開発者とユーザーの垣根をなくすローコード開発:Computer Weekly製品ガイド
5年前に初めて“ローコード開発”という用語が登場した。そして今、エンタープライズアプリケーション開発における新たな成熟期を迎えている。このトレンドはあらゆる種類の組織が恩恵を受ける。
ローコード開発ツールサプライヤーは、主にグラフィックを使ったドラッグ&ドロップ方式でアプリケーションを開発できるとうたっているが、他のITインフラと接続するためにはある程度のコーディングが必要なこともある。これは、純粋にグラフィカルな開発環境を約束するノーコードの概念とはやや異なる。
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それでも開発者は全体的なIT環境について認識しておく必要はあるとOutSystemsのバイスプレジデントを務めるエデュアルド・クルーズ氏は述べ、「コアシステムを開発しているのであれば、そのアーキテクチャを理解しなければならない。ローコード開発は、アーキテクチャがないという意味でもセキュリティやテストがないという意味でもない」と指摘する。
ユーザーのニーズに応えるRAD
「ローコード」はForresterが2014年に使い始めた用語だが、このコンセプト自体は新しいものではないという見方もある。
Pegasystems(1983年創業)はメインフレームのグリーンスクリーンシステムに表示されるフォーム上でユーザーのニーズを把握することによって始まった。同社はクライアント/サーバの時代からクラウドの時代を通じて製品を開発しているが、ユーザーのニーズに寄り添ったRAD(ラピッドアプリケーション開発)に注力していることに変わりはないと、最高技術責任者のドン・シュアマン氏は語る。
「それが顧客の請求書管理であれ、ワクチンクリニックであれ、要はプロセスを小さく切り分けてアプリケーションを開発し、デプロイするということだ。これは全て、ビジネスプロセスを発見してそれを分割することに尽きる」(同氏)
ローコード開発に対するここ最近の需要は、IT環境を丸ごと入れ替えるのではなく、手早くモダナイズしたいという欲求から来ているという。「事を迅速に進めたいというのが、ソフトウェア開発に対するビジネス側の要求だ。ビジネスは自動化も望んでいる。そうした理由から私は、ローコード開発とRPA(Robotic Process Automation)は継続的領域の一部だと考える」とシュアマン氏は言う。
ローコード開発の概念は、Microsoftが2016年に市場に参入したことで飛躍的に認識が高まった。Microsoftの「PowerApps」は、ビジネスユーザーが独自のアプリケーションを開発でき、IT部門にその変化をもたらすことさえできる。
クラウドCRMサプライヤーのSalesforce.comも、同社のクラウドプラットフォームでユーザーを支援するローコード開発ツールを提供している。もう一つ特筆すべきサプライヤーのAppianは、アプリケーション開発を20倍高速化でき、リソースは削減できるとしている。
Gartnerの調査ディレクター、ポール・ビンセント氏によると、一般的なアプリケーション開発にかかる期間は、従来型アプローチでは半年から2年を要するのに対し、ローコード開発ツールを使えば2〜3カ月に短縮できる。
ローコード開発ツールを採用するユーザーは、大手サプライヤーと小規模サプライヤーの違いを認識する必要がある。MicrosoftやSalesforce.comのような大手は、自社の環境で実行されるアプリケーションしか開発できないようにしている。これに対して小規模サプライヤーは、オンプレミスを含むさまざまな環境に移植できるアプリケーションの開発を支援できる。
ローコード開発の人気
ローコード開発に対する関心は、主に独自アプリケーションを開発するビジネスチームの間で高まっているが、ローコード開発の最大のユーザーは開発者だとビンセント氏は指摘する。
「『Red Hat OpenShift』『Cloud Foundry』、Pivotal製品を使うような従来型のアプリケーション開発では、開発者がAPIゲートウェイを使ってアプリケーションを他の複数のコンポーネントと組み合わせなければならないことがある。これに対し、ローコード開発ツールにはインテグレーションやデータベースのような機能が全て組み込まれているので、ただそれを効率的に使うだけで済む。これは真に大きな変化の一つだ」(ビンセント氏)
ローコード開発の人気は幅広い業界に行き渡っているといい、「通常は、新技術の採用が期待されるのは金融や通信といった業界が中心だが、ローコード開発は幅広い業界で採用できる」と同氏は話す。
ローコード開発自体は新しいものではない。だがこの新しく付けられた呼び名はITユーザーの注目を集めている。これはソフトウェア開発の加速を約束するだけではない。ユーザーニーズの把握を向上させ、究極的には新しいアプリケーションを支持してもらい、事業目標を達成する助けになる。これはビジネスユーザーだけでなく開発者にも人気があり、ITとビジネスユーザーとの関係の刷新を約束する。
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事例:ローコード開発でユーザーのニーズに寄り添うMencap
ユーザーに受け入れてもらうことは、アプリケーション開発で特に苦労する部分だ。だがMencapの場合、特にその苦労が大きかった。学習障害のある人の介護を担うケアワーカーの中には、ノートPCを使ったことのない人さえいた。
Mencapの事業改善責任者、スコット・マーカム氏によると、Mendixのローコード開発ツールはユーザーのニーズを把握し、働き方を変えるための技術利用を支持してもらう助けになった。「人に会って迅速に開発し、迅速に失敗して学習できる。そのおかげで皆が同意するものを素早く提供できる。彼らはアプリケーションの開発と批評を支援することによってこの過程に参加しているので、自分たちがプロセスの一部だという感覚を持つ」と同氏は言う。
このアプリケーションは職員6000人とボランティア1500人に利用され、うち約40%はスマートフォンでアクセスする。当初の事業目標はペーパーワークの削減とガバナンスの改善だった。だがMencapはローコード開発のアプローチを使ってプロセスを変革し、実績データを共有し、サービスを利用するユーザーの介護を改善するアプリケーションを構築している。
事例:ビジネススキルをITにもたらしたAutoglass
もしもAutoglassの経験が頼りになるとすれば、ローコード開発はビジネスユーザーをIT部門に異動させ、実際のプロセスについての理解をもたらす助けになり得る。
ソフトウェア開発者のマーティン・リー氏は、フロントガラスの緊急修理会社Autoglassのサービスセンターで働き始め、事故を起こした運転手の元に派遣する技術者の手配を手伝っていた。当初は「Microsoft Excel」を使ってチームの実績をモニターしていたが、その後「Microsoft Access」で「遊び」始めたという。PowerAppsを起動したところ、フィールドワーカーのペーパーワークを減らし、生産性を高めるためのアプリケーションを自分で開発できることに気付いた。「最初は何もないところから構築したので開発に多少時間がかかった。それを少数のユーザーにデプロイしてフィードバックを募り、フィードバックが集まるとデプロイの幅を広げた」とリー氏は説明する。
今ではフィールドエンジニア1500人がAndroidスマートフォンでこのアプリケーションを使うようになり、人事部門で使うものも含めて100以上のアプリケーションが本番環境に導入されている。リー氏によると、フィールドサービスアプリケーションは1回の仕事につき5〜10分のペーパーワークを減らすことができ、用紙に記入された内容を業務管理者がスプレッドシートに入力し直すのにかかる時間も削減できる。だがこのアプローチはまた、自分たちが必要とするツール開発に対するユーザーの関与を増やすことにもつながっている。
「われわれは、彼らがそのアプリケーションを管理するスキルを身に付けてくれることを期待して、一緒に座って共にアプリケーションを開発することを奨励している。ユーザーとコラボレーションできることは素晴らしい」とリー氏は言う。
リー氏がアプリケーションの開発を始めて2年半になるが、IT部門に異動になったのは1年ほど前にすぎない。今はソフトウェア開発者になるためのトレーニング中だ。アプリケーションを開発しながら、PowerAppsを他のユーザーに案内する手助けも行っている。「もし誰かがそれで遊び始めれば、彼らがアプリケーションを開発しているというトリガーが出て、われわれがある程度のガイダンスを提供する。そのアプリケーションを公開する際には事前にITに連絡する必要がある」と同氏は話している。
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