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AI活用の“突破口”はクラウドに頼らない「ローカル運用」にあり?「AIモデルは大きければよい」はもう古い?【後編】

AIの活用が広がるとともに、データプライバシーや法令順守への懸念が高まっている。そうした中で、ローカル処理が可能な小規模言語モデル(SLM)が企業にとって現実的な選択肢となり始めている。

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 大規模言語モデル(LLM)に対する懸念の多くは、データの収集や処理の透明性の欠如に起因する。特に、医療、金融、法務など、厳格なコンプライアンス(法令順守)や高いデータ保護要件が求められる業界では、LLM導入に慎重な企業は少なくない。そうした中で、PCやオンプレミスのサーバなどローカル環境での運用が可能な小規模言語モデル(SLM:Small Language Model)への関心が高まっている。

AI活用の突破口は「ローカル運用」にあり?

 SLMはLLMと異なり、大規模な演算リソースやクラウドインフラを必要とせず、ローカル環境で運用できる。小規模かつドメイン特化型のデータセットと組み合わせて活用することで、精度と効率を両立したAI運用が実現できる。

 つまり、SLMは導入コストの高さや、汎用(はんよう)モデルであるがために特定分野の知識(ドメイン知識)が不足しがちといった、LLM特有の課題を回避できる。加えて、ユーザーデータはデバイス外に送信されないため、情報漏えいのリスクを大幅に低減できる点もメリットだ。プライバシー保護と処理速度の向上を両立できる。

 自動車メーカーJaguar Land Roverの投資部門InMotion Venturesのプリンシパルを務めるサム・ナスロラヒ氏は、「サイバー攻撃の約3分の1は、外部ベンダーとのデータ共有時に発生している」と指摘する。SLMを活用してデータを社内にとどめることで、攻撃対象領域(アタックサーフェス)を狭めることができる。昨今、データ主権(データの制御や管理に関する権利)やコンプライアンスへの関心がかつてないほど高まっており、AI関連タスクの処理をローカルで完結できる点は企業にとって大きな魅力だ。

 ITコンサルティング企業UBDS Digitalのデータ&AI部門ディレクターを務めるシルビア・レーニス氏は次のように話す。「インターネットに接続せずにSLMをローカル環境で実行することで、オンラインアプリケーションによるデータの一元監視や記録を回避できる。これはデータプライバシーの面で有利であり、特に機密情報を扱う用途に適している」

 このように、SLMは、インターネット接続が限定される環境や、低遅延が求められる用途、高いセキュリティが求められる業界などにおいて、極めて有力な選択肢となる。実際に、通信、会計、法務など規制の厳しい業界でSLMの採用が進んでいる。

 一方で、SLMには新興技術であることに起因した課題も残る。ハルシネーション(事実に基づかない出力)やバイアス(偏見)を引き起こしたり、ファインチューニング(独自の追加学習)が必要になったりする問題には、LLMと同様に慎重な対応が求められる。「SLMはハルシネーションを完全に免れるわけではないが、特定分野に特化したSLMでは、その発生頻度を抑えられる傾向にある」(ナスロラヒ氏)

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