「VMwareからの移行、今計画しなければ手遅れに」――Gartnerの警告:移行完了まで最長4年?
VMwareの仮想化基盤を見直す動きが広がる中、GartnerのアナリストはVMwareからの移行を検討する企業に対し、計画に今すぐ取りかかる必要があると警鐘を鳴らした。その理由と、候補になる移行方法や移行先とは。
仮想化ベンダーVMware買収後、Broadcomの提供方針の変更がさまざまな動揺をもたらしていることを受け、多くのユーザー企業が必要な一手を決めかねている。そうした中で調査会社Gartnerが2025年5月にオーストラリアのシドニーで開催したイベント「Gartner IT Infrastructure, Operations & Cloud Strategies Conference」では、同社のバイスプレジデントアナリストを務めるマイケル・ワリロウ氏が登壇し、企業に求められる仮想化戦略について語った。
ワリロウ氏によれば、ユーザー企業のうち約3分の2がVMwareのライセンス体系変更などの方針変更に関して否定的な見解を示しているものの、移行を決め切れずに様子見の状態を続けている。その状況に対して同氏は、VMwareの仮想化基盤から他の仮想化基盤へのアプリケーション移行を考えるのであれば、それを現実的な選択肢として今すぐ計画しなければ「手遅れになる」と警告した。同社がそう警鐘を鳴らす背景にある、“差し迫った事情”とは何か。
移行決断の“タイムリミット”が迫る
「買収後、約700社のVMwareユーザー企業から相談を受けた」とワリロウ氏は語る。「ほとんどの企業は『他社はどうしているのか』と情報を集めようとするだけで、具体的な検討段階に進んでいない」という。
だが仮想化戦略の策定は待ったなしの状況だと同氏は指摘する。「多くの企業が利用するサーバ仮想化ソフトウェア『VMware vSphere』のバージョン8.0は2027年10月にEoGS(End of General Support:一般サポート終了)を迎える。その時までに移行が完了していなければ、基本的にはバージョン9にアップグレードする以外に道はない」
簡単には移行が進まない要因
移行先についてワリロウ氏は、現時点ではVMwareに代わる単一の完全な代替製品は存在しないとし、「ほとんどの企業は、複数の仮想化環境を組み合わせて管理することになるだろう」と語る。そうした移行先の候補の一つになるのが、サーバやストレージ、ネットワークのリソースをソフトウェア制御で統合した単一システムである「ハイパーコンバージドインフラ」(HCI)だ。しかし同氏は、Gartnerの顧客企業の約70%がHCIへの移行に消極的だと語る。「多くの企業は、サーバ、ストレージ、SAN(ストレージエリアネットワーク)を組み合わせた、3層型の仮想化基盤を構築しており、これを放棄するのは困難だ」
別のハードルとして、ネットワーク仮想化製品群「VMware NSX」の使用も問題となっている。「VMware NSXの導入段階にある企業と話したが、道半ばでプロジェクトを中止したいと希望していた。ネットワークの仮想化はそれほどまでに技術的難度が高い。VMware製品の中で、最も移行が困難な部分だ」(同氏)
移行にかかる時間と段階的移行のリスク
中規模から大規模のVMware環境の場合、移行には1年半から4年ほどかかる可能性があるという。移行先候補となる仮想化製品については、CPUやメモリリソースなど、運用中のミッションクリティカルなアプリケーションの要件を満たす処理能力を備えるかどうかを確認する必要がある。これには一定の時間を要する計画的な検証が欠かせない。
移行方法を検討する際は、重要度の低いアプリケーションから段階的に移行を進めるアプローチには注意が必要だと、ワリロウ氏は指摘する。仮想マシン(VM)の停止時間(ダウンタイム)を最小限に抑える高可用性(HA:High Availability)などの重要機能を利用していないアプリケーションだけを移行しても、本格的な全面移行に向けた“試金石”とはならないからだ。
別のリスクもある。部分的な移行に伴ってVMware製品のリソース利用量が減った場合でも、VMware環境に残った部分のライセンスは必要だ。「更新の際、もしBroadcomが割引率を下げたとしたら、トータルコストが増える可能性がある」(ワリロウ氏)
現実的な移行先は?
こうした点を踏まえ、似たような機能を持つ別のハイパーバイザー製品に置き換えるだけでは不十分だと、ワリロウ氏は指摘。「単純な入れ替えでさえ数年かかる可能性がある。トラブルが発生した場合はコストが跳ね上がる」。移行に当たっては、管理、可用性、バックアップ、災害復旧(DR)と、さまざまな点を考慮しなければならず、代替製品を探すことにも骨が折れる。「例えば、管理ツール『VMware vCenter』と全く同じ機能を備えた製品は存在しない」(同氏)
VMwareの代替製品では、システムで起きていることを可視化するオブザーバビリティ(可観測性)ツールやモニタリングツールとの連携が十分ではない場合がある。さらに、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」を使ったコンテナ環境への完全移行は、一部の企業にとっては時間をかけさえすれば可能だが、仮想アプライアンス(必要な機能をまとめたVMイメージ)が使用できないという課題が伴う。こうした課題を踏まえ、ワリロウ氏は「VMwareから離脱する企業のほとんどは、複数の仮想化製品を使い分けることになるだろう」と語る。これはさまざまな種類の管理ツールが混在する複雑な運用環境になる可能性がある。
解決策はあるのか?
ワリロウ氏は解決策について「各企業ごとの要件に応じて異なる」と語る。高速かつ低遅延の、信頼性の高いネットワークが必要だったり、コンプライアンス上の要件があったりする企業の場合、オンプレミスにとどまる必要がある。一方でクラウドサービスを優先的に検討する“クラウドファースト”を戦略としている企業の場合は、クラウドサービスが選択肢に入る。こうした前提も踏まえ、選択肢として挙がるのは以下だ。
- コスト増を受け入れてVMware製品を利用し続ける
- 異なる仮想化製品に移行する
- オンプレミスもしくはオフプレミス(社外)にコンテナ環境を構築し、アプリケーションをモダナイゼーション(最新化)する
- アプリケーションをクラウドサービスの仮想化基盤に移行する
- IaaS(Infrastructure as a Service)にVMをそのまま移行する
続いてワリロウ氏は、現実的な一つの選択肢を挙げた。一部の企業にとって実行不可能なのは理解しているとした上で、現時点で“最も実績がある方法”としてワリロウ氏が紹介するのが、クラウドサービスへの「リフト&シフト」(既存のアプリケーションやOSに変更を加えずにクラウドサービスに移すこと)だ。クラウドサービスを使うのであれば、同氏はクラウドサービス群「Microsoft Azure」の割引プラン「Azure Reserved Virtual Machine Instances」のような、長期的なコスト予測が可能なサービスを選択するように勧める。
もう一つ別の意外な選択肢もあるという。ワリロウ氏は「信じられないかもしれないが」と前置きをした上で、「最も低コストなVMwareからの移行先がOracleだ」と語る。Oracleの仮想化製品を検討する企業はまだ少ないが、ROI(費用対効果)に優れた魅力的な移行先になるという。
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)
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