「生体細胞でAI開発」の可能性 “Amazonも熱視線”の理由は?:神経細胞から「AI」が生まれる未来【後編】
「AI」モデルのトレーニングに神経細胞を使うアイデアを実現したCortical Labsに、さまざまなクラウドベンダーが注目している。同社が加えた改良と、今後解決すべき課題とは。
Cortical Labsは、オーストラリアに拠点を置くスタートアップ(新興企業)のAI(人工知能)ベンダーだ。同社で研究室を立ち上げたホン・ウェンチョン氏が取り組んだのは、人の神経細胞にビデオゲーム「PONG」をプレイさせるためのトレーニングだった。
ウェンチョン氏は生体神経細胞を使った実験で成功を収めた。ただし幾つかの問題が生じたため、さらなる取り組みを進めることとなった。どのような模索をしたのか。
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新しいAIの可能性
異なる種類の実験をするたびに、ウェンチョン氏はプログラミング言語「C」で実装した「PONG」のプログラムを修正しなければならなかった。Cはソースコードが機械語に近い「低水準言語」であり、ソースコードが人にとって理解しやすい「高水準言語」よりも一般的には人にとって読みづらい。
神経細胞を抽象化し、高水準言語を使って容易にプログラミングできるようにする必要があると考えたウェンチョン氏は、以下を組み合わせたシステムを構築した。
- プログラム可能な集積回路「FPGA」(Field Programmable Gate Array)
- 栄養豊富な溶液に神経細胞を保持できる「マルチ電極アレイ」(Multi Electrode Array)チップ
- 電極活動を信号に変換する、アナログ・デジタル変換チップ
2023年4月、Cortical LabsはベンチャーキャピタルHorizons Venturesが主導する1000万ドルの資金調達ラウンドを完了し、このシステムを商用化する取り組みを加速させた。このシステムはAmazon.comのCTO(最高技術責任者)兼バイスプレジデントであるワーナー・ボゲルス氏の目に留まり、ボゲルス氏がCortical Labsを訪問することとなった。
ウェンチョン氏は複数のクラウドベンダーとやりとりをしており、「クラウドベンダーはわれわれのAIに非常に注目している」と話す。神経細胞は消費電力が比較的少なく、熱をほとんど排出しない。そのため電力に関するコストだけでなく、冷却機器の設置コストも節約できる見込みがある。「現在のAIエンジンは半導体の量で性能が決まるという制約がある。クラウドベンダーは、よりエネルギー効率の高いAIエンジンを切望している」と同氏は語る。
一方でCortical Labsには、神経細胞の動作を安定させるための課題が残っている。その一つが、出どころが同じ幹細胞であっても、他の細胞よりも優れた働きをするものが存在するという課題だ。「もしそれらの細胞が遺伝的に同じだとすれば、タンパク質発現(生成プロセス)に違いがあるはずだ」と、ウェンチョン氏は話す。「高性能な細胞とそうでない細胞では遺伝子発現にどのような違いがあるのかを調べ、その発現の仕組みを解明して再現することが、研究内での当面の目標だ」(同氏)
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