5G時代のネットワーク戦略:Computer Weekly製品導入ガイド
クラウドベースのワークロードには高い柔軟性が要求される。企業がそれに対応するためには、WAN戦略をどう見直すべきなのか。その鍵を握るのが5Gだ。
クラウドベースのワークロードが増え続ける中で、エンタープライズWANには一層のアジャイル性と柔軟性が求められている。
そうしたアジャイル性と柔軟性は、最新のソフトウェア定義WAN(SD-WAN)に盛り込まれている。だがそれは、次世代技術について企業が戦略の再考を求められることを意味する。
現代のエンタープライズエコシステムにおける主要ネットワーク全てにいえることだが、次世代のWANはソフトウェア定義性が一層高まる。「われわれは既に、ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)技術がWANに与える多大な影響を目の当たりにしている。SD-WANサービスが開始され、今や広範に使われるようになった」。Verizonの製品戦略担当副ディレクター、オリバー・カンター氏はそう語る。「このトレンドは今後も加速する見通しだ。SDプラットフォームを通じてWANを管理するプロセスは、一層の成長が見込まれる」
恩恵を解き放つ
カンター氏によると、当面はビジネスおよび顧客の需要に応じてSD-WANのメリットを活用することの重要性は明白で、成長も著しい。「加えて、WANの調達モデルや契約モデルは、CAPEX(設備投資)よりもOPEX(運用経費)に照準を合わせたユーティリティーベースモデルや、従量制の月額ライセンス方式へと進化するだろう」と同氏は予想する。
次世代ネットワークが必要とされる背景にあるのが多様性だ。企業はサービス提供のペースを速めて、質の高いサービスを維持しながらIT経費の削減と運用コストの改善を目指す。その試みの中で、アジャイル性が高く、デプロイが容易なシステムに目を向けている。
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クラウドベースアプリケーションとインフラプラットフォームは、高いレベルの事業目標の達成に適している。企業は「Office 365」や「Salesforce」のようなSaaSを採用し、そのためにインターネットは企業のバックボーンに欠かせない要素になった。
ThousandEyesの上級製品マーケティングマネジャー、アーチャナ・ケサバン氏によると、インターネットが企業の通信のバックボーンになる場合、ネットワークモニタリングを内部に緊密に統合した次世代WANについて、組織は積極的に考える必要がある。
「こうしたトレンドが続き、IoT(モノのインターネット)が普及し続ければ、ネットワークとアプリケーションの無数の依存状態を前提として、敏速で反応が良く、クラウドに優しい、より安定した次世代WANに対するニーズ、さらにはこの種の環境用ネットワークモニターソリューションに対するニーズが一層高まる」。ケサバン氏はそう語る。
だが問題なのは、誰が何の目的で次世代WANを使うかという点にある。Freeform Dynamicsのエンゲージメント担当ディレクターで著名アナリストのトニー・ロック氏は言う。「5Gのような開発のビジネスケースは、明白とは程遠い。
特に無線周波数免許を取得して中核インフラを構築しなければならない通信会社にはそれが言える」
ロック氏によると、まだやるべきことは多いものの、これまでのところ技術標準はうまく開発されている。だが、どんな顧客がそれを使うために料金を払ってくれるのか、どの程度であれば支払ってくれるのかという疑問については、納得のいく対応がなされていない。
「臆測で、IoTには5Gが必要だとよく言われるが、実際はそんなことはない。あるいは、今よりもはるかに普及が進むまでは必要とされない。しかも、成長予測は少なくとも、やや楽観的に見える」(ロック氏)
公的インターネット経由のアクセスは、まだ企業が必要とするサービス品質やパフォーマンス、安定性を提供できるほど信頼できる状態にはないという認識によって、次世代WANへのシフトは加速されている。ネットワーク管理者は、データの転送に関する限り、柔軟性と選択肢を必要とする。
SSE Enterprise Telecomsの最高ネットワークアーキテクト、コンラッド・マロン氏は言う。「ここで鍵を握るのは、顧客の需要に見合った適切なインフラを選択できるかどうかだ。もし、低コストのプライベート接続が広く普及していれば、そちらを優先的に選ぶだろう。だが、インターネットや無線バックホールのような代替手段の方がリーチに優れていて速度も速く、あるいはコストが低い場合、そちらも検討しなければならない」
システムインテグレーターTeneoの最高技術責任者(CTO)マーク・ソラーズ氏によると、そうした複雑性を増すWANについては、ユーザーエクスペリエンスからクラウドに至るまでのグローバルネットワークをエンドツーエンドで把握できる戦略や、WANのパフォーマンスとセキュリティ管理に使われるプロセスの多くを、ネットワークチームとその予算にできるだけ負担をかけずに自動化する戦略が求められる。
「今や多くのネットワーク技術が、サービスとしてのデリバリーモデルで利用できる。その技術をどう管理するか検討することは、どんなネットワーク技術を導入するか決めることと同じくらい重要だ」とソラーズ氏。
グローバル企業が自前のWANを運営すれば、
- 新しい現場やサービスのプロビジョニング高速化
- デバイス設定の簡略化と高速化およびアプリケーション駆動型パフォーマンスルールに基づく安定性の向上
- トラフィックのルーティングのスマート化による全般的なネットワークコストの削減と、コストがかさむMPLSネットワークへの依存低下
という3点を根本的に改善できる。ほとんどの企業は、このうちの1つ、あるいは3つ全ての改善を求めている。
SD-WAN技術は、グローバル企業がネットワークトラフィックとパフォーマンスのオプションを中央で手早く設定することによって、アプリケーションパフォーマンスを向上する手助けができる。調査会社IDCは、2021年までにSD-WAN市場は80億ドル(約8500億円)規模になると予測する。
「企業は拡大や成長のために、MPLSやインターネットから4Gに至るまで、さまざまな種類の接続を使っている。だが、支部のアプリケーションパフォーマンス不良、接続問題、ユーザーのデバイス切り替えに伴う暗号化に関するセキュリティ不安、時間とともに上昇するネットワーク管理コストといった課題が浮上する」(ソラーズ氏)
さらには、ソフトウェア技術とハードウェア技術の混在を前提として、SD-WANは物理ネットワークとコンポーネントからのコントロール層を形成する。「これで、ネットワークチームが適切なトラフィックを異なる接続を介してルーティングしたり、新しい現場のネットワークニーズをリモートから設定したりすることが可能になり、場当たり的なプロビジョニングを回避できる」(ソラーズ氏)
コントロールと視界の低さ
多くのIT管理者にとっての問題は、自分たちのネットワークをほとんどコントロールできず、見通すこともできていない点にある。毎月受け取る報告書には、使用した帯域幅と、恐らくは使用した上位のアプリが記載される傾向にある。だが、それは過去にさかのぼった記録であり、ネットワーク調整に関する洞察にはほとんど役に立たない。
「次世代WANでは、ネットワークがどんな変化に対しても即座に反応できるよう、エンドツーエンドのアプリケーションパフォーマンスをリアルタイムで追跡・分析して報告することが可能になる」。Axiansの技術プラクティス責任者クリス・ギルモア氏はそう解説する。
ビジネス上の課題を解決すると同時に、次世代WANが残るビジネスでも使われるためには、自らの設計問題を克服する必要がある。HPE Arubaの製品マネジャー、デイブ・チェン氏は、次世代WANの設計で最も重要な側面として、それがどう使われ、他にどんな要素が存在しているのか理解することを挙げる。
「WANに対しては、ユーザーの挙動の変化や、アクセス層の動的な変化、ファイアウォールとアプリケーションとサードパーティーサービスのあらゆる組み合わせを理解して、それに順応できるだけの知性が求められる」とチェン氏は話す。「つまり、ITは全てのブランチネットワークを相対的に見通して、トラフィックの流れに貢献する全てのコンポーネントを最適化しなければならない」
企業が次世代WANを構築する際は、実際にそれをどう使うかを考える必要がある。利用は常に、サービスとデバイスの構成を中心に回転しているとロック氏は言い、「どんなサービスを、誰が必要としているのか見極めることは、WANインフラのように規模が大きい場合はもちろん、どんなプロジェクトにおいても第一歩としなければならない。だがそれは、必ずしも効率的、効果的、徹底的に守られているとは限らず、視野の狭い人たちに前方を遮られることもある」と話す。
ThousandEyesのケサバン氏は企業に対し、ビジネスにとって何が大切なのかを考え、サービス提供とユーザーエクスペリエンスについて相対的な見方を取るよう促した。「サービス提供とアプリケーションパフォーマンスを理解すること。これはユーザーエクスペリエンスと非孤立化に関わる。ネットワークインフラ、インターネットルーティング、デバイスの挙動は、いずれもパフォーマンスやエンドユーザーエクスペリエンスに影響を与え得る。従って、そうした局面を全て理解することが欠かせない」
1つで全てには当てはまらず
次世代WANのビジネスケース構築については、どんなものにも当てはまるアプローチは存在せず、恩恵は業界や場所によって大きく異なる。だがその中核にあるのは、ネットワークに関する新しい考え方だ。SSE Enterprise Telecomsのマロン氏は、「今後1年から1年半の間に、クラウドへのシームレスな移行を加速させる一助として、企業はますます次世代WANの導入に目を向けるようになるだろう」と予想する。
5Gではいずれ、複数の機能を組み合わせた次世代ネットワークの構築が視野に入ると話すのは、Cradlepointの最高マーケティング責任者(CMO)、トッド・クラウトクレマー氏。「5Gは4Gの全機能を搭載し、膨大なモバイルデータに対応できる容量を備える。3Gの音声、ビデオ、モバイルデータ機能も提供し、IoTのデプロイ用に2Gへ立ち戻る。さらにはWi-Fi周波数も含まれる。事実上のゼロレイテンシと、ギガビット級のスループットといった機能が組み合わさって、次世代5GWANが形成される」
5G技術の潜在的メリットは巨大だとクラウトクレマー氏は指摘する。レイテンシは減り、スループットや接続密度、周波数の効率性、トラフィック容量、ネットワークの効率性は増大する。しかもそれが、今後2年以内に実現する。
「ネットワークサプライヤーにとっては、ネットワーク機能仮想化(NFV)などのネットワーク要素を顧客のニーズに応じて調整しながら、レイテンシと帯域幅の均衡を保つことが課題になる。次世代ネットワークを管理するために、企業はハードウェアをSDN技術と組み合わせる価値について検討する必要が生じる。次世代5G WAN上でこれを実現することが、セキュアな接続の基盤になる」。クラウトクレマー氏はそう話している。
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