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「JP1」と「Hinemos」の歴史で考える企業ITと統合運用管理の移り変わり「統合運用管理」の基本と進化【第2回】

システムの運用管理を支える製品として統合運用管理ソフトウェアは長い歴史を持つ。企業ITの変化に応じて統合運用管理がどのように変わっているのか。JP1とHinemosを例にして考える。

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JP1 | OSS | クラウド運用管理 | 統合運用管理


 「JP1」や「Hinemos」といった統合運用管理ソフトウェアは、誕生した当初と2021年現在を比較すると提供する機能が様変わりしていることが分かる。1994年のVersion1の発売から約27年が経過しているJP1の場合は特にそうだ。メインフレームからのオープン化、内部統制の強化、サーバの仮想化、クラウドサービスの登場、AI(人工知能)技術の台頭といった企業ITの変化とともに、その都度システム運用に必要になる機能を追加している。

 HinemosはIPA(情報処理推進機構)による、OSS(オープンソースソフトウェア)の統合運用管理ソフトウェアを生み出す企画を通じて誕生した。OSSとして開発されたという点で、商用ソフトウェアとして開発されてきた製品とは異なる視点で統合運用管理ソフトウェアの在り方を理解することができる。

 JP1のルーツは、企業のシステムインフラがメインフレームから「UNIX」系サーバをはじめとするオープン系システム(相互運用性を確保した標準的なハードウェアやソフトウェア)へとダウンサイジングした時代にさかのぼる。メインフレームが標準的に提供していたバッチ処理や自動化機能をオープン系システムでも利用可能にするために、JP1はジョブ実行機能を備える製品として誕生した。その後「Windows NT」など多様なサーバOSを利用する動きが広がったことを受けて、JP1も複数のシステムを合わせて運用管理する機能を搭載し、1997年に発売したVersion5で「統合システム運用管理ソフトウェア」という位置付けになった。

JP1の歴史に見る、企業ITの変化と統合運用管理

 企業ITの分野でどのような変化があったのか、JP1が変わってきた歴史から俯瞰(ふかん)できる。インターネットが普及し始めた頃の2000年に発売したVersion6は、インターネットビジネスを想定したネットワークやセキュリティの管理機能を追加。2000年代の大きな追加機能としては、ITサービスマネジメントのベストプラクティスをまとめたITIL(Information Technology Infrastructure Library)に沿った運用管理や、内部統制のための監査ログを効率的に管理する機能の追加などがある。2010年代には複数のクラウドサービスを利用するマルチクラウドの管理機能や、運用自動化の強化などをはかっている。

 2021年1月に発売した最新版はバージョン12.5となっている。2021年現在は、情報系システムに加えて基幹系システムもクラウドサービスに移行する動きがある。開発当初からJP1に携わってきた日立製作所の主任技師、横山卓三氏は「重要なシステムがクラウドサービスでも稼働する状況を前提にして、異なる環境にあるシステムを関連付けて全体を安定的に運用管理するための役割を重視している」と現在の重点を説明する。

 「人手による運用管理コストを下げ、人員を既存の運用管理以外に使いたいといった声もよく聞くようになった」と横山氏は話す。人に依存しない運用管理を目指すことも今後の方向性だ。Version12.5では、システムの可視化やデータの関連付けを担う統合管理製品「JP1/Integrated Management 2」に、インシデントが発生した場合に運用手順書に沿って適切な対処法を運用担当者に提示する機能を追加。ベテランの運用担当者が抜けて、経験の浅い担当者だけで迅速な対処をしなければならない状況を想定した機能だ。

 同じく日立製作所でJP1を担当する主任技師の立原秀和氏は「企業ITの分野で話題になっていることに応じて大きな機能追加をしてきた歴史がある」と話す。JP1の機能追加の変遷を、ほぼそのまま企業における運用管理の移り変わりと捉えても大きな隔たりはなさそうだ。

OSSでも統合運用管理を実現

 Hinemosは2005年にOSSとして誕生した。それ以来、NTTデータ先端技術が開発を続けると同時に、Hinemosのサポートや追加機能を含めたサブスクリプションサービスを同社が提供している。Hinemosの基本機能は、ソースコード共有サービス「GitHub」で無償ダウンロードが可能だ。

 開発当時は企業のシステムやインフラが多様化する中で、JP1や富士通の「Systemwalker」といった、監視からジョブ実行などを統合的に提供する商用の統合運用管理ソフトウェアは存在していた。Hinemosの場合、「OSS」という点が重要だった。NTTデータ先端技術でHinemosのプロダクトマネジャーを務める大上貴充氏は「OSSとしてログの収集から監視、ジョブ実行などの機能を一元的に提供できるようにすることがHinemos開発の目的だった」と説明する。当時はOSSを運用管理に取り入れることでソフトウェアにかかるコストを抑制する動きがあった。ただしシステム監視など単一の機能を提供するOSSを用途に応じて個々に使い分けることで、運用管理の複雑化や運用管理コストの上昇などが課題になってきていた。

 JP1のように企業のシステム運用部門が必要とする機能を極めて広範にカバーするというわけではないが、Hinemosは監視や性能管理、一括制御、ジョブ管理といった統合運用管理ソフトウェアとしての中核的な機能を備えている。Hinemosによる統合運用管理の仕組みの軸になるのが「リポジトリ」というコンポーネントだ。これは運用管理の対象(リソースやシステム)を定義するデータベースの役割を持つ。この情報にハードウェアやOS、アプリケーションなどをグループ化する「スコープ」という概念を組み合わせ、多様なリソースやシステムを個々の運用管理作業に必要な対象として束ねられるようにする。このスコープを性能監視や制御、ジョブ実行の対象として指定することで、必要な運用管理対象を統合的に管理したり制御したりできるようにしている。

 HinemosもOSSとして誕生してから機能追加の歩みを進める中で、「ESXi」や「Hyper-V」などの主要なハイパーバイザー、「Amazon Web Services」(AWS)をはじめとしたIaaS(Infrastructure as a Service)のリソースを管理対象として加えてきた。企業のシステムやインフラがクラウドサービスにも広がり多様化が一段と進む中で、大上氏は2つの観点でのコスト削減に統合運用管理ソフトウェアを利用できると話す。

 1つ目は異なる環境に散在するリソースを可視化することによる無駄の削減。2つ目は手作業を減らすことによる効率化だ。自動化を取り入れることで、単純に作業量を減らすだけではなく、復旧に時間とコストがかかりがちなオペレーションミスを減らすことができる。コスト管理を含めて、統合運用管理ソフトウェアの役割だと同氏は説明する。

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