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“メインフレーム化”と評されるVMware、「VCF 9.0」で何が変わったのか?VMware仮想化基盤の新たな転換点【前編】

Broadcomは2025年6月に「VMware Cloud Foundation 9.0」の一般提供を開始した。本バージョンで強化されたポイントと、既存のユーザー企業への影響とは。

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 Broadcomによるおよそ1年にわたるプロモーションと数々の予告を経て、プライベートクラウド構築用プラットフォーム「VMware Cloud Foundation 9.0」(以下、VCF 9.0)の一般提供が2025年6月に始まった。VCF 9.0は、2024年8月開催の年次イベント「VMware Explore 2024」において、BroadcomのCEOホック・タン氏が予告したものだ。これまでVMwareが提供してきた仮想化技術やクラウドサービス群を再編成し、より統合されたプライベートクラウド基盤として提供されるのがVCF 9.0となる。

 VCF 9.0の最大の特徴は、プラットフォーム全体の機能を集約して一元管理できる新たな統合管理コンソールの搭載にある。従来バージョンと比べてデプロイメント(システム導入・展開)の迅速化が図られ、複数の機能が強化されているという。データセンターやクラウド分野のアナリストは、VCF 9.0がVMwareの製品群にもたらす機能強化は有用だと評価している。一方で、近年Broadcomが実施してきた価格戦略の見直しによって、VMware製品群に対するユーザーの評価が変わりつつあるとの指摘もある。

メインフレーム化との指摘も

 「VMwareは現在、かつてのメインフレーム技術のような存在になっている。非常に高機能なプラットフォームであることに変わりはないが、導入には相応の予算がかかり、一定水準の要件を満たせる企業でなければ難しい」と、調査会社Data Center Intelligence Group(DCIG)のCEO兼主席アナリスト、ジェローム・ウェント氏は述べる。

 ウェント氏によると、大規模で高性能な機能を必要とする企業の多くは、すでにVMwareのプラットフォームを導入済みであり、Broadcomが提供するバンドル型のサブスクリプションによって追加される各種機能も、そうした企業にとっては無駄にならない。しかし一方で、ITインフラの多様化が進む現在、かつてメインフレームが特定用途のニッチ市場に追いやられたように、Broadcomが超大手企業に特化した戦略を取り続ければ、VMwareも同じ道をたどる可能性があるという。

 「Broadcomは、これまで多くの企業にとって手が届かなかった“フルスタック”(仮想化からストレージ、ネットワーク、管理ツールまでを含む一体型)のインフラを一括で提供している。確かに大企業にとっては投資する価値があるが、その判断はメインフレーム導入並みに慎重さが求められる」(同氏)。ではVCF 9.0で具体的には何が変わったのか。

VCF 9.0の新アーキテクチャと統合機能

 Broadcomの広報担当者は、VCF 9.0の一般提供に先立って行われたメディア向けブリーフィングで、同バージョンが新たなアーキテクチャを採用していることを明らかにした。これは、顧客のオンプレミス型データセンターと、パートナー企業のパブリッククラウドを横断的に連携させ、プライベートクラウドサービスを中核に据えた設計思想に基づいている。

 VCF 9.0の統合インタフェースには、ロールベースのアクセス制御(RBAC:Role-Based Access Control)や、あらかじめ構成されたブループリント(設計テンプレート)に基づくガバナンスポリシー、開発者に対する自動的なインフラ割り当て機能などが搭載されている。

 こうした「統合」の方針は、仮想マシン(VM)とコンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」でのコンテナ管理にも及ぶ。VMwareは、サーバ仮想化ソフトウェア「vSphere」上でKubernetesのワークロードを効率的に運用可能にする「VMware vSphere with Tanzu」(旧称:vSphere Kubernetes Service)を提供しており、これにより仮想マシンとコンテナの双方を同一のインタフェースと運用モデルで統合管理できるようになっている。

コスト最適化を支えるFinOpsとSecOps

 Broadcomによると、VCF 9.0ではリソースの自動最適化機能に加え、支出の詳細な可視化と部門ごとの社内請求(チャージバック)データの活用が可能となり、企業はクラウドリソースの利用効率を最大化できるという。FinOpsは、クラウドサービスにかかる支出を正確に管理し、無駄を排除してコストを削減するための運用モデルだ。FinOpsの導入によって、ソフトウェアライセンス料や運用コスト、データセンター関連の費用をインフラの利用状況と結び付けて、総所有コスト(TCO)を包括的に可視化できる。

セキュリティやストレージ機能の強化

 新たに追加されたSecOps(セキュリティ運用)向けのダッシュボードでは、セキュリティ担当者が自社のポリシーに基づいて、プラットフォームのセキュリティ設定やデータ制御を柔軟に調整できる。

 さらに、対応するプロセッサとして、Advanced Micro Devices(AMD)やIntelが提供する機密コンピューティング機能の活用も可能になっている。これは、仮想マシンやアプリケーションの実行中でもデータを暗号化状態で保持し、外部からの不正アクセスを防ぐ高度なセキュリティ技術だ。

 ストレージ関連の機能強化としては、ストレージ仮想化機能「VMware vSAN」においてクラスタ全体を対象とした重複排除機能の追加や、複数のvSANクラスタ間でのデータ保護および災害復旧(DR)サービスの提供、さらに転送プロトコル「NVMe」(Non-Volatile Memory Express)接続のストレージを活用したデータ階層化機能などが挙げられる。

 Broadcomは、企業の特定ニーズに応じた高度な機能群を「Advanced Services」として提供する方針を打ち出している。これらは、顧客が契約しているVMwareの基本サブスクリプションに追加するオプションとして位置付けられている。VCF 9.0のローンチと同時に提供が開始される「Advanced Services」には、セキュリティ機能を強化する「VMware vDefend」、DRを支援する「VMware Live Recovery」、さらに簡単に導入できるプラグアンドプレイ型のロードバランサ「Avi Load Balancer」などが含まれる。


 後編は、VCF 9.0やバンドル型サブスクリプションがユーザー企業の選択に与える影響を探る。

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