなクラウドストレージサービスの特徴を一覧にまとめた。
サービス | 特徴 |
---|---|
Amazon S3 | 米Amazon Web Services(Amazon)が提供するクラウドストレージ。AWSのさまざまなサービスと連係して使える他、APIはクラウドストレージのデファクトスタンダードとなっているため、対応しているアプリケーションが多数 |
Google Cloud Storage | 米Googleの各種サービスと連係して利用できる。APIは独自 |
Azure Storage | 米Microsoftが提供するクラウドストレージサービス。ファイル共有(SMB)やNoSQL、ブロックストレージ用途にも使用できるインタフェースがあり、本稿で定義したクラウドストレージの範囲に収まらない。APIは独自 |
Cloudn Object Storage | NTTコミュニケーションズのクラウドサービス「Cloudn」が提供するオブジェクトストレージ。「Cloudian」を利用したクラウドサービスでAmazon S3互換のAPIを持つ |
ニフティクラウドストレージ | 「ニフティクラウド」が提供するオブジェクトストレージ。Cloudianを利用したクラウドサービスでAmazon S3互換のAPIを持つ |
ConoHa オブジェクトストレージ | GMOインターネットが提供するVPSサービス「ConoHa VPS」のオブジェクトストレージ。OpenStackのオブジェクトストレージ機能「Swift」を利用。APIはOpenStack Swift準拠 |
続いて、クラウドストレージをプライベートクラウドに構築するためのソフトウェア製品の特徴を紹介する。
ソフトウェア | 特徴 |
---|---|
Cloudian HyperStore | Amazon S3互換のAPIを持ち、統計課金機能、ユーザー・グループ管理機能、利用量制御(QoS)機能が備わった、クラウドサービスを行うことが可能なソフトウェア製品 |
Basho Riak CS | 「Riak」を基盤としたシンプルなオープンソースのストレージ。Amazon S3互換APIを持つ。Enterprise版は有償サポートサービスあり |
OpenStack Swift | OpenStackのオブジェクトストレージ機能 |
Amazon、Google、Microsoftといった巨人3社は、提供するクラウドストレージが自社の他のクラウドサービスと連係して機能する。また、サードパーティーのアプリケーションも、これら3社のAPIに対応していることが多い。特にAmazon S3については、早くからサービスが提供されているためデファクトスタンダードとなっており、他社のクラウドストレージは、これと互換性を持つAPIを提供することでアプリケーションの併用や移行を可能にしている。また、OpenStackのAPIはプライベートクラウドの標準になりつつあり、対応アプリケーションが増えている。
複数のクラウドストレージを併用することが可能なアプリケーション
複数のクラウドストレージに対応したアプリケーションには以下のようなものがある。いずれも主要なクラウドストレージのほとんどに対応している。
アプリケーション | 特徴 |
---|---|
Cyberduck | クラウドストレージ上のファイルをエクスプローラー形式で操作可能にする |
CloudBerry Backup | クライアントPCのデータをクラウドストレージ上にバックアップ |
FOBAS クラウド ストレージキャッシュ |
クライアントからWebDAV、CIFS、NFS、FTP、iSCSIで接続し、I/Oをキャッシュ。バックエンドにクラウドストレージを利用する |
VVAULTクラウドストア | クライアントからCIFS、SMB接続し、I/Oをキャッシュ。バックエンドにクラウドストレージを利用する |
各種ストレージを使い分けデータの利用効率を最適化
クラウドストレージの登場によって、ユーザーは気軽に大容量のデータを長期間保持できるようになった。ビッグデータの活用も進む中、取り扱うデータ量は増える一方である。
一方で、オールフラッシュストレージなどの超高速なI/Oを実現するアプライアンスの登場や、仮想化によるサーバリソースの集約などによって大量のI/O性能を必要とするような用途も増えている。用途に合わせて適切なストレージを組み合わせることで、最低限のコストで最大の効果を実現してほしい。
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