いまさら聞けない「ストリーム処理」とは? リアルタイム分析の基礎知識:ストリーム処理を基礎から理解する【前編】
「ストリーム処理」(リアルタイム分析とも)とは何か。ストリーム処理がどのような仕組みで、なぜ必要なのかを解説する。
ストリーム処理とは、連続して発生するデータの流れ(データストリーム)をリアルタイムで取り込み、分析、フィルタリング、変換、拡張を行うデータ管理技術だ。処理されたデータは、アプリケーションやデータストア、または別のストリーム処理エンジンに引き渡される。
ストリーム処理のデータソースには、商取引、株価フィード、Webサイト分析、接続デバイス、運用データベース、気象情報などが含まれる。ストリーム処理サービスは、企業がさまざまなソースからのデータを組み合わせて、リアルタイムで有用なインサイト(洞察)を取得し、より迅速かつ的確な意思決定を可能にする。これがストリーム処理サービスの需要が拡大する一因となっている。
ストリーム処理の仕組み
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ストリーム処理の潮流
ストリーム処理は、例えばPub/Sub(パブリッシュ/サブスクライブ)方式のサービスやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、センサーなどのデータソースからデータを取り込み、リアルタイムに処理を行うことから始まる。Pub/Sub方式とは、情報の送信者(パブリッシャー)と受信者(サブスクライバー)が直接結び付かずに、メッセージを非同期でやりとりするメッセージ配信方式のことだ。
ストリーム処理エンジンは、取り込んだデータに対して分析、フィルタリング、変換、結合、クレンジング(不正確なデータや欠損値の除去)といった処理を施し、その結果やインサイトを再びPub/Sub方式のサービスやデータストアに出力する。ユーザーはこのデータストアに対してクエリ(問い合わせ)を実行し、得られた結果を意思決定や追加アクションに活用できる。出力された結果は、ダッシュボードやアラートシステムを通じて視覚化され、さらなる分析や処理に生かすことも可能だ。
ストリーム処理は「ストリーミング分析」あるいは「リアルタイム分析」とも呼ばれるが、ここで言う「リアルタイム」は相対的な概念である点に注意が必要だ。例えば、気象分析アプリケーションにおけるリアルタイムは5分を意味することもあるが、アルゴリズム取引では100万分の1秒、物理学の実験では10億分の1秒が求められるように、用途によってその意味合いは大きく異なる。「リアルタイム」という言葉の定義は統一されていないものの、この概念自体が、ストリーム処理エンジンがアプリケーションごとに異なるタイムスケールのデータをどのようにパッケージ化して処理しているかを示す重要な指標となっている。
ストリーム処理エンジンは、短時間に連続して到着するデータイベントを整理し、生成されたデータを即座に処理する。その後、処理結果を他のアプリケーションに継続的なフィード(継続的データ供給)として提供する。この仕組みによって、異なるデータソースや多様なタイムスケールのデータを統合・再統合するロジックが簡素化される。結果として、ビッグデータのような大規模データからも即時にインサイトを抽出でき、迅速な意思決定が可能になる。
ストリーム処理の利点
最新のストリーム処理ツールは、Pub/Sub方式を基盤として進化したものであり、データ転送中にそのまま処理を実行できる点が特徴だ。これにより、リアルタイムまたはそれに近い時間軸でのデータ分析やインサイトの取得が可能となり、多くの現代的アプリケーションにおいて不可欠な機能となっている。
ストリーム処理はエッジコンピューティング基盤との親和性が高く、データの送信や保存にかかる通信コストやストレージコストを削減する効果も期待できる。データの生成地点に近い場所で処理を行うことで、レイテンシ(遅延)の低減や帯域幅の最適化も実現可能だ。
ストリーム処理は複数の業務アプリケーションやシステムから発生するデータをリアルタイムに統合し、迅速かつ精度の高い意思決定を支援する。並列データ処理を活用することで、大量データを高速に処理でき、業界やユースケースを問わず幅広い分野で活用が進んでいる。
例えば、通信事業者は複数の運用支援システム(OSS:Operations Support Systems)からのログやメトリクスをストリーム処理によって統合・可視化している。医療分野では、医療機器やセンサー、電子カルテ(EMR:Electronic Medical Records)など、異なるデータソースを横断的に連携させるためにストリーム処理が導入されている。
ストリーム処理の用途
ストリーム処理の最も一般的な用途の一つが、異常検知や不正検出だ。例えば金融分野では、クレジットカード番号をリアルタイムで分析し、不正な取引を特定して警告を出すために活用されている。IoT(モノのインターネット)データ分析、リアルタイム広告のパーソナライズ、文脈に応じたマーケティングプロモーション、市場動向の把握、根本原因の分析など、より応答性が求められる用途にも対応する。
その他の代表的な使用例は以下の通りだ。
- 業務アプリケーション機能の最適化
- 顧客体験(CX)のパーソナライズ
- 株式市場の取引や監視
- ITインフラのイベントの分析と対応
- デジタル体験のモニタリング
- カスタマージャーニーの可視化
- 予測分析とメンテナンス
- ネットワークモニタリング
- ジオフェンシング(地図上の特定エリアに仮想的なフェンスを設置する技術)
- 交通監視
- サプライチェーン最適化
ストリーム処理のパイプラインとプロセスは、以下のような目的に最適だ。
- 適応性と応答性に優れたアプリケーションの開発
- リアルタイムのビジネス分析の提供
- 文脈情報の充実による意思決定の質的向上と迅速化
- ユーザー体験(UX)の向上
次回はストリーム処理とバッチ処理の違いを解説する。
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