医療DXのガイドライン「WGLL framework」とは? 英国NHSが定義:NHSの医療DXガイドライン【前編】
英国NHSは、医療機関がITを適切に活用するためのフレームワーク「What Good Looks Like framework」(WGLL framework)を策定している。NHSのベストプラクティスに基づく医療DXの指針はどのようなものか。
英国の国民保健サービス(NHS:National Health Service)のデジタル推進部門であるNSHXは、NHSの医療機関がITを適切に活用するためのフレームワーク「What Good Looks Like framework」(以下、WGLL framework)を策定している。WGLL frameworkはNHSの医療機関に所属するリーダー向けの資料で、NHSトラスト(NHS傘下の病院運営組織。地域ごとに独立した公営病院)におけるIT化のプロジェクトを改善する手法を明確に示している。
WGLL frameworkは、NHSで浸透しているベストプラクティスを基に生まれた。NHSの医療機関の管理者が患者や職員の要望を満たすために、セキュアなITインフラやシステム、遠隔モニタリングシステムの導入といったデジタル化を進め、改善する上ですべきことが分かりやすく分類されている。WGLL frameworkの説明文には「これは英国民のアウトカム(医療行為に対する成果)や受診体験、安全面を改善するためのもの」という記述がある。
WGLL frameworkが重視する「医療DX」の信念
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NHSは、医療機関に所属するリーダー向けの資料としてWGLL frameworkを位置付ける。医療機関の管理職はITベンダーとやりとりする立場だからだ。WGLL frameworkは、システム面と組織面の両方からベストプラクティスを定め、「統合ケアシステム(ICS:Integrated Care System。注1)を構成する全組織の間でどのような取り決めをすれば成功を導くか」を解説している。
※注1:地域住民への医療と福祉サービスを提供する組織(NHS傘下の医療機関、地方自治体、ベンダーなど)が、サービス提供体制の改善を目指して締結している、パートナーシップおよび包括的なサービス提供体制のこと。地域ごとの統括組織となる統合ケア委員会(ICB:Integrated Care Board)は、本稿公開時点で英国全土に42件存在する。
WGLL frameworkにおける「7つの成功基準」
WGLL frameworkは「使いやすさ」に焦点を当てており、ICSおよび各医療機関にとっての「成功基準」を定めている。具体的には以下の7つだ。
- Well led(うまく導く)
- Ensure smart foundations(スマートな基盤を確保する)
- Safe practice(安全に業務を遂行する)
- Support people(人々を支援する)
- Empower citizens(市民を元気づける)
- Improve care(医療を向上させる)
- Healthy populations(健康な人々)
ICS全体に関わるリーダーは、デジタルトランスフォーメーション(DX)における責任者に当たる。Well-led(うまく導く)の基準は、ICS全体の「レベルアップ」に重点を置き、持続可能な財務計画に支えられたデジタルデータ戦略を確立することだ。ICSのつながりの中に存在する個々の組織においては、統合ケア委員会(ICB)がデジタル化への取り組みに着手していて、DXをリードする体制が整っていることが重要になる。
「Ensure smart foundations」(スマートな基盤を確保する)の要件は、十分なリソースを備えた多職種集団(臨床、運用、情報学、設計、技術の専門知識を備えた学際的なチーム)がスマートなITインフラを維持すること、そして「デジタル技術評価基準」(DTAC:The Digital Technology Assessment Criteria for health and social care)を満たすことだ。DTACはNHSXが定めた安全基準であり、臨床上の安全性、データ保護、セキュリティ、相互運用性、使いやすさ、アクセシビリティが一定水準以上のデジタルヘルスツールであることを保証する。
その他の項目では、WGLL frameworkは
- 医療従事者のデジタルリテラシー向上を支援すること
- デジタルファーストの手法を推奨すること
- 市民が自分の健康情報にアクセスしてウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)を維持しながら、自身の役割を果たせるようにすること
などを基準として挙げている。
WGLL frameworkは、患者ケアの過程にデジタルツールとデータを組み込んでプロセスを改善することも要求している。これも個々の医療機関だけでなくICS全体のアプローチとして「デジタルツールとデータを活用し、組織の境界を越えて医療のプロセスを再設計し、患者に最適な環境で適切な医療を提供する方法」を確立することを求める趣旨だ。
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