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米関税が招く「プロジェクト中止」の悪夢 ハードウェア開発を直撃する影響は?3分の1が「製品の再設計」を決定

米国の関税政策が、ハードウェア業界のサプライチェーンを混乱させ、エンジニアの製品開発に深刻な影響を及ぼしている。単なる費用増加では済まされない、製品開発現場で起きている深刻な事態が調査から見えてきた。

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 米国の関税強化が、単なるコスト問題を超え、ハードウェア業界のエンジニアリング業務そのものを揺るがしている。メディア運営企業EETech Groupが2025年7月に世界450人のエンジニアを対象に実施した調査で、その実態が明らかになった。

関税は経営層だけの問題ではない

 調査では、回答者の86.4%が、関税によって自社の業務に何らかの影響が出ていると回答した。そのうち約3割が、業務に重大、または深刻な混乱が生じていると答えている。

 影響は費用面にとどまらない。回答者の82.1%が、生産遅延や部品の調達期間(リードタイム)の長期化といった、具体的な業務上の混乱を報告している。特に大きな課題として「物流の複雑化」(46.8%)と「在庫管理」(45.7%)が挙げられており、サプライチェーンの構造的なゆがみが現場を圧迫している状況がうかがえる。

 最も深刻な影響は、製品開発の最前線で起きている。関税による部品のコスト高騰や供給不足は、エンジニアに設計変更という重い決断を迫っていた。

 調査結果によれば、関税やそれに伴う部品の入手困難化への対処として、36.8%の回答者が「製品の発売やプロジェクトの開始を延期した」、33.6%が「入手しやすい、または低コストの部品に対応するために製品を再設計した」と答えた。「元の性能目標を満たさない可能性のある代替部品への移行」(27%)や、「開発中の設計数の削減」(25%)も挙がった。「プロジェクトまたは製品を完全に中止した」と答えた人は18.3%おり、関税が企業のイノベーションや市場投入のタイミングに直接打撃を与えていることが分かる。

 こうした事態を受け、企業はサプライチェーン戦略の見直しを迫られている。最も多い対策は「在庫水準/緩衝在庫の引き上げ」(37.9%)だった。次いで、「中国のサプライヤーへの依存脱却」(31.0%)、「中国以外の地域(東南アジアなど)での調達、製造の増加」(30.5%)が続く。中国に関する懸念が挙がっているのは、2025年初頭に米国政府が中国製品に対して追加関税を課し、その後も税率が変動したことがある。こうした政治的な予測不可能性が、企業の「中国離れ」を加速させているとみられる。

 EETech Groupの調査担当ディレクターであるテラ・グレッドヒル氏は「関税は単なる調達費用の問題ではなく、部品の再設計とサプライチェーンの再構築を企業に迫っている」と指摘する。関税という地政学リスクが、もはや経営層だけの問題ではなく、現場のエンジニアの設計思想や開発プロセスにも影響するということだ。

 レポートは、今後のサプライヤーには安定した調達期間、グローバルな調達選択肢、積極的な設計支援といった「安定性」と「透明性」の提供が不可欠だと結論付けている。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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