「データ分析信者」が見誤ること
スポーツへのデータ分析の活用が拡大、「行き過ぎ」批判も
スポーツにデータ分析を活用する動きが広がり、行き過ぎではないかとの議論も出ている。データに基づく判断は利益をもたらすが、どんな場合でも正しいとは限らない。
大学時代に、数学を専攻する学生と議論になったことがある。スポーツにおける予測可能性についてだ。メジャーリーグ球団の構築と管理に関する『マネーボール』のアプローチが比較的新しかったころのことだ。
「どんな試合でも予測のつかないことが起こると本当に思っているのかい」。信じられないといったふうに彼は聞いてきた。私はそうだと答えた。当時は、スポーツデータ分析が全ての答えを持っているとは思えない理由を説明できなかったが、今でも、私は聞かれたら同じように答える。そして今なら理由も言える。
プロバスケットボールのヒューストンロケッツのここ数年を例に取ろう。このチームは2012~2013シーズンに、NBAで最も得点が多いチームの1つだった。主にスーパースターのジェームズ・ハーデンのおかげだ。彼はバスケットボールの分析オタクの人気者だ。そのシーズン後に、ロケッツはドワイト・ハワードを獲得した。リーグでトップクラスのセンターで、分析を駆使したロケッツの戦術にぴったりと思われていた。
人の感情はデータでは予測不能
しかし、アナリストの予想通りにはいかなかった。チームは2014~2015シーズンにウェスタンカンファレンス決勝に進出したものの、2015~2016シーズンはプレーオフ1回戦で敗退。ハワードはその後ヒューストンを去り、アトランタホークスと契約した。
では、何が悪かったのか。報道によると、ハワードはオフェンスでの自分の役割に不満があり、2016~2017シーズンのためにチームが起用したヘッドコーチが気に入らなかったとされている。個人の性格の問題は、試合中のパフォーマンスに影響することが多い。ハワードの場合、以前からチームメートと仲が悪くなることがあり、性格の特徴をあらかじめ見抜くこともできたかもしれないが、データで予測することはできなかった。
スポーツデータ分析には他にも問題がある。といってもそれは、結果を予測することができないことではない。『EPJ Data Science』で2014年に公開された論文が明らかにしたところによると、アメリカンフットボール(大学とプロの両方)とアイスホッケーでは、得点のタイミングに基づく試合結果の予測可能性が非常に高い。バスケットボールの試合は予測可能性は低いものの、識別可能なパターンに従っているという。
問題は、結果が予測できたとしても、試合中の判断にはほとんど関係がないことだ。監督は試合中に「今のようなスコアで負けている場合、65%の確率でそのまま負ける」といったことがかなりの確度で分かるかもしれない。だからといってすぐ荷物をまとめて帰ったりするだろうか。もちろんそんなことはなく、監督はチームが勝つ35%の確率に賭けて、全てのプレーで最良の手を打とうとするだろう。
何かが起こる一般的な可能性が分かっても、特定の場合に何が起こるかが厳密に分かるわけではない。フットボールでもバスケットボールでも、自チームがボールを持てば得点を狙い、相手チームがボールを持てば得点を阻止しようとする。大抵の場合、勝敗の可能性が分かったからといって、判断はあまり変わらない。
適用分野を見極める
私は、全体的な方向としては、スポーツチームがデータを重視するのは良いことだと思う。スポーツデータ分析により、例えば球団は選手への投資の費用対効果をポジション別に把握できる。また、スポーツデータ分析はバスケットボールチームにとって、得点を最大化するのに2ポイントシュートと3ポイントシュートをどう組み合わせればよいかを理解するのに役立つ。フットボールチームにとっても、けがのリスクを高めずに選手がこなせる練習やトレーニングの量を決める助けになる。
しかし、スポーツの全てが予測可能と見るような現在の風潮は、分析ではほとんど対処できない大きな問題を無視している。また、スポーツを楽しむ上で分析データを利用する人とそうでない人の無用の対立を引き起こしている。最近では、分析の“信者”についての議論が盛んに行われている。
数世紀にわたって使われてきた統計方法は、人々が信じるか信じないかを選択できるものではない。だが、信者のせいでデータ分析は、党派的対立の争点になってしまっている。スポーツへのデータ分析の活用を提唱する人は、分析をやみくもに何にでも適用しようとするのではなく、データが役に立つ分野とそうでない分野があることを認めなければならない。
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