人類はこれを解決できるのか
成功しつつある2つのAIプロジェクトに共通する悩み
複数国でサービスを展開するインターネットプロバイダーとSAPは、AIの導入によって成果を出しつつある。だが彼らには共通する悩みがあり、まだ解決の糸口は見えていないようだ。
アジア太平洋(APAC)地域全体で人工知能(AI)への関心が高まっている。2019年前半に公開されたGartnerの調査報告によると、この地域のCIO(最高情報責任者)のうち、AIに関心がないと回答したのはわずか7%だという。
2019年6月に開催された「SAP Asia Pacific」の討論会でも、この傾向が明らかになった。
APACで光ファイバーブロードバンドやモバイルサービスを提供するインターネットプロバイダーのMyRepublicは、最近データサイエンスチームを結成した。同社の顧客を適切に理解する鍵はAIにあると話すのは、グループのCIOとCOO(最高執行責任者)を兼務するユジン・ヨ氏だ。
一方、SAPは「SAP Cloud Platform」と「SAP Leonardo」のAI機能を利用して、自社のビジネスプロセスとITプロセスを強化している。SAPが解決を試みているビジネス問題は全てAIの思考に支えられていると話すのは、SAP Asia Pacific JapanでCIOを務めるマニク・ナラヤン・サハ氏だ。
主な課題
多くの企業が自社のAI戦略の中でデータの問題に取り組んでいる。だが、SAPやMyRepublicが取り組んでいる課題は異なる。サハ氏によると、演算能力の不足が大きなボトルネックになるという。特に、結果が出るのに数日かかるような極めて高度なアルゴリズムやモデルを実行する場合は問題になる。
それはMyRepublicでも変わらない。AIモデルに支えられる販売やマーケティング戦略を進める場合、演算能力を優先して実行の可否を判断しなければならなかった。この問題に対処するため、MyRepublicはクラウドベースのサーバレスサービスを利用して演算能力の不足を補っているとヨ氏は話す。
日本の多国籍企業で地域ITマネジャーを務めるナイジェル・リム氏によると、同氏の所属企業はまだAI導入の初期段階にある。さまざまな業務が個別にシステムを運用しているため、そのデータをまとめるのが難しいという。
同社はこの課題に対処しているところだ。リム氏によると、サポートスタッフの生産性向上を目指して、テキスト分析によってヘルプデスク情報を収集する方法を模索しているという。「うまくいけば、データをクリーンアップしてチャットbotを使えるようにすることができる」と同氏は話す。
ヨ氏は、チャットbotについて異なる考えを持っている。同氏が率いるチームは知識ベースで支えられるチャットbotではなく、ユーザーストーリーによって支えられるチャットbotをGoogleと共同で構築している。
ヨ氏は次のように語る。「このチャットbotは、ネットワークのトラブルシューティングをするユーザーを支援する。チャットbotはネットワークインフラにアクセスして、ファイバーケーブルの断線やGPON(Gigabit Passive Optical Network)装置で回線の問題発生を確認する。また、ユーザーのアカウントを参照して、未払いが原因でサービスが止められているかどうかを確認する」
「こうした確認によって問題が見つからなかった場合は、ユーザーによるトラブルシューティングを支援する。サポートを求める全ての電話はライブチャットにつなぐ予定だ。デジタルな対話を求めるユーザーが増えており、電話でサポートを受けたいと考えるユーザーはいない。これはオーストラリアで行った当社のユーザーレビューからも分かる」(ヨ氏)
毎年従業員から100万件もITサポート要請を受けるSAPでは、こうした要請の10~15%がチャットbotで処理されるようになったとサハ氏は話す。同氏は、AI導入は規模を大きくすることが重要だと強調する。
「AIの価値を十分に引き出すには、大規模に導入する必要がある。先行投資が重要になるためだ。1支社や1国で導入するだけでは、優れた投資対効果が得られる可能性は低い」と同氏は言う。
とはいえ、AIプロジェクトが特定の基準に基づいて、一定の期間内に必ず成果を挙げるとは限らないとサハ氏は警告する。
「AIが他のプロジェクトと異なるのは、時間がたつにつれAIが賢くなり、最適化され、得られるメリットが大きくなることだ。Amazonの『Alexa』を見れば分かるだろう。Alexaは最初のリリース時よりも格段に多くのシナリオに対処できるようになっている」(サハ氏)
学界と産業界では、AIアルゴリズムが具体的な結果を導き出す方法や、特定の決定を下す方法を理解する必要が高まっている。サハ氏によると、SAPは説明可能なAIプロジェクトを立ち上げ、AIの決定に影響を及ぼす要因を研究しているという。
「こうした研究が非常に役立つ分野が医療診断だ。人間の医師よりもがんを発見する能力の高いAI機能が存在するまでになった。だが、AIが画像のどこを見てがんの可能性が高いと伝えているかが分からない」と同氏は話す。
MyRepublicのAIアルゴリズムの一つが、Webブラウザの過去3カ月分の履歴を調べて、あるスタッフが信仰を変えたと推論した。そのアルゴリズムがその推論を正しいと結論付けた理由を理解しようとして苦しんだとMyRepublicのヨ氏は話す。「チームは、このアルゴリズムがこのような結論を導き出した過程を解明できなかった」と同氏は言う。
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