Linuxに移行したいユーザー、止めたい情シス “対立”が生まれる構造とは:Windows 10サポート切れも契機
Windows 10サポート終了も契機となり、Linuxへ移りたいユーザーと慎重な情シスの溝が広がっている。この対立はなぜ生まれ、どこへ向かうのか。
クライアントOSとしてのLinuxが静かに存在感を増している。Statcounterのデータを見ると、世界のデスクトップOS市場におけるLinuxのシェアはここ数年で約4%前後を推移し、米国では一時5〜6%台に達した時期もあった。決して多数派とは言えないが、「選択肢の一つ」として意識される場面は確実に増えている。
さらに、Windows 10のサポート終了の中で、Linuxを改めて比較対象に入れる企業も増えつつある。強制的にOSを入れ替える局面が訪れたことで、「この機会にWindows以外も検討して良いのでは」と口にする利用者が増えたためだ。情報システム担当者にとってはうれしい話ではないが、現場で静かに始まった動きである。
一方で、企業の現場では妙な緊張が続いている。エンドユーザーは「次はLinuxでもいい」と軽く言うが、情シスは「全社移行は厳しい」と表情を曇らせる。単なる好みの問題に見えて、背景には役割の違いが濃く反映されている。本稿では、TechTargetジャパンとComputer Weeklyの報道を手掛かりに、この対立がどこから生まれているのかを整理する。
Linuxを使いたくなる理由
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Linuxの支持が増えるわけ
エンドユーザー視点で考えると、Linuxに引かれる理由はいくつかある。まず、環境を自分で調整しやすい点だ。ウィンドーの挙動を変えたり、不要なサービスを外したり、軽いデスクトップ環境に切り替えたりと、設定が自分の意思に素直に反応する。こうした自由度は、Windows特有の“OSに歩調を合わせる感覚”とは対照的である(出典:Windows愛好家が驚く「Linuxこそ本当に自由だった」の深い理由)。
また、Windowsの小さな不満が積み重なると、別の選択肢に目が向きやすい。強制アップデート、設定画面の分散、突然の通知。日々の作業のテンポが乱れると、Linuxの素直な動作が魅力に見える(出典:真に自由なLinuxが教えてくれる「Windowsに感じる不足感」の正体)。
近年のLinuxデスクトップは、昔のように“詳しい人しか扱えないOS”ではなくなった。主要ディストリビューションはUIを整え、アプリ導入も簡単になった。「Docker」や「Visual Studio Code」といった開発ツールとの相性も良く、触ってみると「案外いける」と感じる人が多い(出典:「WindowsをやめてLinuxに移行」を試したくなる”お手軽な理由”とは)。
情シスがLinuxに慎重になる現実
一方の情シスは、まったく別の悩みを抱えている。数百台、数千台の端末を管理する立場では、自由度は“乱れやすさ”につながる可能性がある。WindowsはActive Directory、グループポリシー、資産管理、更新管理といった統制の仕組みが揃っており、企業ITの“骨格”として使われ続けてきた。Linuxで同じ水準の統制を実現するには、追加の設計が必要である(出典:「Windows派」「Linux派」を分ける決定的な違い)。
互換性の問題も無視できない。一般的なオフィスアプリは代替可能だが、業務システムにはWindowsでの利用を前提とした十年以上前のアプリが残り続けている企業が少なくない。動作保証を求められるのは情シスであり、単純にアプリを入れ替えれば済む話ではない(出典:「Windowsが好きな人」「Linuxにハマる人」を分ける根本的な違い )。
Windows 10のサポートが終了し、情シスの慎重姿勢は強まっている。Windows 11はハード要件が厳しく、アプリ互換性の検証にも時間がかかる(出典:IT departments face huge Windows 10 support bill )。こうした状況で「Linuxも選択肢に入れよう」と声が上がっても、情シス側はテストや棚卸しで手一杯になり、判断の余裕がない。
評価軸が違うことによる対立
エンドユーザーがOSに求めるのは、日々の作業がスムーズに進むことだ。アプリの動作、UIの好み、レスポンスの軽さ。これらは体感の差として表れ、Linuxの軽快さは確かな魅力になる。
一方、情シスは安定性と再現性を優先する。どの端末がどこまで更新されているか、設定にばらつきがないか、障害時に再現できるか。これらを守るために、統制の効きやすいWindowsを選ぶ判断は合理的である。
“自由度”という言葉ひとつを取っても、意味がまったく異なる。エンドユーザーにとっては「自分で変えられる自由」。情シスにとっては「変えられてしまうリスク」。この評価軸のズレが、両者の意見をすれ違わせる。
移行を考えるなら、何を押さえるべきか
対立を解くには、まず業務アプリの棚卸しが欠かせない。Linuxで動くもの、代替できるもの、ブラウザ化できる業務。書き出してみると、意外なほどLinuxでも支障のない領域が見えてくる。
次に運用体制の整備である。Linux端末を一部に導入するなら、更新管理、端末統制、サポート範囲を明確にする必要がある。ここを曖昧にすると、数カ月後には“誰のPCがどの状態か”が分からなくなる。
現実的な落としどころとして、混在環境を採用する企業が増えている。開発部門だけLinuxを許可し、一般部門はWindowsを維持する。こうした分離モデルは無理がなく、情シスにも負担が少ない。“全員同じOS”という発想を一度外すと、選択肢が広がる。
対立から最適化へ
Linuxを使いたいエンドユーザーと、Windowsを維持したい情シス。両者の立場にはそれぞれの筋がある。OS選定は“優れているかどうか”ではなく、業務と体制に適しているかどうかで決まる。
Linuxが正しい場面もあれば、Windowsでしか成立しない業務もある。重要なのは、どちらの立場も「なぜそう考えるのか」を共有し、段階的に導入範囲を調整することだ。そうすれば、対立は自然と“最適化の議論”へ変わっていくだろう。
(※)本記事はTechTargetジャパン、ComputerWeeklyなどの記事を基に、注目のITトレンドを紹介しています。
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