「RPA」では限界に……航空会社が「AIエージェント」への移行を決めた理由:自動化は次の段階へ
年間20万時間を削減したエールフランス-KLMが、既存RPAボットの進化に挑む。自律判断するAIエージェント技術の導入で、自動化はどう変わるのか。
企業での自動化を推進するRPA(ロボティックプロセスオートメーション)は、定型業務の効率化に大きな成果を上げてきた。しかし導入現場では、「RPAを導入したが、想定外の事態で止まってしまう」「エラー発生時に結局人間の介入が必要」という声も少なくない。こうした問題の背景には、従来のRPAが持つ「ルールベース」という制約がある。
この課題解決に向けて注目される取り組みを進めているのが、航空大手のAir France-KLM(エールフランス-KLM)だ。同社はグループ全体で約170体のRPAのbotを運用し、2023年には20万時間分の手作業を削減している。しかし同社は、この成功に満足することなく、既存botをさらに進化させる計画を打ち出した。
その核となるのが「AIエージェント」技術の導入だ。自動化推進組織を統括するババル・カーン氏は、大手RPAベンダーUiPathなどが提供するAIエージェント機能を活用し、既存botをクラウドへ移行する方針を明らかにした。
RPAの成功から見えた次の課題
従来のRPAは、構造化データと事前定義されたワークフローを基に、特定のルールベースタスクを自動化する仕組みだ。一方、AIエージェントは大規模言語モデル(LLM)と外部ツールを組み合わせることで、非構造化データを含むタスクを柔軟に処理し、自律的な意思決定を可能にする。
「現在のbotは何をすべきかを厳密に指示されており、想定外の事態が発生した際には必ず人間が確認しなければ処理を進められない」とカーン氏は現状の課題を説明する。botでは対処できない状況がある場合、従業員にメールを送って対応を依頼するのが一般的だ。
しかしAIエージェントを導入すれば、状況は大きく変わる。「botは自律的に意思決定できるだけでなく、自動修復も可能になる。エラーや不正確な情報を検知しても自ら修正できるため、まったく新しい次元の自動化が実現する」。カーン氏はそう期待を込める。
この進化により、さらなる時間削減が期待できるだけでなく、自動化ををより複雑な業務へ適用することも可能になる。同社では、botのクラウド移行が完了する2026年初頭に、AIエージェント技術の試験運用を開始する予定だ。
8年間で積み上げた自動化のノウハウ
エールフランス-KLMのRPA導入は2016年、財務部門から始まった。「当初は主に財務プロセス向けのサービスと考えられていたが、自動化の可能性は財務にとどまらないことがすぐに明らかになった」とカーン氏は振り返る。
同社の代表的な成功例が、人事部門で稼働する「Homer」というbotだ。住宅ローン申請に必要な書類など、従業員向け証明書を迅速に作成する役割を担っている。
従業員証明書を作成するには多くの情報を確認する必要がある」とカーン氏は説明する。Homerだけで月に31時間の事務作業を削減しており、人事部門全体では年間2400時間超の業務削減を実現している。
貨物取扱部門では、出荷内容をチェックする「Casper」が年間1000時間以上を削減できた。フライトアナリストからハンドリング部門へのフライト準備引き継ぎ処理を担うbotは、1年で1万3000時間の削減を達成した。
組織の理解を得るための取り組み
こうした実績は効果を重視する事業部門を説得する材料になるが、各部門にRPAサービスを受け入れてもらうには依然として課題が残る。
「私たちはRPAの認知を高めるために説明会を開催し、社内でRPAを売り込んでいる。RPAやロボット、未来の従業員について話すと、関係者が『自分の仕事がロボットに奪われるのではないか』と不安を覚えることもある」とカーン氏は率直に話す。
この懸念を払拭するため、チームはプロセスを丁寧に説明し、関係者を巻き込む取り組みを継続している。AIエージェント技術の導入においても、同様のアプローチが重要になるだろう。
エールフランス-KLMの事例は、RPAからAIエージェントへの進化が、単なる技術的な向上にとどまらず、組織全体の働き方改革につながる可能性を示している。自律的な判断能力を持つbotが実現する「次世代自動化」は、企業の生産性向上に新たな道筋を提供することになりそうだ。
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)
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