企業のデータ活用、もう1歩進めるにはどうすれば? 成長を促す活用のヒント:データ活用文化――その生産性を高める
昨今のデジタルビジネスの継続的な成長に、データ分析が欠かせない。あらゆるデータを使い倒すための環境は整備できているだろうか。先進的な事例から企業のデータ活用のスピード感を高め、ビジネス成長につなげるためのヒントを紹介する。
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ビジネスの意思決定にデータを活用する取り組みは、もはや企業にとって常識だ。しかし「データ活用の成熟度を高めるための取り組みを実践している」と自信を持って言える企業は多くないのではないだろうか。かつてデータ分析のためのシステム環境を構築するには多大なコストや、手間と時間がかかっていたからだ。
現在ではデータ分析の技術が進歩し、さらにシステムを手軽に導入できるクラウドの仕組みが登場したことで、以前よりもはるかに低コストかつ短期間でデータ活用のための環境を構築できるようになったことをご存じだろうか。
データ活用はデータアナリストなど一部の専門家だけのものではない。データ分析を手軽に行う基盤とツールを業務に取り入れることで、さまざまな部門の従業員が膨大なデータにアクセスし、独自の発見を得られるようになった。つまり、誰でも簡単に本格的なデータ分析ができる時代になったのだ。こうした環境はどのようにして実現し、どのように活用すればいいのか、事例を基に紹介しよう。
使いやすいツールでデータ分析の文化を根付かせる
企業にデータアナリティクスの文化を浸透させる際、最初に必要なのは全従業員が必要なデータにすぐにアクセスできる環境と、それらを手元で簡単に分析して可視化できるツールだ。
分析したいデータに対するニーズはユーザーによって千差万別だ。システム担当者がその都度対応するのは難しい。まずはユーザー自身が手元にあるリアルタイムデータを使って、他の業務データやオープンデータと組み合わせたり、素早く絞り込んで集計したりできる基盤が必要だ。
ツールの使い勝手も大切な要素だ。データ分析ツールはこれまで、データアナリストといった一部のエキスパートだけのもので、使いこなすには専門の知識や経験が必要だった。だがデータ活用のスピードを企業全体で高めるには、誰もが納得いくまで、さまざまな視点からデータを俯瞰(ふかん)し、素早く容易に気付きが得られる「気楽な操作感」が求められる。
日本オラクルは、簡単にデータ分析を始められる自律型データベース基盤「Oracle Autonomous Data Warehouse Cloud」(以下、ADW)とデータ分析のためのサービス群「Oracle Analytics Cloud」を提供している。専門的なスキルがなくてもデータ分析ができる機能が同サービス群には備わっている。
同サービス群を使うことで、どれだけデータ分析の環境を簡単に構築できるのか。参考になる事例を紹介しよう。システムインテグレーターのフェイスポートは、ADWとOracle Analytics Cloudが備える分析ツール「Oracle Data Visualization」を使って、さまざまなデータ分析の実験を試みた。同社は神戸と東京を拠点に、最新技術を生かしIT戦略推進支援からITサービスまで提供し、高い評価を得ている。同社の岡田希望氏は、「Oracle Data Visualizationを使った一連のデータ分析を通じて、通常では考えもしなかった意外な発見が短時間で得られた」と語る。
データ分析の実験に使用したのは、気象庁が公開している台風に関する統計データだ。まずは1951〜2017年の台風の「発生数」「接近数」「上陸数」などのデータを使い、周期トレンドなどを導き出した。さらに同じ台風のデータに「稲の被害」「米の価格」「干害」などのデータを掛け合わせ、両者の相関関係を調べた。こうした分析から「台風の多い年は明らかに稲の被害額が多くなる」といった仮説を簡単に確認できたという。
次に台風に関連がありそうな事象だけでなく、「有効求人倍率」「完全失業率」といった、一見すると台風には関係がなさそうなデータとの相関関係も調べた。その結果、「台風の発生数が多い年の2年後に有効求人倍率が上がる」という意外な関連性を見いだしたという(図1)。
岡田氏は、Oracle Data VisualizationのメリットはGUIによる高い操作性だと説明する。ADWと組み合わせることで、導入企業のニーズや利用者数に合わせて自由にスケールアップやスケールダウンができる利点もあるという。
「気になったときにすぐ、自分の主観を当てはめて図示し、仮説が確かかどうかを確かめられる。サクサク使える。環境はすぐ構築できるので、あとはデータを使っては捨て、使っては捨て、たくさん試すことができます。これは楽しい。ぜひエンジニア以外の方に使っていただけたらと思います」(岡田氏)
クラウドサービスとして導入できるため、オンプレミス環境で構築する場合に比べて、構築にかかる期間や運用にかかるコストを大幅に削減できるのも利点だ。
ADWとBIツール、企業向けの最適構成をさぐる
BI(ビジネスインテリジェンス)のサービスを提供しているジールの事例も紹介しよう。同社はおよそ30年、900社以上にわたるBIやデータウェアハウス(DWH)の導入支援を行ってきた。その実績を背景に、情報を糧に組織的に業績を向上させる支援サービスを提供している。
一言で「BI」といっても、目的によって実装は異なる。流通業であれば、経営層向けか、本部向けか、店舗向けかというように。例えば経営層は毎日同じ視点で進捗(しんちょく)を確認する一方、本部は売れ筋などを分析、確認し、各店舗は余剰在庫や欠品をなくすための確認をするだろう。これまで多くの場合、仮説検証を行う目的で全ての詳細データを蓄積して高速な集計が可能な分析用大規模データベースを仕立てる一方で、利用者の多い確認用には、あらかじめ地域別など目的ごとに集計したデータベースを別に用意して負荷を分散させていた。しかし、できれば両方を1カ所にまとめてコストや運用負荷を減らしたいというのが本音だ。
ジールは、全国で300以上の店舗を展開するあるファッションアパレル専門店の約1億レコードを用い、自律型データウェアハウスADWと各種BIツールの組合せについて、性能・運用の両面で企業向けの最適構成の評価を行った。BIツールとしてOracle Analytics Cloudが備える分析ツールから「Oracle BI Dashboard」とOracle Data Visualizationの2つと、他社の分析ツールを選んだ。
BIツールは、社内での情報共有に向いたクラウド型BIツールと、専任担当者が手元で手軽に分析を進めるのに向いたデスクトップ型BIツールがある。前者がデータの読み取りから加工までクラウドで行い、ブラウザを通して確認・操作するのに対し、後者はPCにデータを読み込んで操作する。ジールの検証では、デスクトップ型ではPCの処理性能がネックになる可能性があるという。また、全データをいったんPCに取り込んでから集計を行うタイプのデスクトップ型BIツールでは注意が必要だ。10分たっても集計が終わらないケースがある。デスクトップ版Oracle Data Visualizationのように、クラウドのADW側に集計を任せ、結果だけ表示するモードを備えたBIツールを選択することが活用の鍵となる。
ジールの賀門秀人氏(第2事業本部第2事業部 事業部長)は、「ADWは分析ニーズに合わせた接続方式を備えている点が優れている」と評価する。利用者の中には、大量データを使ってさまざまな分析をし、その結果から企画を立てる役割の部門だけでなく、前日や前年と比較しながら日々対策を検討する部門もある。特に後者は、月曜の午前中にさまざまな部門からアクセスが集中するため、その対策が求められる。
ADWには、「High」「Medium」「Low」の3パターンの接続方式がある。1人で素早くデータを分析する際はADWで利用可能なCPUを独占的に利用する接続方式「High」が有効だ。多人数で一斉にアクセスする場合は、処理能力を分散させる接続方式「Low」が適している。両方の利用者が混在する場合は、その中間的な接続方式を選択するなど、使い分けにより幅広い利用目的に同時に対応可能だ(図2)。
ジールは、ADWで利用可能なCPU数や接続方式を変更したときの有効性の検証も実施した。その結果、CPU数を上げ、負荷の高い分析処理を行うときは接続方式Highを使うことで、圧倒的に高速で完了できることを確認した。接続方式Lowを使えば影響を受けないことを確認し、同時アクセスが多い場合に余裕を持って対応できることを裏付けた。
自律型のデータウェアハウスサービスであるADWはあらかじめパフォーマンス調整が施されており、データをアップロードしさえすれば容易に運用できる点も利点だ。ジールで初めて触った際、いろいろ試しながらでも評価するのに要した時間は5日だったという。さらに賀門氏はADWを利用した構築・運用上のメリットとして、下記のような点を挙げた。
- 構築段階ではデータモデル設計や運用設計を複雑化する必要がない
- 運用段階ではパッチ処理やバックアップといった作業が自動化され、ADWに最適化を任せられる
RPAの導入効果を高め、さらなる活用を図る
近年、業務効率化や働き方改革を目的として、さまざまな定型業務を自動化する「ロボティックプロセスオートメーション」(以下、RPA)のニーズが高まっている。RPAの導入が進んでいるが、同時にRPAを導入したにもかかわらず、期待した効果が出ていない、効果が見えないといった課題が発生している。これらの課題を解決し、RPAの活用度をさらに高めるためには、データ分析やPDCAサイクルを活用する手法が有効だ。
RPAツールの導入効果を高めるためには、効果を可視化することに加え、効果の検証結果を改善につなげるための仕組みやRPAツールの実行状況を監視する仕組みが重要になる。具体的には、RPAツールの「実行ログ収集」「ログの永続化と蓄積」「可視化/分析」のプロセスが必要だ。
日本オラクルの鈴木 祐一郎氏(クラウド・テクノロジーコンサルティング本部 プロジェクトプリンシパルコンサルタント)は、「Oracle Cloudで、これら全てのプロセスを実行する基盤を構築できることを確認した」と語る。
「実行ログ収集」にはREST APIを提供する「Oracle Cloud Platform Application Development」を、「ログの永続化と蓄積」にはADWを、「可視化/分析」にはOracle Analytics Cloudを利用し、すぐに動くひな型を構築している。それにより、RPAの実行ログデータを自動的に収集し、稼働状況を定型レポートとして出力する。定型レポートは、閲覧者の部門・役職や目的ごとに自由にカスタマイズできる。前述のOracle Data Visualizationを使ってデータを深堀りし、定型レポートからは読み取れない傾向や特徴を発見することも可能だ。
企業内にはデータ分析を活用して、業務効率を向上させたりプロセスを改善したりできる領域がまだ多く残っているはずだ。例えば、データから過去の傾向を分析し、経費精算などの事務処理で不備が多い部署や従業員を見つけ出してプロセスの改善につなげたり、顧客単価が高い部門や売り場の人員配置を最適化したりすることが可能になる。システム部門であれば、ログデータの分析を通じて障害発生を予測する仕組みを構築できる。
さらに、鈴木氏は、「ADWを使えば、従来オンプレミスでシステムを構築した場合と比べて、機器購入から構築、本番リリースから運用保守のフェーズで、データベースにおけるインフラ作業を大幅に削減し、導入コストを大幅に下げることができる」と語る(図3)。
企業が「データ活用の成熟度」を上げるに当たって、かつて障害となっていた「コスト」や「運用の手間」といったハードルは、ADWの登場で低くなりつつある。今回紹介したデータ分析の事例が、ビジネスで新たな価値を創出するためのヒントになるのではないだろうか。
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