ソフトウェアによる動的ネットワークはIT部門にとってのチャンス:Computer Weekly製品ガイド
パブリッククラウドとオンプレミスの共存に注目する企業やクラウドネイティブアプリケーション開発にフォーカスする企業がけん引する形で、ネットワークに対する新たな関心が高まっている。
ネットワークは再び「クール」なものになった。調査会社Forrester Researchの調査報告書「Infrastructure Technology For 2020(2020年のインフラ技術)」によると、ソフトウェア定義ネットワークがようやく定着し、5Gが見え始め、モノのインターネット(IoT)やエッジコンピューティングの普及に伴いITの領域に加わるワイヤレスオプションが増える中で、ネットワークに再び熱い視線が注がれている。
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「仮想ネットワークインフラ(VNI)やワイヤレスオプションの新しい展望は、多くのI&O(インフラ&IT運用)プロフェッショナルにとって非正統的であると同時に、エキサイティングでもある」。Forresterのアナリスト、グレン・オドネル氏とローレン・ネルソン氏はそう指摘した。
ネットワークに対する新たな関心の高まりは、パブリッククラウドとオンプレミスの共存に目を向けながら、クラウドネイティブなアプリケーション開発に注力する企業によってけん引されている。既存のソフトウェアをシンプルなIaaSに移行させる中で、仮想化やプログラマブルインフラ、自動化といった技術の領域はサーバを越えて拡大し、ネットワークインフラを網羅するようになった。
Google Cloudのネットワーク担当ゼネラルマネジャー、シャイレシュ・シュクラ氏は、1分のダウンタイムが組織のブランドの評判や業績に長期的な影響を及ぼすこともある中で、シンプル性、セキュリティ、利便性が不可欠だと考える。
「カスタマーエクスペリエンスが全てであれば、ネットワークインフラはあらゆるビジネスにとって長期的な成功に不可欠だ。だがネットワークの構築とメンテナンスはかつてないほど難しくなった」とシュクラ氏は語る。
わずか5年前まで、ネットワークは静的な接続の連なりだった。ITチームとネットワーク管理者はシステムをプライベートデータセンターに接続することに専念し、手作業でA地点がB地点と情報を共有できるようにしていた。シュクラ氏によると、ネットワークの様相は現在と大きく異なっていた。
静的ネットワークから動的ネットワークへ
クラウドネイティブアーキテクチャはマイクロサービスとの関係が深い。マイクロサービスでは大きなモノリシックコードが小さなコンポーネントに分解されて、容易に管理できるようになり、理想的には他のコンポーネントから独立してアップグレードできるようになる。
Googleによると、企業は業界を横断してマイクロサービスを採用するようになり、モノリシックアプリケーションを自己完結型の複数の機能へと分解している。
だがシュクラ氏は言う。「マイクロサービスアーキテクチャはアジャイルの促進を志向しているものの、新たな課題も呼び込む。アプリケーションがシームレスに稼働するためには、それを構成する全てのマイクロサービスが互いにセキュアで効率良く、低レイテンシで通信できなければならない」
アプリケーションが多数のマイクロサービスを利用するためには、その全てをネットワークで連携させる必要があり、ネットワークの重要性は高まっているとシュクラ氏は見る。「ネットワークは動的になっている。システムの健全な状態を理解して維持することは、従来のようなITの部分的な解決策では対処できない大仕事になった。さらに、ハイブリッド環境やマルチクラウドもさらなる異質性と複雑性を発生させ、頭痛を悪化させる」
新しいネットワークのアプローチ
ForresterはCIOに対し、ネットワークをビジネスの中枢システムと見なすことを推奨する。IT意思決定者がネットワークを調達するに当たっては、SDNの域を越えて顧客と交流し、顧客を後押しするVNIを満たす方向にかじを切るよう同社は促している。
ネットワークに対する従来型のアプローチは、マイクロサービスに大きく依存するクラウドネイティブコンピューティングには適していない。IT意思決定者は、全く新しい技術とフレームワークの上にネットワークを構築する必要があるとシュクラ氏は説く。
同氏によると、オープンネットワークスタンダードという概念は、マイクロサービスをベースとする時代において、改めて重要性を増している。オープンなAPIはオンプレミスとクラウドを横断してアプリケーションをつなぎ合わせることができる。これによって企業は、既存のインフラ投資を維持しながら自分たちのペースでモダナイズを推進できる。
「Envoy、Istio、Kubernetesのようなオープンソースソフトウェアは透明性の高い標準開発を実現する。何もない状態からAPIやモデルを開発せずに済む」とシュクラ氏は言う。
加えてIT意思決定者は、ネットワークがより動的になればセキュリティにも影響することを認識しなければならない。「レガシーネットワークは出入口が1つしかなかったのに対し、現在のネットワークセキュリティ対策には、無数の分散したエンドポイントの安全対策が含まれる」とシュクラ氏。
これはIT部門にとってのチャンスでもあるとシュクラ氏は受け止める。ネットワークの上にファイアウォールを重ねるのではなく、本質的なセキュリティをネットワークに組み込むことが可能になるからだ。そうすることで、ネットワークが存在するどんな場所でもネイティブで常時有効なセキュリティプラットフォームを構築できる。「ネットワークが全てのトラフィックを見通すことができるので、普段とは違う挙動を検出して攻撃のリスクを見極められる」とシュクラ氏は話す。
機械学習を活用して「動的にネットワークを管理する」チャンスも生まれる。「最近まで、ネットワーク運用は大部分が受動的だった。設定ミスは本番環境に導入されるまで見つからず、ネットワーク管理チームは時間の大部分を単純な問題のトラブルシューティングに費やしていた。だが機械学習ベースの技術を利用すれば、それまでより高速かつはるかに大きな規模でパフォーマンスをモニターできる」
シュクラ氏の経験では、機械学習ツールは移設されたワークロードや設定の変更がデプロイされる前に影響を予測することによって障害を防ぐ助けにもなり、修正を提案することさえできる。
バックボーンとしてのネットワーク
ネットワークに対する新しいアプローチで実現することとして、ネットワークインフラのプログラミングとネットワークタスクの自動化が挙げられる。
2020年2月に発表されたForresterの別の報告書「Jump-Start Your Network Automation(ネットワーク自動化の始動)」で同社は、ネットワーク自動化の初期の試みは、データセンター内でソフトウェア定義ネットワークの新しい役割に対応することにフォーカスしていたと指摘する。
だが作者のアンドレ・カインドネス氏とクリス・ガードナー氏はこう指摘する。「一見すると完璧にフィットするように思えるが、データセンターネットワークは自動化が最も複雑な分野の一つかもしれない。サーバとストレージ、仮想化、高度なネットワークインフラ間の相互通信のために自動化が難しいこともある」
両氏はIT意思決定者に対し、複雑性の少ないネットワークから始めるよう促している。自動化では、従来のネットワークとは違う思考が求められる。「何十年もの間採用してきたのと同じ種類のプロフェッショナルを採用し続けることに意味はない」と両氏は指摘し、多くの大手クラウド事業者のやり方をまねて、採用や昇進のプロセスにおいてネットワークスキルと経験、教育条件の一部としてプログラミングスキルを含めることを提言している。
顧客の期待が必然的に増大し続ける中で、ネットワークの複雑性も増大し続ける。ネットワークは重要なバックボーンとして、洗練されたカスタマーエクスペリエンスを実現する。Googleのシュクラ氏が指摘する通り、やがて志向やトレンドがシフトすれば、そうしたエクスペリエンスも変化してネットワーク技術は継続的に進化する。
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