Alibaba Cloudが欧米市場に進出するための条件:Alibaba vs. AWS、MS、Google【後編】
トップクラスのクラウドプロバイダーに成長したAlibaba Cloudだが、欧米市場への進出には苦戦している。欧米のユーザー企業はAlibabaをどう見ているのか。採用の可能性はあるのか。
前編(Computer Weekly日本語版 4月1日号掲載)では、Alibaba Cloud最大の差別化要因とそれがもたらす効果を紹介した。
後編では、欧米企業がAlibabaを採用する条件を検討する。
関連記事
- 主要VPNサービスは危険? VPNプロバイダーの資本や国籍に注意
- AlibabaのCNN向けディープラーニングプロセッサの全貌
- 信じるか否か――疑惑のHuaweiが進める米国・世界戦略
- 徹底分析「Alibaba Cloud」
- 恐怖をあおるセキュリティ業界に喝!
AWSでヨーロッパ、中近東およびアフリカ(EMEA)におけるビジネス開発常務取締役と英国とアイルランドにおける常務取締役を務めるダレン・モウリー氏は、英Computer Weeklyのインタビューに次のように答えた。「GoogleとMicrosoftの2社を別にすると、Alibabaは規模、イノベーション、リソースの点で競争相手になる」
「英国について言えばまだほんの始まりにすぎないだろうが、Alibabaをよく見掛けるようになった。世界の他の地域ではもっと顕著だろう」とモウリー氏は付け加える。
モウリー氏は、AWSの方が多くの顧客ニーズを満たすことができると自信を見せるが、Alibabaは技術的に見て、多様性と幅広さの点で「面白いこと」をしていると話す。
加えて、Alibabaは速いテンポで各国の規制、データ、プライバシーに対応していくと予想される。
CCS Insightのマクワイア氏によると、ヨーロッパや北米に有効なAlibabaの参入実績が全くないのには、幾つか理由があるという。
「主な理由は、他のクラウドプロバイダーに比べて機能のポートフォリオが劣っている点にある。特に、国内のデータセンター施設で提供される国際サービス、セキュリティ、コンプライアンスサービスが劣っている」(マクワイア氏)
「最大の問題は、ヨーロッパや北米で、ミッションクリティカルなワークロードを運用する上でAlibabaを完全に信頼している大企業がほとんどないことだ」と同氏は続ける。
CCS Insightが400人の上級IT意思決定者を対象に最近実施した調査で、遠距離からの企業データ処理に関して質問したところ、Alibabaは最も信頼されていない技術ブランドであるという結果となった。調査に参加した米国とヨーロッパの企業のうち、Alibabaを信頼していると回答したのはわずか3%だった。
信頼がこれほど低い原因は、現在の地政学にある。同社がHuaweiと同じ道をたどるかどうかは、現時点では分からない。
同時に興味深いのは、AWSが中国市場を詳しく調査しており、最近「AWS Marketplace China」をリリースしたことだ。中国企業がAWSを受け入れるかどうかは、AWSがセキュリティ、プライバシー、政治的緊張といった条件のバランスを取りながら、Alibabaと大きく差別化できる広範なサービスを提供していると見なされるかどうかに懸かっている。
Microsoft、Google、Oracleなどは、Alibabaが総合的なクラウドサービスを提供していない証しとしてSaaSに進出していない事実を指摘するだろう。これはAWSに向けられている批判と同じだ。
ITインフラのクラウド移行に関しては、多くの企業が既に米国の大手クラウドサービス企業3社のいずれかに決めていることは覚えておく価値がある。ロックインというほどではないとしても、すぐに他社のクラウドに乗り換えようとは考えないだろう。
例として、John Lewis PartnershipでCTO(最高技術責任者)を務めるアンドリュー・マッキンズ氏の話を紹介しよう。同社は「Google Cloud Platform」を利用しているが、同社の子会社WaitroseはITインフラの統一を決めるまでAWSを利用していた。同社は既に大手クラウドプロバイダー2社を利用していたわけだ。
マッキンズ氏は、Alibabaなどを検討しているが、採用するには特別なセールスポイントがなければならないという。
「コモディティではなく、他社が提供していないものが欲しい」と、マッキンズ氏は英ロンドンで開催された「Google Cloud Next 2019」で本誌のインタビューに答えた。
さらに、マッキンズ氏は次のように補足した。「組織のプラットフォームチームを動かして、アップスケールし、使い方のトレーニングを実施するのに必要な教育を考えると、何度も行いたいとは思わない。従って、クラウドプロバイダーを追加するのであれば相応の魅力が必要だ」
他の企業が同様に考えているとしたら、Alibabaは大きな課題を抱えている。だが、だからといって今後数年間は太刀打ちできない、他の差別化要因を見つけられないと言っているわけではない。
Alibabaが中国外での導入拡大を目指せば、AWSがAlibabaのホームグラウンドでの勢力拡大を試みるだろう。Alibabaにはその用心も必要だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.