生成AIブームには続きがある――「AIの取り締まり」にどう備えるべきか:AI規制と企業戦略【前編】
AI技術の急速な普及に伴い、各国政府は規制に乗り出している。動向がまだ定まらないAI規制に対して、企業はどう備えるべきか。
人工知能(AI)は人類のテーマとして、古代から何世紀にもわたり取り上げられてきた。20世紀初頭には「オズの魔法使い」や「メトロポリス」をはじめとするSF(サイエンスフィクション)作品が登場し、AIの概念は世間でも広く認知されるようになった。
とはいえ、広く一般の人々がAI技術に関心を持つようになったのはつい最近のことだ。2023年以降「生成AI」(ジェネレーティブAI)が急速に普及したことで、消費者保護や知的財産権を巡る問題が顕在化し、AI規制の導入が急務となっている。
各国政府はAI規制の検討を積極的に進めているが、具体的な方針や規定はまだ不透明な部分が少なくない。AI規制がもたらす潜在的な影響に企業はどう備えるべきか。AI規制の重要性が高まる背景や課題と併せて解説する。
「AIの取り締まり」にどう備えるべきか
1956年、著名なコンピュータ科学者ジョン・マッカーシー氏とマービン・ミンスキー氏が人工知能という用語を初めて導入し、この頃からAI技術を取り巻く研究や競争が本格化した。2000年代初頭には、計算能力の指数関数的増加と計算コストの低下により、AI技術はSF的な概念から現実的な技術へと進化する。投資家は機械学習をはじめとするAI技術に注目し、膨大な資金を投入した。
2023年、AIベンダーOpenAIの「ChatGPT」をはじめとする生成AIサービスが登場し、大きな話題となる。業務効率化やコスト削減、インサイト(洞察)の創出など、生成AIがビジネスにもたらす幅広いメリットが明らかになった。企業は生成AIと、そのベースとなる大規模言語モデル(LLM)の理解と実装に取り組んだ。
AI技術が急速に普及する中で、消費者保護や知的財産権、ビジネスの公平性といった観点から、政府主体のAI規制の必要性が高まった。一方で各国政府は、AI規制におけるジレンマに直面する。リスクから市民を守ることは重要だが、厳しい規制はAI技術の発展や、AI市場の覇権を巡る国家間競争を妨げてしまう恐れがある。優秀な企業や人材を引き付けるためには、明瞭かつ予測可能な規制構築が必要だ。
企業が備えるべき3つのポイント
AI規制の取り組みが進む中で、企業は3つのポイントに注意すべきだ。
1つ目に、さまざまな国や自治体で、AI規制案や施行法の導入が続くこと、場合によってはその流れが加速することを予期すべきだ。規制の強化は、事業運営の複雑化やコンプライアンスコストの増大といった懸念をもたらす。特に、規制の厳格な順守が求められる業界では、コンプライアンスを保証するためにAI法の専門家による定期的な情報更新が必要となるだろう。
2つ目に、既存の規制がAI技術にどう適用されるかを考慮すべきだ。例えば、連邦取引委員会(FTC)はAI技術に関する誇大広告を取り締まる意向を示している。これは、不公正または欺瞞(ぎまん)的な行為や慣行を禁止するFTC法第5条と関連する。新しい規制だけでなく、既存の規制がどう適用されるかを理解し、備える必要がある。
3つ目に、新しいAI規制に基づいた認証やサービスを利用する際は、そのベンダーを注意して検討すべきだ。信頼できるベンダーや認証機関と取引することで、消費者に安全性を示せる他、ビジネス保険の契約条件が有利になる可能性がある。
後編は、米国や欧州をはじめとする各国の規制動向について解説する。
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