“VPN vs ゼロトラスト”情シスが見落としやすい3つの盲点:仕組みと思想を整理
VPNの脆弱性が目立ち始め、ゼロトラストへの移行を検討する企業が増えている。両者の仕組みと思想を整理し、情シスが見落としやすい3つの盲点を解説する。
テレワークが一般化し、クラウド利用が進んだことで、企業のアクセス制御は転換点を迎えている。VPNは長く標準的な手段として利用されてきたが、装置の脆弱性、性能劣化、証明書更新の負荷など、情シスの現場には悩みが積み重なっている。VPN装置の脆弱性は、相次ぐ企業のセキュリティインシデントの要因の1つとも指摘されている。一方でゼロトラストが注目を集めるが、「VPNと何が違うのか」「置き換えがどこまで必要か」という疑問も多い。ここでは、VPNとゼロトラストの違いを整理し、情シスが見落としやすい3つの盲点をTechTargetジャパンやTechTarget記事から振り返る。
内部ネットワークが丸ごと危険にさらされる
VPNは、企業ネットワークを“内部”と“外部”に分け、内部は信頼できるという境界モデルを前提にしてきた。利用者はVPN接続によって社内ネットワーク全体へ広くアクセスでき、必要なシステムを利用する構造だ。この仕組みはオンプレミス中心の時代には合理的だったが、クラウド利用が主流になると、接続経路の迂回や性能低下が発生しやすい。さらにVPN機器に脆弱性が見つかった場合、その機器自体が攻撃の入口になり、広い権限が付与された内部ネットワークが丸ごと危険にさらされる。
ゼロトラストは、この境界の前提そのものを変える考え方だ。TechTargetジャパンはゼロトラストの本質を「社内外の通信とユーザーを常に検証し、必要最小限の権限だけを与える」仕組みにあると説明する(出典:「ゼロトラスト」を根付かせるには? 実装を成功させる“7つのステップ”)。ゼロトラストでは、利用者の身元確認、端末状態、アクセス対象を細かく判別し、必要最小限の範囲に限定して許可を出す。ネットワーク全体に広く権限を与えるのではなく、アプリケーション単位で制御が行われる点がVPNとの大きな違いになる。
情シスが見落としやすいVPNの最初の盲点は「クラウド利用が増えるほどVPNの構造的な負荷が増す」という点だ。VPNを経由してクラウドサービスへ接続すると、通信が社内ネットワークを迂回し、回線が混雑しやすくなる。Zscalerの2025年の調査では、92%の組織がVPNのこうした脆弱性からランサムウェア攻撃が発生する可能性を懸念している(出典:Zscaler ThreatLabz 2025 VPN Risk Report)。クラウド利用が常態化した環境では、VPNの設計思想と実際の利用形態にずれが生じやすいと言えるだろう。
2つ目の盲点は「VPNの運用管理が想像以上に複雑で、情シスの負荷を増やしている」点だ。証明書の更新、装置のメンテナンス、利用者の追加や削除、障害時の切り分けなど、VPNは機器中心の管理が多く、運用が属人化しやすいとされている。TechTargetジャパンはVPNからゼロトラストへ移行する際の課題として、アクセスポリシー定義の複雑さを挙げている(出典:脱VPNからのZTNA移行が“言うほど簡単じゃない”のはなぜか)。VPNを維持し続ける場合でも、この構造的な管理負荷は避けにくいだろう。
3つ目の盲点は「ゼロトラストはVPNの単純な代替ではなく、防御の思想そのものを変える」という点だ。TechTarget記事では、VPN、ゼロトラスト、SDP(Software-Defined Perimeter)の違いが整理されており、ゼロトラストの導入は単にVPNの代わりを設置することではなく、防御モデルを根本から作り替える作業になると指摘する(出典:SDP vs. VPN vs. zero-trust networks: What’s the difference?)。
アクセス制御の前提をどう設計するか
他方、ゼロトラストの導入が自動的に運用を簡単にしてくれるわけではない点も注意が必要だろう。ゼロトラストの本質が「必要最小限のアクセスに絞ること」である以上、利用者の行動や端末の状態を継続的に把握する仕組みが必要になる。既存システムとの統合やポリシー設計といった新しいタスクも生まれるため、移行時の準備は慎重に進める必要がある。
VPNとゼロトラストの比較を踏まえると、情シスが意識すべきポイントは「アクセス制御の前提をどう設計するか」に尽きる。VPNは境界型の発想に基づき、接続後に広い権限を与える。一方、ゼロトラストはアイデンティティを基準に検証し、アクセスの範囲を最小に絞る。クラウドが前提となる現在の環境では、この構造的な違いが運用負荷や安全性に直結する。VPNの脆弱性や性能問題に対する不安が高まる中で、どの仕組みが自社の働き方やシステム構成に合うかを見極めることが鍵になる。
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