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「Excelのクセ強仕様」3選 問い合わせ対応で情シスを疲弊させるのは?見えないコストを減らすには

「品番が勝手に日付になる」「CSVが壊れる」。情報システム担当者の時間を奪うExcelトラブル。個人のスキル不足と諦めていないか。実は、ある設定と運用を見直すだけで、その問い合わせ電話を減らす方法がある。

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 「CSVファイルを開いたら電話番号の頭の0が消えた」「品番『1-1』が勝手に1月1日になった」――。こうした問い合わせに、情報システム部門はあと何回対応すべきだろうか。個人のリテラシー不足として片付けるのは簡単だが、それによって生じるデータの欠損や修正工数は、組織全体で見れば無視できない「見えないコスト」だ。本稿では、データ破壊や業務停止を招く「Microsoft Excel」の“お節介な仕様”を特定し、ユーザーに配布可能な回避策と、情報システム部門側で制御すべき設定項目を解説する。

Excelの行数制限でデータ欠落

 表計算ソフトウェアは、企業の意思決定を支えるデータの入り口であり、同時に出口でもある。その仕様を正しく理解せずに運用することは、時として組織に甚大な被害をもたらす。

 2020年、英国公衆衛生庁(PHE)で深刻なデータ消失事故が発生した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性者データを集計するプロセスにおいて、約1万6000件分のデータが欠落し、接触者追跡が遅れる事態となったのだ。原因は、旧形式のExcelファイル(.xls)が持つ「最大6万5536行」という行数制限だった。データ量がその上限を超えた際、エラー警告も出ずに超過分のデータが切り捨てられたのである(出典:Track and trace: please call in the IT experts)。

 この事例は、ツールの仕様限界を知らずに基幹的な業務フローに組み込むことの危険性を示している。情報システム部門が直面する日々の問い合わせも、本質的にはこれと同じだ。「仕様だから仕方がない」で済ませるのではなく、仕様が引き起こすトラブルを未然に防ぐための「ガードレール」を設置することが、情報システム部門の負荷軽減と組織のリスク管理につながる。

【対策1】「勝手に日付になる」をシステム設定で根絶する

 問い合わせで特に多いのが、Excelの自動データ変換機能にまつわるトラブルだ。ユーザーが「1-1」や「1/2」といった値を入力したり、それらを含むCSVファイルを開いたりした際、Excelは親切心からそれを日付形式に変換することがある。しかし、品番や座席番号として入力したユーザーにとっては、これは明らかなデータ破壊である。

 従来、情報システム部門は「セルの書式設定を『文字列』にしてから入力してください」と案内してきた。しかし、この手順はユーザーに定着しにくく、再発を繰り返すのが常だ。

 この問題に対し、Microsoftはついに恒久的な解決策を実装した。Windows版およびMac版のExcel(Microsoft 365サブスクリプション版、バージョン2309以降など)には、「自動データ変換」を制御するオプションが追加されている(出典:Control data conversions in Excel for Windows and Mac)。

 情シスが推奨すべき設定手順は以下の通りだ。

  • 「ファイル」タブから「オプション」を開く。
  • 「データ」カテゴリーを選択する。
  • 「自動データ変換」セクションにある以下のチェックボックスを必要に応じてオフにする。
    • 「連続する文字と数字を日付に変換する」
    • 「先頭のゼロを削除して数値に変換する」など

 特にCSVファイルを頻繁に扱う部署に対しては、この設定変更を周知するか、あるいはグループポリシーなどで標準化を検討することで、「勝手に変換された」という問い合わせを根本から断つことが可能になる。

【対策2】「CSV直開き」を禁止し、Power Queryを標準化する

 前述の設定変更で手入力時のトラブルは減らせるが、システムから出力されたCSVファイルを取り込む際のトラブルは依然として残る。CSVファイルをダブルクリックしてExcelで開くと、Excelは自動的に列の型を推測し、変換してしまうからだ。その結果、電話番号の頭の「0」が消えたり、長い商品コードが指数表記(例:1.23E+10)になったりして、保存時に元の情報が失われる。

 この問題に対する従来の解決策は「テキストファイルウィザード」の使用だったが、手順が煩雑でユーザーには敬遠されがちだ。現在、情報システム部門が推奨すべきは「Power Query」の活用である。

 Power Queryを利用すれば、データの取り込み時に各列のデータ型(テキスト、日付、数値など)をGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)で明示的に指定できる。さらに重要なのは、その取り込み手順(クエリ)が保存される点だ。月次レポートなどで同じフォーマットのCSVを処理する場合、ユーザーは2回目以降、ファイルを指定して「更新」ボタンを押すだけで、型変換のミスなくデータを取り込めるようになる。

 情報システム部門は「CSVはダブルクリックで開かない」というルールを徹底すると同時に、Power Queryによる取り込み手順をマニュアル化して配布すべきだ。これだけで、「データが壊れている」という調査依頼を大幅に削減できる。

【対策3】「重い・開かない」ファイルのトリアージ基準を作る

 「共有ファイルが開かない」「保存に時間がかかる」「動作が重くて仕事にならない」。こうしたパフォーマンスに関する問い合わせも、情報システム部門の時間を奪う大きな要因だ。原因の多くは、肥大化したファイルサイズ、過剰な条件付き書式、あるいは複雑すぎる計算式にある。

 情報システム部門が都度ファイルを預かり、修復や軽量化を行うのは対症療法にすぎない。根本的な解決には、Excelで扱うべき業務と、そうでない業務の境界線を明確にする「トリアージ基準」が必要だ。

データ量が多すぎる場合

 数万行を超えるデータを頻繁に計算・集計しているのであれば、それはExcelではなくデータベースやBIツールの領分だ。前述のPower Queryや「Power BI」への移行を促す必要がある。

同時編集や入力フォームとしての利用

 複数のユーザーが同時に編集を行い、頻繁に破損や競合が発生しているなら、Excelブックの共有機能に固執すべきではない。Microsoft Power Appsなどを利用して、Excelデータをアプリ化することを検討すべきだ。Power Appsを用いれば、Excelにあるデータを基に、ローコードで入力フォームや閲覧アプリを作成できる(出典:Explore low-code features, examples in this Power Apps tutorial)。

 「何でもExcelでやろうとする」現場に対し、情報システム部門は「ここまでならExcelでOK、これを超えたら別ツール」という明確な基準(損益分岐点)を提示し、適切なツールへ誘導する役割を担うべきだ。

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