検索
特集/連載

5Gで加速する小売業、農業、AIの進化5Gのユースケース【後編】

5Gは小売業や農業、自動運転車やAIにどのような恩恵をもたらすのか。5Gによって実現する技術やイノベーションとは何か。各業界の識者が5Gの可能性を紹介する。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

 前編(Computer Weekly日本語版 11月6日号掲載)では、5Gが製造業、輸送業、電力にもたらす可能性を紹介した。後編では、小売業とVR/AR、農業、自動運転車やAIへの応用例を検討する。

VRとARを応用した小売業の強化

 Infosys Consultingで小売りと消費財業界のアソシエートパートナーを務めるマヌ・チャギ氏によると、5Gの導入は単なる通信技術の改善ではないという。

 レイテンシが最小限に抑えられ広範な接続が実現することから、10Gbpsという速度が実現する可能性がある。これにより小売業者とその技術チームに多くのチャンスがもたらされる。5Gのシームレスな接続と超高速レスポンス時間により、「想像以上」の革新的な消費者エクスペリエンスが供給され、細部まで個人に合わせたエンゲージメントの提供が可能になる。

 「小売業者や大手消費財企業は、5Gの主な用途としてスマートシェルフ、リアルタイム広告およびプロモーション、店舗とモバイルアプリ両方でパーソナライズされたデジタルサイネージ、VR/AR対応技術(アパレル業界で活用される、パーソナライズされた情報を表示するスマートミラーなど)が想定される」(チャギ氏)

 「店舗在庫をリアルタイムに追跡・監視する機能により、店舗に目的の商品がなくても消費者がシームレスにオンラインで注文して自宅で受け取ることができる。5Gの素早いレスポンス時間が、優れた小売りエクスペリエンスを求める消費者に大きな影響をもたらす分野の一つだ」とチャギ氏は補足する。

農業の効率化

 工場で可能なこと(プロセスの自動化促進、センサーによるプロセスの改善)は農場にも応用できる。Vodafoneは、雌牛の尾にセンサーを取り付ける取り組みを既に行っている。雌牛は妊娠すると体温が上昇し、熱を下げようとして尾を振る回数が増える。

 パルマー氏によると、簡単なセンサーで体温上昇と尾の動きを報告できるという。その情報を機械学習で処理すれば、陣痛が起きる時間を予測できる。農家と獣医師はそれに基づいて出産の計画を立てることができる。

 「センサーの使用が広がれば、家畜を扱う農家と獣医師の双方に役立つ。健康データだけでなく、その動きを追跡することで家畜が盗まれる恐れを減らすことも可能だ」とパルマー氏は話す。

 ドローンと自動運転車はさまざまな用途に応用できる。農場は人が少ないため、ドローンや自動運転車のユースケース(耕作、農作物の調査や取り扱いなど)による危険が相対的に少なくなるためだ。センサーは農作物や土壌の監視にも役立ち、潜在的な問題の発生を予測して回避することにつながる。

 「工場のようにセンサーを使うことで、維持管理コストや中断時間を軽減することも可能になる」(パルマー氏)

自動運転車とその未来

 今後5年間の5Gの進化は、どこかの時点でネットワークに依存するようになる、新しいエンドユーザー技術の開発にある程度左右されるだろう。

 モバイルネットワークの独立系ベンチマーク企業Global Wireless Solutionsの代表取締役兼CEOを務めるポール・カーター氏によると、この好例がコネクテッドカー技術分野に見られるという。

 「自動運転車が急速に発展し、路上に普及し始めれば、ネットワークの優先順位付けなどの機能が実装される。これにより、テキストメッセージ送信のような優先度の低いネットワークアクティビティーよりも車両の通信が優先されるようになる」(カーター氏)

AI

 Digital Workforceで英国とアイルランドの地域統括部長を務めるジェームス・ユーイング氏によると、5GはAIの普及を大きく促進するという。

 AI導入の大きな障害の一つは処理速度の制限だと同氏は話す。

 「5Gは4Gの10倍のデータ転送速度を保証する。つまりAIアプリケーションを使うシステムは、データを非常に高速に受信して処理できる」

 これによりAIにも影響が及ぶ。AIアプリケーションを使うシステムのデータ分析時間が非常に高速になれば、そこから学習して必要な改善をする時間も大幅に短縮される。

5Gの進化

 今後5年間で5G対応機器が増加し、5Gの対応範囲とスペクトルを拡張するネットワーク事業者も増加するだろう。エッジでの制御は、スループットと最小限のレイテンシがカスタマーエクスペリエンスに不可欠なさまざまなユースケースやアプリケーションで極めて重要になる。

 Accedian Networksでグローバル戦略およびソリューション担当のバイスプレジデントを務めるラミロ・ノーブル氏によると、これにはスマートシティーの輸送イニシアチブ、小売り環境におけるVR/ARアプリケーション、患者とファーストレスポンダー向けのeヘルスサービス、電気、ガス、水道の分析などがあるという。

 「5Gで成功を収めるには、顧客が恐らくパブリッククラウドプロバイダーからまだ得られていないもののうち、何を提供できるかを事業者は考えなければならない。接続性と帯域幅のみで競争するだけでは不十分だ。サービスの信頼性とパフォーマンス保証の観点からエッジクラウドとアクセス数を制御することが、真の成功の鍵になるだろう」

 進化しない技術など存在しないが、それは5Gのハードウェアとネットワークも同じだ。関連する他の新興技術が変化・進化するのと同様、5Gも進化して新しいチャンスと需要が生まれるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る